憤慨
昼過ぎ。
ふと思い出したように、五十嵐はバックから今朝の新聞を取り出した。
「ほら、お前、これが読みたかったんだろ?」
その記事の内容は、連城が気にしていて、五十嵐が子供ながらに必死に調査している、連続傷害事件についてだった。
記事を見た瞬間、連城は震え出した。
理由は当然、怒り。
「人を一体なんだと思ってんだよ……この犯人……。」
人一倍正義感の強い連城。
親友たちが巻き込またと聞いた時には、五十嵐が思わずひっくり返るくらい憤慨していた。
連城は数日前に被害者4人と遊んだばかりだった。
連城は4人を心から信頼していた。
五十嵐もその事はよく知っていた。
五十嵐がこの事件について必死に調べていたのは、そんな事情を知っていたからでもある。
「実は沼沢が被害にあう直前に、私、沼沢に会ってんだよね。」
缶コーラを飲みながら、五十嵐は沼沢の写真を指差した。
「そのあと、なんか沼沢が心配になってさ。沼沢のお母さんに電話したんだよね。……案の定、被害にあってた。」
五十嵐は、いつもつけている黒い腕時計をみた。
「ちょうど今ぐらいの時間だ。沼沢の家に行ったのは。」
五十嵐は連城をちらっと見た。
「お前、復讐しようなんて考えんなよ。」
その言葉に、連城は少し驚いた顔をした。
「なんでそんな事言うんだ?」
「いや、ただ何となく。釘を刺しておいたほうがいいかなって思って。あんまスッキリしないしな、復讐なんて。」
見事に考えを見抜かれた連城は、苦笑いするしかなかった。
……やっぱり五十嵐には敵わないな。
「さて、と……。」
五十嵐はショルダーバッグから黒い手帳を取り出し、開いた。
「一人目の三井は……ゲーセンか。」
「うん。」
「一人目の三井は四日前の夕方。
大通りのゲーセンで、階段から転落。
……横に写真とダーツの矢。」
「……。」
「二人目は……佐久良か。
ショッピングモールの映画館。これが三日前。
『サラリー part11』上映直前。
ニュースによると、飲み物の中に毒物が入っていたらしい。
佐久良の席に……写真とダーツの矢。」
「……。」
「それから……高島が三人目で一昨日。
午後の最初の『波』がでる時間。
市営プールで溺れてたのを、係員が引き上げたらしい。
近くで係員が……写真とダーツの矢を見つけたそうだ。」
「……。」
「最後が沼沢で昨日の昼過ぎ。
自宅のリビング、学校の近くのマンションの二階。
ガス漏れで倒れていたそうだ。
家のドアに……ダーツの矢と写真。」
「……そうか。」
「……お前、本当に復讐なんてすんなよ。」
手帳を閉じて、コーラを飲みながら、五十嵐は連城を見た。
「そんなこと考えてないよ。」
連城は微笑みながら言う。
が、五十嵐の目をまっすぐ見ることはできなかった。
五十嵐は連城の言葉を聞いて、目を細める。
「じゃあ、ポケットに入ってるナイフ、出せよ。」
五十嵐は、昔から変わらない、鋭い目つきで連城を睨んだ。
他人の心を見透かすような目。
連城はこの視線に弱かった。
「わかったよ。」
連城は観念して、ジーンズのポケットに入っていたナイフを段ボールの山に放り投げた。
「これでいいのか?」
「それでいいんだよ。」
五十嵐は上目遣いで笑った。
連城はこの視線にも弱かった。
犯人に突き付けるはずだったナイフは、どうやら段ボールに刺さったらしい。
サクッという小さな音がした。
そのナイフを五十嵐は段ボールから抜くと、自分のバックに突っ込んだ。
……見えた。
連城の住んでいるアパートが。
連城家は、明日には引っ越すらしい。
あのマンションに引っ越されると、複雑なセキュリティやら、オートロックやらがかかって、何かと厄介だ。
しかし、あの古びたアパートなら、きっと簡単に侵入できる。
……リストを見る。
連城の名前を指でなぞる。
思わず笑みがこぼれる。
ああ、楽しくて仕方ない。
ああ、ようやくだ。
もうすぐだ。
これで、やっと……。
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