第2話 忍び近現代史





世界観説明の話です。

説明不足な割に、無駄に長いので読み飛ばしてもらっても大丈夫です。

後々設定が分からなかったら、読み返してもらえればと思います。









 忍びと言うものが世に広く知れ渡った、歴史に大きく介入しだしたのはおそらく戦国時代だろう。


 戦国と言う果てしない戦乱を見事なまでに勝ちぬき、後の最強の支配体制である江戸幕府を築いた徳川家康は忍びを有効活用したことで知られている。

 忍びとは隠密、つまりスパイであり、そのうえで脅威的な身体能力と潜入、破壊工作、暗殺など戦争に関するあらゆる技術をを持った特殊部隊である。

 現代の特殊部隊も、特にアメリカのグリーンベレーといった敵地潜入部隊など、彼らは戦闘のプロであるだけでなく、戦場に溶け込み、現地人を取り込むことで情報を掴み、味方を増やし、そういった情報の力を重要視することにより重点が置かれている。そのうえで卓越した最小限の戦闘能力を的確な場面で行使し、最大限の効果を得る。これが現代の特殊部隊である。


 その力を中世時代に見出し活用していたのが忍びであり。徳川のみでなく、当時の強力な武将は大方忍びのもたらす情報力を評価し活用していた。さらに火縄銃や大砲などの飛び道具の使用も含めて、戦国時代がいかに軍事的に洗練された時代であったかは、日本国内だけでなく当時の世界全体を見ても極めて高い水準であったことがわかる。

 そのような修羅の時代である戦国時代に育まれた忍びも、幕府やその他の大名に仕えるようになり安泰な地位を得たのであったが、江戸幕府二百年以上に渡る平和な時代は幸せなことに軍事の衰退を招いた。

 江戸時代の間に衰退した忍びの家柄は、幕末や明治維新の時代にはもはや着いていくことが出来ず、その動乱期に名を馳せる者もいなかった。幕府の解体、廃藩置県と大名の消滅と共にその役目を解任され、自然消滅していったというのが歴史の語るところである。


 しかし、それは通説であった。

 戦国時代の遥か昔より存在していた忍びのいくつかの集団は、平和な時代になれば自らが衰退することを当然予測しており。それを防ぐために世に隠れ山や谷に潜み、ひたすらにその技を磨くことを怠らなかった。

 過度な軍事力、諜報組織の存在は平和な時代にはむしろいらぬ諍いを誘発するということから幕府や大名はその存在をひた隠しにし、忍びの集団も裏に隠れることは最も得意としていたので、むしろ好むところであった。

 幕末、明治維新にかけて歴史の裏で壮絶な闘争を繰り広げた忍びの歴史は、今ではまったく伝わっていない。

 新政府軍の側に付いた忍びの裏世界での勝利により、戊辰戦争は当初の戦力比を大きく覆して幕府軍の敗北と言う形で終わり、日本は近代国家へと急速に進んでいった。

 だが、明治新政府の本当の敵はイギリスをはじめとする欧米の勢力であった。

 当時の欧米列強。イギリス等の国は魔法使いを使い、影で様々な工作をする魔法機関をや魔導騎士団、教会の暗部などを有していた。

 帝国主義を支える力として、裏でいくらでも汚い工作を繰り返すその異能集団は、列強のトップの間では暗黙の了解とされていたが、表向きには隠されていたのである。

 それはまさに忍びの組織と同じではないかと理解していた明治政府は、旧幕府側の忍びも含めて登用し。列強の魔法機関と対抗できるような強力な忍び機関を設立したのである。

 その力は列強の異能機関と同等か、優る部分も多くあった。当時の日本の国力にはむしろオーバーすぎる力だったのである。

 その時代、最強と言われた英国の王立魔法機関でさえ二百名程度の陣容であり、純粋な戦闘要員はその二割程度でしかなかった。対して日本の忍び機関も百名を大きく越える構成員を抱えており、戦闘員は力の差こそあれ五十名ほどいたのである。

