被害
夏休み 残り七日
「……ああっ!ムカつくっ!クソッ!俺の車っ!」
ゲームセンターの2階。
三井はいつものレーシングゲームに挑んでいた。
今日は妙に調子がでない。
頭が熱くなりすぎて、どうにも手元が狂う。
胡散臭いオッサンがうじゃうじゃいるのも、近くでガキが騒いでいるのも、今日は全く気にならない。
それぐらい昨日の怒りは大きかった。
大好きなレースに集中できないくらいの、怒りと屈辱。
三井は唇を噛み締めて画面を睨む。
レース開始前のカウントダウンが始まり、三井はハンドルを握り直す。
ゲームが始まり、いつも通りトップを独走。
相手はコンピュータ3台。
カーブを曲がるとき、三井を黒い車が追い越した。
三井の頭に昨日の屈辱が蘇る。
そう、昨日も自分を追い越した、あの車。
三井はハンドルをきるが、力が入りすぎてスリップした。
止まったとき、三井は進行方向とは反対側を向いていた。
三井は画面を確認する。
もうすぐあの車がやってくる。
三井はしばらく考えると、画面を見て二ヤッと笑った。
あの車が目の前に来た瞬間、三井はアクセルを力強く、踏んだ。
当然、自分の車は目の前の車に衝突する。
しかし、それを見て三井はまた二ヤッと笑う。
横を他の車が通り過ぎる。
それでも三井はアクセルを踏み続ける。
三井を見て、近くにいたガキが「うわっ……。」と声をあげた。
三井を指さして、スキンヘッドのいかついオッサンが何やら言っていた。
それでも三井はアクセルを踏み続ける。
制限時間のカウントやら、逆走の警告やらが、大音量で響く。
それでも三井はアクセルを踏み続ける。
必然的に、三井は最下位でゲームオーバーになった。
しかし三井は不気味な笑みを浮かべ続けていた。
夏休みが終わるまで、あと一週間。
……そう、あと一週間だ。
一週間後が楽しみだ……。
七日後の事を考え、三井はまた笑う。
……ケータイを確認すると、午後5時55分だった。
中学生は5分後には、嫌でもゲームセンターを追い出される。
三井は渋々立ち上がった。
暇だ、と三井は思った。
何か楽しい事ないかなと考えた時、ちょうど階段の下にいるガキが目に入った。
三井のレースを見て、声をあげたあのガキだ。
「……ちょっと''遊んで''やるか。」
帽子をかぶったそのガキは、壁に寄り掛かって缶のコーラを飲んでいた。
とにかく暇だった三井は、暇潰し相手を見つけて楽しそうに口笛を吹いた。
軽くスキップしながら、階段を下りようとしたその時。
力強く背中を押された。
三井の視界がぐらりと歪んだ。
心臓が一回転するような感覚に襲われる。
体中に激痛が走る。
しかしその痛みも、すぐに感じなくなった。
景色が霞んで見える。
誰かの叫び声が聞こえたが、それも少しずつ小さくなっていく。
……そして何も聞こえなくなった。
人が階段から派手に転げ落ちたと聞き、ゲームセンター内の人間全員が野次馬として三井の周りに群がった。
三井はぴくりとも動かず、仰向けに倒れている。
救急車を呼ぼうとする人。
ただ単に呆然としている人。
携帯のカメラを構える人。
色んな人々が三井を取り囲む。
……そんな中、一人だけその流れを逆走していく人間がいた。
……目の前にある紙には、何人かの人間の名前がかいてある。
怪しい人物は、そのリストの「三井」と書かれた部分にマーカーで線をひいた。
ゲームセンターに駆け付けた救急隊員は、三井を運ぼうと、担架を持ってきていた。
三井を持ち上げようとしたとき、救急隊員は床にあった妙な物に気がついた。
無表情の三井の写真。
……いや、それ以上に隊員の目をひいたの
は。
……写真のど真ん中を貫いていた。
銀色のダーツの矢。
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