ゴールデンウィーク 合宿 初日 ビーチにて

 眩しさのあまり、俺は思わず目の前に手をかざした。

 自分の手で視界をおおったが、鼻腔に感じる潮の香りと足裏から感じる砂浜の砂利の感触が、俺が今砂浜にいることを教えてくれる。照りつける太陽の日差しが海パン一丁になった俺の肌を焦がすが、その痛さも今は心地よい。

「和っち! そっちいったッスよ!」

 夏輝の声が聞こえると同時に、俺の頭に何かがぶつかった。日差しをさえぎるためにかざした手が邪魔で、何が自分の頭にぶつかったのかがわからない。

 だが、その何かが当たった角度がよかったのだろう。思った以上の衝撃を受け、俺はバランスを崩して砂浜に大の字で倒れこんだ。倒れた痛みよりも、太陽に熱せられた砂浜が俺の背中を焼く痛みのほうが、強かった。

「もう! 何やってるんッスか!」

 大の字で寝転んだため、俺の視界をさえぎるものは何もない。夏輝の非難を浴びながらも目の前に広がった蒼穹に、一瞬圧倒される。横になったため見上げた空が平面的に感じられ、俺は空を飛んでいるような錯覚を得た。上に向かって飛んでいるのか下に向かって飛んでいるのかもわからない浮遊感の中、俺は手を伸ばそうとする。

 が、

「あっつ!」

 背中の熱さに耐え切れず、俺は奇声と共に体を起こした。

 髪の毛にまとわりついた砂を、軽く頭を振って払う。波音に誘われて右側に目をやると、空の代わりに現れた海という別の蒼色が、砂浜を優しく撫でていた。

「っていうか、和っち大丈夫ッスか? かなりいい音してビーチボール頭に当たってたみたいッスけど」

 夏輝の手を取り、俺は立ち上がる。

「な、中嶋くん、平気ですか?」

「ぶつかった時、なかなかいい音したわね」

 ネットの向こうから、本西さんと福良先輩が声をかけてくれる。相手チームには他にも二名。

「ごめんね! 大丈夫だった?」

「あははははっ!」

 先ほどサーブを打った大島さんが申し訳なさそうにしている隣で、小川先輩が俺を指差して爆笑している。

「大丈夫大丈夫。ちょっとボーっとしてて。っていうか小川先輩は笑いすぎですから!」

「あははははっ!」

 ……まだやめんかこの人は!

 宿に着いた俺たちは遅めの昼食を取り、水着を持ってきているメンバーは水着に着替えて浜辺に移動してきていた。海に来たのなら普通は真っ先に泳ごうという話になるかと思いきや、そうはならなかった。まぁ当たり前だろう。

 何せ我ら『エル』はフットサルサークル。

 泳ぐ前に、俺たちはビーチバレーに興じていたのだ。

 ……いや、誤解を招かないように言っておくがフットサルもやっていたのだ。現に俺の後方ではまだフットサルを継続しており、試合の真っ最中だ。

 突然歓声が上がった。気になって後ろを振り向くと、ゴールからかなり外れたミスショットが風に運ばれ、ボールがゴールネットを揺らしたところだった。風の影響を受けやすいビーチボールならではのミラクルショットだ。

 俺も続けとばかりに、別のメンバーがビーチボールを海側のゴールに向かって思いっきり蹴り上げる。ゴールをかすめるどころか、遥か後方にボールが飛んだ。ボールが海へと到達し、文句を言いながら慌ててボール拾いが海へと入って行く。

 文句を言った側も言われた側も和気あいあいとしており、わざとミスショットが出やすいようにビーチボールを使っているようにしか見えない。

 見ての通り、今フットサルを真面目にやっているメンバーは『エル』の中には誰もいない。というか、合宿以外の普段のサークル活動でも積極的にフットサルをやろう! という雰囲気にはならなかった。

 先月の活動でもメンバーはほどしか集まらず、集まったとしてもフットサルをやるより皆でワイワイするのが目的で集まったという感じだ。もちろん部活ではなくサークルなのでゆるくやろう、という気持ちもわかるし、それを責めることは俺にはできない。

 だが、まさかこれほどフットサルをやる機会がないとは思わなかった。大学に入学して一ヶ月で、俺の大学で女の子に告白してもらおう! 計画は頓挫してしまったのだ。

 ……あれだけストイックに練習してきたのに! マンガとアニメ観る時間削って練習時間捻出したのに!

