危害
遠退いていく尾田の足音と、勢いよく燃え上がる炎の音を、連城はぼんやりと聞いていた。
立ち上がろうとしようにも、上手く身体が動かない。
周囲の温度が上がっていく。
のたうち回る木森を助けてやりたいけれど。
俺を襲った木森だけれど。
なんとかしてやりたいけれど。
ああ、指一本動かすのも難しい。
頭に残る鈍い痛みがなかなか引かない。
もう耳には炎の音しか聞こえなかった。
俺、ここで死ぬのかな。
なんで死ななければいけないのかな。
俺、なにか悪いことしたのかなぁ……。
だんだん、意識が薄れていく。
自分を呼ぶ、五十嵐の声が聞こえた気がした。
炎の中に現れた五十嵐を目で捕らえたところで。
連城の意識は途切れた。
「ああ、あぁあぁあ……!」
連城の母親は、燃え上がる炎に、為す術もなく立ち尽くしていた。
元の自宅のほうからの煙臭さに慌てて新居を飛び出すと。
燃えていたのは紛れもなく。
息子がまだいる自宅。
「あぁあぁあぁあぁあぁあぁあっ!」
アパートの二階、燃える自宅を見て。
膝から崩れ落ちた。
周囲の野次馬がざわついている。
「……おい、あれ!さっきの!」
誰かが声を挙げる。
つられて燃える自宅を見上げる。
「うっおぉぉおおおおおぉおおぉっ!」
叫びながら自宅から飛び出してきたのは。
息子を背負った、女の子だった。
「いっちゃん!」
知ってる顔に、声を挙げる。
連城の母親に気付いた少女は、アパートの階段を転がるように駆け降りる。
「連城ママ!連城が!連城!連城が!連城が!連城!連城が!」
あちこちに火傷を負いながら、気が動転したように息子を連呼する彼女を見て。
ホッとすると同時に、不安もよぎる。
少女は息子を、そっと地面に下ろす。
「おい!さっき飛び込んだ子も、息子さんも生きてたぞ!」
「救急車!消防も早く呼べ!」
「誰か水!氷でもいいから持ってこい!」
集まった人々が騒いでいる。
「連城……連城、なあ、連城……連城……おい……。」
少女が息子の身体を揺らす。
息子の目は開かなかった。
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