互い




夏休み 残り3日




正午……より、少し前。



連城は大きな欠伸をした。




「呑気だな、相変わらず。それが人に宿題やってもらっている人間の態度か?」



五十嵐はそう言って笑う。





「だってわかんないもん。それに数学は俺の将来には必要ない。俺の脳みそは古文でできている。」



連城は床に寝転びながら言う。




「あのなぁ……。まったく……。」



五十嵐は連城の宿題をしながらまた笑った。





連城と五十嵐は幼なじみ。


小学校入学時から一緒で、今でもよく遊んでいる。


クラスも部活も一緒。


あまりにも一緒にいる時間が長いため、迷惑な噂が流れることが度々あったが、二人は気にしていなかった。



そして、連城には、そんな噂を笑い飛ばせるほどの人望があった。




連城はスポーツ少年。


明るくて、元気がいい、クラスのムードメーカー。



クラスの中心にいつもいる、いわゆる人気者という括りに入る。




国語……その中でも古文にかけては学年一位の連城だが、他の科目に関しては、一切やる気も出さない。


教師にはその点について呆れられもしているが、そんな短所も愛嬌で許されてしまうような、そんな少年である。









二人は今、連城の家にいる。



少々古びたアパートの二階。




連城家は明日、すぐ隣に出来たマンションに引っ越すことになっている。


そのため、家は段ボールだらけだ。


連城の部屋以外は、もうほとんど何もない。


連城の部屋も、残るのは使わなかった空の段ボールだけだ。



朝のうちに、荷物は全て新居に運んでいた。





引っ越しの準備の為、連城の家族は全員出掛けていた。



父親は、色々と手続きをしに、どこかへ行ったらしい。


説明されたような気はするが、連城にはよくわならなかった。



母と姉と弟は、新居で荷物整理をしている。


自分は元の家の掃除を任されていた。




何もなくなった我が家。



自分がずっと住んでいた家が、妙に寂しく感じられた。



今日五十嵐を呼んだのは、そんな理由もあったりする。




早朝荷物を整理した時、昔のアルバムが出てきた。


そこに写ってる五十嵐を見て、何故かどうしても逢いたくなった。



別に遠くに引っ越す訳でもないし、学校が変わる訳でもないのに、無性に悲しくなって。



気が付くと五十嵐に電話していた。





それを聞いて五十嵐は、電話越しに、いつものように笑っていた。





「私なんかでよければ、ずっと側にいてやるよ。」




……やっぱり五十嵐といると安心する。



昔から五十嵐には助けられてばかりだ。






「連城といると落ち着くな。昔からそうだ。お前といると楽しいよ。」


五十嵐はそう言うが。





むしろそれはこっちのセリフだよ、と思いながら連城は優しく微笑む。






「疲れた!連城、終わったよ。」



連城が一ヶ月放置していた夏休みの宿題を段ボールの空き箱の上で黙々とこなし、30分で終わらせた五十嵐は、連城の横に座った。





目があった瞬間、二人同時に笑い出した。






……やっぱり五十嵐といると楽しい。






「そういや、連城。宇田川さんとはどうなったの。」



「……別れた。」



いきなり彼女……いや、元彼女の名前をだされて、すこしドキッとしてしまった。




五十嵐は別れた理由を聞いてこなかった。




実はフラれた理由が、五十嵐の存在だったりする。





『連城君、他に好きな人いるみたい。』


この前、宇田川に言われた言葉だ。



連城はその言葉を否定できなかった。





二人はそのような感じの関係。





別に付き合っているとか、そういう訳でもないけれど。



お互いをずっと意識してるような、そのような雰囲気。





けれども一応、表面上は。





「仲の良いただの幼なじみ。」







ただ、それだけ。

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