「和っち! またトスがずれてるッスよ!」

 ラインぎりぎりのボールをヘッドスライディングしてあげた俺に向かって、夏輝は容赦ない指示を飛ばす。

 ……いや、自分で言うのもなんだけど今のはファインプレーだと思うよ? 俺。受験勉強の合間をぬってフットサルの練習をしてたから、体力と滑り込みには自信があるからね。

 だが、体力があるからといってビーチバレーができるか言えば、それはまた別の話。さっきから俺がうまくトスやレシーブができないため、夏輝と俺のペアは相手チームから一ポイントも取れていなかった。

 何せ俺と夏輝のペアが対戦しているのは、先ほど俺を指差して爆笑していた小川先輩を含めた大島さん、本西さん、福良先輩の四人。つまり、二人対四人の構図なのだ。

 いくら男女のハンディのためとはいえ、戦力差が二倍というのはきつい。コートのどこに ボールを返しても必ず誰かがいるため、まったく点が入らない。

「もう怒ったッス! 本気出すッスよ!」

 そう叫び、夏輝がTシャツを勢いよく脱ぎ捨てた。それを見て、次にサーブを打つ順番の小川先輩の目が光る。

「ほほう、本気とな? とうとう私が高校の頃、女子バレーのエースと呼ばれる所以となったジャンピングサーブを打つ時が来たと言う事でいいんだね!」

 ……もうあんたバレー部行けよ! とは流石に言えず、俺と夏輝はボールを受ける構えを取る。

 夏輝はコートの左ネット際で両手をあげた。対して俺は右側後方で腰を落とし、レシーブの構え。夏輝がこちらに振り向く。一瞬の目配せで俺たちの作戦会議は終わる。夏輝も俺も、勝負はすべて俺にかかっているとわかっていた。

 まず、俺が小川先輩のジャンピングサーブを夏輝に何とかして上げる。上がったボールは、夏輝が絶対俺に返してくれる。それを俺がアタックで相手コートにねじ込むのだ!

 相手コートは俺から見て真正面、ネット右側に大島さん、左側に本西さん、右奥に福良先輩、そしてサーブを打つため左側コート外に小川先輩という布陣。

「準備はいいかな? それじゃ、行くよ!」

 掛け声と共にボールを上げた小川先輩は、助走をつけながらジャンプをするために膝を曲げ、体全体を前かがみの体勢。小川先輩が投げたボールが最高地点に達し、一瞬停止したあと緩やかに、だが確実に落下し始めた。

 その落下にあわせ、たわめた体を徐々に戻しながら小川先輩は跳躍。先輩が振り上げた左腕がボールに触れる刹那、左腕が勢い良く小川先輩の胴体へと引き戻される。その反動を利用し、小川先輩の右の手のひらがボールに叩きつけられた!

 ビニール特有の破裂音と共に俺たちのコートに、俺に向かってやってビーチボールがうなりを上げてやってくる!

 それを見ながら俺はボールの予想着地点に移動し、体をかがめた。確かに小川先輩のレシーブは強烈だ。ただボールの速度が強いと言うだけではなく、ジャンピングサーブはボールの軌道が変化する変化球となる。ド素人の俺で、はきれいに夏輝へレシーブを返すことはできないだろう。

 ……だが、俺も男だ。意地がある。例えきれいに夏輝へレシーブできないとしても、体のどこかに当てて必ず夏輝にボールを渡してみせる!

 予想した着地点に向かってボールがやってきた。衝撃にそなえ、俺はさらに体をかがめた。だが、変化が予想よりも大きい!

 風の影響を受けやすいビーチボールを使っていたということもあり、小川先輩が放ったジャンプサーブは俺の予想を上回る変化量でカーブしてくる。このままでは、予想着地点より手前にボールが落ちてしまう。今の俺の位置ではボールを上げることはできない。

 さらに、俺はボールの衝撃に耐えるために体をかがめており、とっさに動くことができなかった。だが、動くしかない! 動けよ俺! 滑り込みには自信があるんだろうがっ!