 忍び機関は帝国陸軍や帝国海軍、政府直属や外務省など様々な組織に分かれ活躍し、日清、日露戦争での勝利に大きく貢献した。日本の近代化が成功したのは忍びの力によるところがかなりあったのではあるが、やはりそれは歴史の表舞台には、ほとんど一切出てこない。


 魔法使いなどの異能の世界に激震が走ったのは第一次世界大戦であった。

 欧州における大規模で長期的な全体戦争。国家のあらゆるものを投入し、国土や民衆の荒廃していく様は、おぞましいこの世の地獄であった。

 その各戦線に投入された異能使い達。

 これまで魔法機関などは列強の他の機関の異能者達と小競り合いをすることは多々あったが、それは言っても小競り合いであり限定された被害であった。

 日露戦争における日本の忍びと、ロシアの正教会暗部との戦闘は、極めて激しいものであったが、機関全ての人員を投入したものではなく、あくまで局地戦闘といったものであり、双方数人の犠牲が出ただけだった。

 それ以外での異能機関の働きとは、植民地での暴動鎮圧や裏工作といった比較的楽な仕事だけである。

 しかし、第一次世界大戦は各国の異能機関が総力戦を行い。自身と同等か、それ以上の相手と常にぶつかりあい潰し合った。異能者達は互いにその技術の粋をぶつけ合ったが、長い間かけて磨かれてきたその技は華々しい戦果を挙げることもあれ、むしろ一瞬で空しく散ることのほうが多かった。

 異能者の戦闘は一撃必殺を旨としており、戦闘になればどちらかが必ず死ぬ。最強の能力と謳われた戦士が取るに足らない異能力者に弱点を突かれあっけなく死ぬ。もしくは異能者以前の普通の兵士の銃弾に倒れ死ぬ。そんなことがむしろ多かったのである。

 高度な近代兵器とその物量が、古臭い魔術を使う異能者に勝利しつつあったことの現れである。

 欧州の各異能機関は戦乱の中で力を磨くというよりは急速に疲弊し、衰退していった。

 その世界情勢の中で比較的影響の少なかったのが、戦場から遠く離れていた日本とアメリカである。

 日本はイギリス側に立ち、応援として多少の戦力と共に忍びを欧州戦線に送り込んでいた。それは異能者同士の戦闘というものを現地で学ばせるためでもあった。魔法機関の犠牲を余所に、忍びは犠牲も少なく、その美味しいところだけを持ち帰った。

 アメリカは国力こそあれ、歴史上いたしかたなく異能機関後進国であり、イギリスを模倣した魔法機関は国力に比較してそれほど強力なものではなかった。

 よって、欧州の異能機関は未だ根強い勢力と底力こそあったものの、日本が頭一つ飛び抜けるまでになったのである。

 しかし、かつての大帝国が陰りを見せ、急進国が力を持つという、その大勢の変化はは日本を慢心させ、危険な方向に導くものだった。

 日本は植民地支配を進め。それを阻もうとする米英と仲互いを起こし、国際連盟を脱退した。

 日本がそれほど強気であった背景には、軍事力のこともあるが、忍び機関の力の優位も大きく影響していた。


 しかし、その時新たな勢力が着々と力を付けてきていたことに日本は気付いていなかった、共産主義の台頭である。

 第一次世界大戦を途中で抜け出し、帝政を崩壊させる革命を起こして成立したソビエト連邦。その世界初の社会主義国家は、ロシア帝国時代の正教会暗部をそのまま取り込み。さらにコミンテルンと呼ばれる国際組織の秘密工作部は、世界中の共産主義に共感する異能者を登用し、スパイとして各国に送り込んで陰謀を働いた。

 そして中国においても、中国国民党と中国共産党の戦いの中、包囲され戦いに敗れ敗走する共産党は、中国奥地の山岳地帯で、ある異能集団と遭遇する。

 中華八仙と呼ばれる最強の導術使い達である。

 八仙は紀元前より中国の様々な王朝に影響を与えてきた八人の仙人ではあるが。彼らは古代から現代に至るまでその伝えられる姿かたちをほとんど変えず、本当に何千年も生きているのか、実は別の人物に受け継がれているのかは謎のままである。

