六月第三週 火曜日 夜 失意の中 それでも
「そうか。昨日のあの時間は、家に居たんだ」
『うん。ごめんね。役に立たなくて』
俺は下宿先に帰ってから、すぐに緑さんに電話をして昨日のホテルのアリバイを確認した。
結果は聞いての通り。緑さんの謝罪を聞きながら、俺は自分の見通しが甘かったことを悟った。明日の決戦を乗り切るのは、きつそうだ。
「いや、気にしないで。ないならないで、しょうがないから」
だからといって、いつまでも沈んでばかりいられない。
「しかし、緑さんも災難だね。もうすぐ誕生日なのに、こんなことになっちゃって」
緑さんから聞ける情報はもうない。俺はそう判断し、世間話に話を切り替えた。
少しでも関係ないことを話すことで、緑さんにリラックスしてもらいたい、という思いもあった。
だが――
『え? 私、誕生日もう終わったよ?』
……え?
『どうしたの、和春くん? でも、和春くんも福良先輩の浮気相手って言われて、疲れてるんだよね』
緑さんには、既に福良先輩の件を話している。それを気遣ってくれるのはうれしい。
だが、さっき緑さんは何て言った?
「え、ちょっと待って。緑さんの誕生日って、今月だよね?」
『だから違うよ。Tw○tterのアカウント名にも使ってるよ? 気が付かなかったの?』
いや、気が付いている。
気が付いているからこそ、俺は花見の時、緑さんが今月誕生日なんだと思ったんだ。
『それにしても、東先輩ひどいよね。南さんっていう彼女がいるのに浮気するなんて。あんな人だとは思わなかった……』
「そ、うだね」
さっきの会話のズレが気になって、俺は生返事を返してしまった。
だが、緑さんは気にした様子もなく話を続ける。
『でも、南さんっていう美人な彼女さんがいるのに浮気したくなる相手って、どんな人だろうね』
「どんな人って、そりゃ……」
そこまで言って、俺は右手で自分の口を押さえた。
緑さんのアリバイを、昨日緑さんがどこにいたのかさえわかれば、緑さんが浮気相手だろうがなかろうがこの件は解決できる。
だから俺は、緑さんのアリバイを証明することにとらわれて、藤井先輩の浮気相手が誰か何て気にも留めていなかった!
そうだ。何も緑さんが昨日藤井先輩とラブホに『いた』『いなかった』を証明しなくてもいい。
……昨日藤井先輩とラブホに居た『誰か』を特定しても、緑さんの件はクリアできる!
『どうしたの? 和春くん』
「ごめん緑さん。いくつか変なことを聞くんだけど、答えてくれるかな?」
『え? う、うん。いいよ』
俺は緑さんにいくつかの質問をしていく。緑さんから回答が返ってくる度に、自分の中にあった、違和感の正体が見えてきた。
緑さんにお礼を言って、俺は電話を切った。PCの時計を見ると、もう日付が変わっている。
違和感は消えたが、思考がまとまらない。
でも、緑さんの件はこれで取っ掛かりはつかめた。後は俺の方だが……。
そこで渡部さんが解決策は『Noisy myna』にあるんじゃないか? と言っていたことを思い出した。
……息抜きにTw○tterでも眺めるか。
ニュース系のつぶやきを眺めつつ、サークルのメンバーのつぶやきを確認する。相変わらず、デフォゲの羅列が気持ち悪い。
と、つぶやきをチェックしていて、俺はある可能性に気がついた。俺はすぐに、マウスで画面をスクロールさせる。ニュース系のつぶやきのログも、全て洗い直した。
違和感の正体に気づいた俺はヘッドフォンを装着し、チャットアプリと、プログラミングをするためにエディタを起動させる。
「渡部さん!」
『何だへにゃチン野郎!』
「頼みがあるんだ! 力技でカッコ悪いけど、これしか方法はないと思うから……」
これは、デバックだ。プログラミングのデバックと同じだ。
今回、先輩たちの浮気相手は俺と緑さんだという結果が出力された。
これは、本来正しくない出力だ。エラーだ。この結果は間違っている。
なら、このプログラムにはバグが混入している。問題となっている箇所を特定し、どこが間違っているのか特定しなければならない。
プログラムを、今回の問題を精査しなくてはならない。
俺は渡部さんに協力してもらいながら、あるツールの作成を始めた。
平行して、緑さんと話した内容の裏づけを取るためにいくつかのサイトを確認する。
問題点を洗い出し、バグを潰す。
バグを潰すたびに、俺は正解の出力結果に近づいていった。
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