第10話 奇人たちの歓迎会2

 自らが用意した花嫁候補を紹介しようとしたスナイクだったが、横から話に割って入られてしまう。

 ゴシカやアンデッドやジジイどもの間を、するりとしなやかに抜けて現れたその声の主は、長くスラリとした手足の女性だった。


「Dr.レパルドだ」


 女性はそう名乗った。

 シャープかつグラマラスな体のラインと、きりっとした眼光は、先ほどのゴシカとはまた違った美しさを備えていた。

 スタイルを強調するかのように全身を覆った、白い豹柄のキャットスーツと、開いた胸元から見える褐色の肌は、見るものの目を奪う。

 たとえこいつがモンスターで、俺が人間だとしても。


「ワークリーチャー属ワータイガー門の、獣人だ。人間、貴様と結婚する。気軽にレパルドと呼ぶがいい。以上だ」

「ウォウウォウ!」

「モヂュー!」


 Dr.レパルドと名乗った女性は、キッと俺を鋭く睨み付けて、野獣たちの群れに紛れ込んだ。動物たちの吠え立てる声が、酒場を支配する。

 さっきは腐敗臭が強かったが、今度は獣臭が激しい。寄るな、寄ってくるな獣たち。獣臭い。舐めるな。牙を立てるな。

 うんざりしている俺の横で、ジジイたちが先程と同じく、口々に感想を漏らした。 


「なんとも簡単かつ、ストレートな自己紹介だねえ、ゴンゴル?」

「そうじゃのう、スナイク。まあ、あいつらしいワイ」

「グルーム君、今のが第二の花嫁候補、Dr.レパルドだよ」

「ゴシカが死んでるモンスターの代表なら、レパルドは生きてるモンスターの代表ジャな!」

「このダンジョンの野生生物たちを率いている上に、医者でもある。これも逆玉コース待ったなしのお相手だねえ。なにせ医者だよ、医者」

「逆玉……ねえ」


 俺はジジイたちに、生返事を返す。


「なんジャ、そっけないのう?」

「いやゴンゴル、これはあれだな。なあ、グルーム君? そういうことだろう?」

「……? 何だよ?」

「君はあれだね? 思ったよりも花嫁たちのレベルが高くて、ちょっと心が浮ついてるんだろう?」

「な、何言ってんだ! そんなバカなことあるわけねーだろ!」

「まあまあまあまあ」

「まあまあまあまあ」

「ニマニマすんなジジイども!」


 俺の一喝が聞こえていないフリをしながら、スナイクは話を進める。


「では最後に、わたしたちダンジョンマスターからの自信作、第三の花嫁候補を紹介するよ」

「おい、出てくるんジャ!」

「はい……」


 弱々しい声と共に出てきたのは、エンジのメイド服を着た女性だった。

 今まで出てきたゴシカやレパルドに比べると、顔立ちに華々しさはないものの、その姿は独特の魅力を持っていた。

 他の花嫁候補もダンジョンには場違いな感じだったが、この子は特に、場違い感が強い。

 服装も顔つきも体型も家庭的な印象が濃く、モンスターたちの中で非常に不似合いな、女性的安心感を放っている。


「エ・メスと、申します……。ご主人様のお世話を、させていただきたいと思っております……」


 エ・メス。そう名乗った女の子は、感情に乏しい声で、俺にそう告げた。


「エ・メスはのう、ワシらダンジョンマスターからの代表であり、ダンジョンを守るゴーレムジャ」

「ゴーレムとは言っても、主にわたしたちの世話ばかりさせてきたから、メイドゴーレムと言ったところだけれどね」


 紹介されたメイドゴーレムは、丁寧に頭を下げつつ、こう言った。


「今後は……エ・メスとでも、メイドとでも、おい、とでも、お好きにお呼び立てくださいませ。ご主人様……」

「あ、あ……は、はい」


 今までとのテンションの落差と、俺には馴染みのないその所作に、なんだか拍子抜けしてしまった。


「ところであのー……大旦那様。こちら、先ほど渡されたまま、持って来てしまったのですが……」

「ん? そりゃさっき作業中に渡したもんジャないか」


 エ・メスがゴンゴルにそっと差し出しているのは、爆弾だった。

 導線に火がついている。


「オイオイそれ、火が! 爆発するんじゃないのか?」


 俺の声を無視して、老ドワーフはエ・メスに伝える。


「せっかくのお披露目の時間ジャと言うのに、そんなもん持って来てはいかんワイ。処理してくるんジャ!」

「処理と申しましても……どうすればよろしいでしょうか……」

「あー、そうジャな。お前さんにはワシらもよく知らん機能がまだいろいろあるジャろ。それで適当になんとかせい」

「まだ使っていない機能……ええと……ええと……」

「特に方法が思いつかなければ、腹の中にしまって、しばらくあっちに行っとれば良いワイ」

「はい……」


 言われるがままにそのメイドゴーレムは、爆弾を丸呑みした。


「えっ、食べた?」

「…………」


 俺の驚きに軽い会釈で応えたメイドゴーレムは、そそくさと酒場を出て行く。

 その子が酒場を出た直後だった。すぐさま爆発音が響き渡り、洞窟内は轟音に揺らいだ。


「……今あれ、確実に爆発したよなおい。おい、ジジイども、おい」

「なあに、あれしきの爆弾ではエ・メスは死なんワイ。あいつの腹は頑丈ジャからな」

「頑丈とかそういうレベルじゃないんじゃないのか?? あの子の腹はシェルターか!?」

「もしあの爆発でどこかが壊れたとしても、また修理すればいいだけだよ。ついでに新機能でも付け足してね。イッヒッヒ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る