侵害
自分に向かって駆け出した木森を、連城は然り気無く居間に誘い込む。
引っ越しのおかげで、居間にはほとんど何もない。
狭い廊下よりも木森の動きが大きくなり、隙も必ず、できるはずだ。
武闘については、自信があるわけではない。
だが、今は、やるしかない。
居間なら最悪、窓から飛び降りて逃げることができる。
ここは二階だから、何とかなるかもしれない。
両親の部屋に向かわなくてよかった。
あそこは窓がない上に、出入り口がひとつしかない。
だが、逃げるのは最終手段だ。
ここで木森を止めることができれば、五十嵐には……。
ヒュッと空を切る音がした。
Tシャツの裾がバットに触れていた。
怖くない、と言えば嘘になる。
誰も死んでいないとはいえ、木森は四人も襲っている。
木森は叫びながら、相変わらずバットを出鱈目に振り回している。
怖くて怖くて仕方がない。
けれど。
「う、わぁあぁあぁあぁあ!」
木森の顔面を目掛けて拳を突き上げる。
連城の拳は。
木森の顔に当たらなかった。
頭が真っ白になる。
拳は木森の顔の真横を通過していく。
その拳に引かれるように、連城の足は動き。
そして。
連城は正面から、身体ごと木森と、衝突した。
背の大きい木森の、ちょうど胸あたりに、意図せず、頭突きをする。
後頭部が木森の顎にぶつかり、木森は後ろによろめいた。
衝撃で連城もふらついたが、木森の右手が視界が入る。
木森の顔面を素通りした右手とは反対の。
左手で金属バットをもぎ取って放り投げた。
「あっ……。」
居間の入口のほうまで飛んだバットを、木森は目で追う。
注意の逸れた木森に。
今度は正確に。
「うっ、あぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!」
頭部を目掛けて拳を叩き込んだ。
小さく、玄関のドアが開く音が、聞こえた。
まずい。
五十嵐が帰ってきた。
木森はふらついているものの、まだ、なんとか、立っている。
逃げるように、言わないと。
五十嵐は、巻き込めない。
「いがら……。」
俺は呼びかけて、止まる。
居間に入ってきたのは。
五十嵐ではなかった。
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