 ようするにほとんど妖怪的な存在であり、何千年何百年とかけて育まれてきた八仙の力は数こそ少ないが他の異能集団の比ではない。

 彼らは一貫して中華民族のために戦う志士であり。明時代の前、元の時代には野に下っていたが、モンゴル民族の支配を押しのけようと立ちあがった紅巾の乱に共感して加担し、明の建国に大いに活躍した。

 豊臣秀吉の朝鮮遠征の際に、強力な軍勢であり、忍びを駆使する日本の武士を相手に明への進攻を食い止めたのも八仙の力であった。この時の遠征に従軍した忍びは、八仙に会い当たってそのあまりの強さに恐れ慄いたと伝えられている。

 しかし、その後皇帝の数々の暴虐な振る舞いに失望し、再び野に下る。その後すぐに明は潰れ、満州族による清が立ったが、八仙は中国奥地へと退き、そこで再び仙人らしい厭世の生活を始めたのだった。

 世を捨てたとはいえ、八仙は清が欧州列強の前に無残にも倒れ、日本の台頭を許している状況を座して見つめていた。

 その時に中国共産党が運命か偶然か、不思議にも長征の途中で彼らの元にはからずやって来たのであった。

 人民の為の革命闘争という共産党の思想に共感し、彼らの味方となった八仙。その変幻自在の導術おかげで中国共産党は長征を成功させ勢力を盛り返し、中国人民の支持を得ていったのである。

 そして日本の忍びと、中華八仙は日中戦争において再び会いまみえることになったのであった。


 日本と中国との戦争は日本優位の中で終始続けられた。しかし八仙の破壊活動、諜報活動、そしてなにより欧米への宣伝活動により日本は外堀から窮地に追いやられ、やがて太平洋戦争として米英との戦争に突入し、敗北したのである。

 中国大陸において、中国国民党とソビエトの存在に多くの兵を釘づけにされたまま、東南アジアに広く伸びた戦線をアメリカの圧倒的物量に押し切られ、日本の軍は瓦解した。

 時代の流れとはいえ、軍事的拡大に走りすぎた事の当然の結末だった。

 アメリカに降伏した日本は、その後占領下の時代を迎え、軍は解体される。

 GHQが大日本帝国陸海軍と共に危険視し、なんとしても潰したいと考えていたのは日本の各忍び機関であったが、非力な魔法機関しか持たないアメリカに、忍びが易々と捕まるものではなかった。

 悲惨な負け方をしたとはいえ、本土決戦が無かったことから日本の忍びはまだ開戦前の半数程度の数は残っていた。

 しかし日本政府は、何としても忍びを抹殺しようとするGHQに対して「忍び機関はこの大戦においてほぼ全滅した」と主張し。人身御供として戦時中の忍び機関の長とも言える存在の、服部正吉を戦犯として差し出したのであった。

 そのあまりの秘匿ぶりに、忍びの居場所を発見できない力不足を感じ、GHQはついにそれ以上の追及をやめたのであった。

 そこには何らかの密約があったとも言われてはいるが、詳細については闇の中である。


 忍びは日本の政府やあらゆる国家機関から手を切った。完全に存在しない組織となった。軍の元にも、政府の元にも属さない、完全無色の存在となった彼らは、暗号名N機関と極めて一部の範囲で語られるだけになった。

 日本は軍事力を捨てた平和国家になり、その国に異能機関などはふさわしくない。その存在が知られれば国家が大きく揺さぶられるほどの問題となる。故にN機関はいかなる指揮系統にも属さない。総理大臣にも、天皇にもである。

 彼らはただ国家の安全と日本周辺国の平穏の為に、独自の判断で動いた。警察や自衛隊等の国家機関と協力し、その資産を借りることはあったが、あくまでその行動は自身の判断で行われた。

