遺骸
二学期 初日
自分の受け持っているクラスから、死者が六人も出た。
長期休業中の出来事とはいえ、学校側も問題視しなければならない。
学校は新学期早々、明日から臨時に休校するという判断を下した。
生徒たちにそれを伝えたが、いつもは休校に大喜びの生徒たちも、事情が事情なだけあって、みんな沈んでいた。
一人、ひときわ暗い顔をした生徒がいた。
被害にあった七人のうち、死んだ沼沢や現在重症の連城と、直前まで会っていた五十嵐だ。
容態は安定したものの、いまだに目覚めない連城の病室に、事件から連日、通っているらしい。
三井たち四人は、重体で病院に運ばれ、しばらく入院した後、死亡した。
連城がそうなるのが、怖いのだろう。
五十嵐は、ギリギリのところで、連城を助け出したらしい。
周囲の人間の注意を振り切って、一人、炎の海に飛び込んだそうだ。
連城を探すのに必死で、まさかその場に居るはずのない木森や尾田が居たなんて想像がつかなかったと、二人の死体が出てきてから言ったそうだ。
確かにそうだ。
捜査の状況はわからないが、何故あの二人はそこにいたのか……。
「おい、五十嵐……。」
できるだけ優しい声で話しかける。
五十嵐は虚ろな目で見上げてくる。
五十嵐の目は、いつだって鋭く光っていた。
しかし、あの眼光が、今は、ない。
「お前は何も悪くないだろ?むしろお前は、沼沢の発見を早めたし、連城を救ったんだ。それはすごいことだろ?だから……。」
「私が悪いんです。」
小さな声で、五十嵐は呟く。
今朝登校してから。
いや、連城が被害にあってから。
ずっとこの調子らしい。
そしてまた五十嵐は俯いてしまった。
学校の端。
よく連城たち五人が集まってた、あまり人が来ない階段。
その下の、冷たい廊下に寝転がる。
仰向けの姿勢のまま、階段を見上げた。
本来、今頃、きっと、ここで。
そう思うと、ゾッとする。
けれど。
私は間違っていた。
まさか尾田が、というか。
木森も。
いや、そもそも、他の四人に関しても。
ああ、本当に。
廊下の冷たい感触を感じながら目を閉じる。
憎くて憎くて仕方がない。
何もわからなかった自分が。
目測を誤った。
そのせいで。
守るべき連城を傷付けた。
ああ、連城。
心の優しい連城。
人を疑うことを知らない純粋な連城。
連城がなんでこんな目に遭わなければいけないんだ。
連城が何をしたって言うんだ。
連城の何が悪いって言うんだ。
ポケットから紙切れを3枚取り出す。
ひとつは、木森のポケットから出てきた、灯油臭い紙切れ。
ひとつは、尾田が持っていた、焦げた紙切れ。
ひとつは、自分が一番最初に作った、綺麗なオリジナルの紙切れ。
そのうちの二枚が手に入ったのは、幸運だった。
もし、火事現場から運び出された二人の身元確認のために、最初に声を掛けられたのが自分ではなかったら。
他の人に気付かれる前に、抜き取ることなんて出来なかったかもしれない。
そして。
自分が夏休みの始めに作った、オリジナルのリストを眺める。
パソコンで打ち出した文章。
載ってる名前は、四人と、自分。
尾田のリストは、本来自分の名前があった部分に修正テープが貼られ、上から連城の名前が手書きで書き込まれている。
他の四人の名前の上には丁寧な二重線。
木森のリストは連城の部分もパソコンで打ち出されたようだ。
きっと尾田が改めて作り直したのだろう。
尾田の奴……勝手に……。
憎々しげにリストを睨む。
だが、これは、気づけなかった自分の落ち度だ。
連城を傷付けたのには間違いない。
憎くて仕方がない、自分自身を。
さて、どうしてやろうか。
練炭、刃物、縄、水、鈍器。
凶器の候補は山ほどある。
連城を傷付けた奴の生き残り。
憎い憎い自分自身。
静かな廊下に、携帯の着信音が響く。
寝転んだまま、携帯を開く。
相手の名前に驚いて。
慌てて耳に押し付けた。
「もしもし!連城ママ?」
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