 ボールと砂浜にねじ込むように、俺は自分の体を前に押し出す。

 着地点まであと二歩。間に合え……!

 着地点まであと一歩。間に合え……!

 着地点到達。間に合った!

 飛び込んだ俺の体の一部に当たったビーチボールが、高々と舞い上がる。

「和っち! 大丈夫っ!」

 夏輝の声が聞こえる。おいおい、いつもの『~ッス』って口癖がなくなってるぜ? せっかく俺が体の一部に当てて上げたボールなんだ。ちゃんと俺のほうにも上げてくれよ?

 だが、夏輝が上げたボールをアタックする側の俺が起き上がれない。まぁそれも致し方ないことかもしれない。これだけのハッスルプレーをしたのだ。

 

 ビーチボールが当たった俺の体の場所は、俺の顔面だった。

 

「大丈夫ッスか、和っち!」

 流石に、頭部への本日二度目の直撃に夏輝も心配してくれたようだ。

 視界の端に入った小川先輩は、腹抱えて呼吸困難に陥っていた。笑いすぎでしょ、先輩!

 ……くっそ! そもそも、ビーチバレーではなくフットサルだったらこんな無様はさらさなかったんだ。だったらフットサルに混ざればいいのにとか、フットサルをやるように進言すればいいと言う意見もあるだろう。それはまったくその通りだが、俺はそれを実行に移すことができなかった。合宿に行く前にサークル活動中にこんな話を耳にしていたからだ。

『明日翔ちゃんは合宿水着持っていくの?』

『み、緑ちゃんが持っていくなら』

『何々、皆も新しい水着買って合宿で泳ぐ気満々って感じ?』

『も、ってことは茜先輩も水着持ってくんですか?』

『そだよ。南も持ってくよね? 水着』

『そうね。あ、でも紐で結ぶタイプは避けたほうがいいわ』

『ど、どうしてですか?』

『別に無理にダメとは言わないわ。だけど泳ぐ以外にも、ビーチバレーもしたりするわけだし。脱げる可能性もあるから、やめておいた方がいいわよ』

 なるほど、勉強になります! というわけで、今ビーチバレーで対戦している四人は今日のために買った水着に着替えていた。普段仲良くしている女の子が水着を着てくる、普段見ない格好をするというのは、こういうイベントに高校の頃縁がなかった俺にとってはかなり貴重な体験であり、今日という日を一日千秋の思いで待っていたのだ。

 ……そりゃビーチバレーやろうって言われたら、やるだろ普通! 間近で水着見れるんだぞ!

「大丈夫?」

 ネットをくぐり、対戦チームの中から俺に一番近かった大島さんが駆け寄ってくる。砂浜に突っ伏していた俺は顔を挙げた。ちょうど大島さんを見上げる形となる。

 日焼け対策なのか、大島さんは上に灰色のジップありパーカーを羽織っていたのだが、今はパーカーは脱いで腰に巻いている。パーカーの下にはピンク色のショートパンツ。そこからスラリと伸びた太ももから、俺は一瞬目が離せなくなってしまう。

「……中嶋くん?」

 返事をしない俺を心配して、大島さんが俺の顔を覗き込む。

「だ、大丈夫だよ。ありがとう」

 いろんな意味でお礼を言いながらも、俺は立ち上がり大島さんに向かい合う。

 大島さんの水着はセパレートタイプで、上は下と同じくピンク色のブラトップ。Y型バックでしっかりホールドされるタイプで、ポロリ対策も万全だ。ただ、しっかりホールドされている分大島さんの胸が強調されており、否が応でもそこに目線が行ってしまう。

 ……あれ、こんなに大島さん大きかったっけ?

 それを意識した途端、自分の顔が熱を持った。

 ……何だこれ。待ち望んでいた展開のはずなのに、俺恥ずかしがってるの?