 戦後のN機関の働きは主に共産主義との戦いであり。中国共産党と戦い台湾に敗走する国民党を応援するために再び八仙と戦い。またソビエトKGBやGRUの異能部隊との小競り合いをし、そしてベトナム戦争においても影で暗躍したのだった。

 この頃に至り。日本のN機関がアメリカの国益とそれほど相違しないと判断した米国はそれを黙認し、CIA等の情報を売りつけ利用するなどの相互関係を築いたのだった。


 戦後の大勢として。

 戦前からあった組織である、イギリスの王立魔法機関やフランスのテンプル騎士団、ナチスの秘密異能部隊ゲシュペンスト、ソビエト連邦のGRU(軍参謀本部情報総局)異能部隊、アメリカの魔法機関などは、果てしない戦争の中で摩耗しきっていた。

 第一次大戦の後、ようやく訪れた平和の中でその勢力を回復しようとしていた各国の異能機関達は、僅か二十年ほど後に再び始まる第二次世界大戦に対面し。さらに激しい戦線に投入され、進歩した現代兵器の前に倒れ、使い捨てられていった。

 元々数十名から数百名しかいないその戦闘員達はまたたく間に数を減らし、終戦時には回復不可能な数にまで落ち込んでいた。

 イギリスは残存する魔法使いを新たな組織であるMI0(マジカル・インテリジェンス・ゼロ)として既にあった軍情報機関の中の一部門として組み込んだ。

 フランスの歴史あるテンプル騎士団はドイツ占領時下に自由フランス軍としてドイツと戦ったことを評価され、勢力は衰えつつもほとんどそのままの姿で対外治安総局に残っている。

 ドイツのゲシュペンストはそのほとんどが東ドイツに向かい、秘密警察シュタージの極秘部隊ツァーベラーとして再びドイツ国民を恐怖に陥れたが、ベルリンの壁崩壊後はドイツ連邦の暗部として、ツァーベラーのみ連邦情報局の中に極秘に存在している。

 正教会暗部から続くソビエトの魔術部隊もそのままGRUの極秘組織として残り。KGBの誕生後はそのうちの何人かが教官として異能力者教育にあたったが、KGBの主力となったのは新しい異能である超能力者達だった。

 ソ連崩壊後、KGBはそのまま連邦保安局に受け継がれ、GRUは名前も変更なく、どちらも大きく体制が変わったことは無い。

 アメリカの魔法機関も、その体質の古さが現代戦争に合わないと見なされ解体し。魔法使いの多くはコマンド部隊やグリーンベレー等の特殊部隊の極秘チームに組み込まれ、現在では海軍シールズや海兵隊フォースリーコン、そしてデルタフォースの中にも広く散在している。

 また諜報機関であるCIAの方はKGBと対抗するために超能力者部隊を養成しており。そのサイキッカーと軍の特殊部隊に移ったかつての魔法使いとの間で技術融合が進められ。さらに最新の軍事技術とも融合した、魔法、超能力、科学の力を取り入れた優秀な兵士の育成が組織を越えて行われている。

 その中で日本のN機関は実は未だに頭一つ以上飛び抜けた存在を維持し続けていた。

 N機関の人員は確かに戦争を通して減った。しかしその損害は欧州のそれよりも少なく、さらに忍者のみに伝えられる特殊な戦闘員育成方法により、その数は現在においてもそのまま維持されている。

 欧米各国の異能組織は未だに強力なN機関を羨んでいるが、N機関自体が日本を守ることに徹しているためにどうしても手を出せないという力関係だった。

 そのN機関すら凌駕するのが中国を統一した中華人民共和国の八仙の存在であったが。彼らは不気味なまでに対外的な活動を避け、中国の国力成長を待っていたが、ついに二十一世紀になり中国の経済的大躍進と共に、ようやくその重い腰を浮かせつつあるという状況だった。

 そしてさらに中東では、アメリカやソビエトが開発した異能促成ドラッグを使用したアサシン部隊の広範なテロ活動が始まり、再び世界が揺さぶられていく時代に入っていた。




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