「か、顔赤いよ? 冷やす?」

 そう言って心配してくれる本西さんの水着は、スイムウェアだ。

 スイムウェアといっても競泳タイプのものではなく、フィットネス用のかわいらしい水色のワンピースタイプ。スレンダーな本西さんのボディーラインを際立たせている水着の上から、大島さんと色違いの白色のパーカーを羽織っている。

 本西さんにとってはかなり勇気を出したのだろう。水着に着替えた直後は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしていたが、藤井先輩によく似合っていると言われてからは元気いっぱいといった感じだ。

「大丈夫だって明日翔ちゃん。でも、あはははっ! 中嶋くん顔面って! 顔面って!」

「だから笑いすぎですって、小川先輩!」

 ……二回も言わんでいいでしょうに!

 小川先輩は両手を腰に当て大爆笑。小川先輩はビキニのセパレートタイプ。しかもビーチバレー用。いくらビキニと言ってもスポーツ目的の水着に俺は心動かされていないと思ったが、甘かった。

……小川先輩。着やせするタイプなんですね。

 競技用に作られたその水着は、小川先輩のふくらみをぎゅっと凝縮させトップとアンダーの差をより明確にする。そして明確にされたそれは、小川先輩が笑う度に、揺れる。

「あははははっ!」

 ……くっそ! 直視できねぇ! あれは長時間見ていたら、いろいろとダメになるっ!

「笑いすぎよ、まったく」

 小川先輩にあきれる福良先輩の水着は、キャミソールタイプ。

 その水着は胸元の大きく開いており、自分でも自信があるのだろう、胸を強調するタイプのものになっていた。福良先輩のそれがご立派なことは既に承知していたが、水着で見るとやはり迫力が違う。

 ……しかも、先輩の水着は自分がやめた方がいいと言っていた紐タイプ!

 え、何なのそれ? 引いていいんですか? 引いてみてもいいですかそれ? 自分で紐タイプはダメとか言っておきながら、挑発過ぎじゃないですかね!

「冷てー!」

「でも気持ちいい!」

 歓声が上がった方に振り向く。ビーチフラッグをしていた先輩たちが、海に飛び込んでいた。それを見ていた他のサークルのメンバーも、続々と海に向かって走り始める。

「なに? もう海入っちゃうの?」

「でも海来たのに泳がないなんてありえないっしょ!」

「確かに!」

「ワタシたちも行こっか」

「うん!」

「突撃ー!」

 俺は額の汗をぬぐいながら考える。確かに、今の時期の海は温度が低く、泳ぐのには適していない。だが、ビーチバレーで火照った体を冷ますのにはちょうどいいかもしれない。

 そう考えると、俺も泳ぎたくなってきた。俺は夏輝たちに視線を戻して提案する。

「俺たちも泳ぎに行きませんか?」

「いいッスね!」

「うん、私も泳ぎたいかも!」

「わ、わたしも」

「そうね。体も火照ってきたところだし」

「そうだよね! 冷やしたほうがいいよね! 顔とか! あははははっ!」

 夏輝が真っ先に賛成してくれ、大島さんと本西さんも続いてくれた。福良先輩も色っぽく、そして小川先輩は俺をいじりながら賛同してくれる。

「じゃ、行きますか!」

 俺たちはビーチバレーのネットの片付けもそこそこに、他のメンバーと交じり合って海に飛び込んでいった。

 飛び込んだ海水の温度は思った以上に冷たかったが、火照った体にはちょうどよかった。

 

 四月ももう終わろうとする今日。大学入学前に思い描いていた目論見どおり、フットサルでカッコいいところを見せて女の子に告白してもらうという俺の作戦は、全く成功の兆しを見せていなかった。

 だが、それでもいいような気分に、俺はなっていた。

 水着を持ってきていないメンバーもいたが、海の誘惑に勝てず上がりきったテンションにまかせて下着で飛び込んでいた。「大丈夫なのか?」「代えのパンツは持ってきてる」「だったら水着持って来いよ!」というやり取りがあり、笑いすぎて溺れそうになった。

 先輩たちに混ざって、遊泳エリアの境を示すブイまで泳いでヘトヘトになった。体力に自身があっただけに、結構ショックだった。俺は苦笑いしかできなかった。

 その状態で海から上がったあと、すぐにビーチフラッグに強制参加させられ、海パンが脱げそうになってビリになった。皆に笑われた。

 小川先輩も俺を指差して笑っていたが、不思議と悪い気はしなかった。

 ビーチフラッグの砂を落とすために再度海に入ったが、先ほど入った時よりも冷たくて絶叫した。日が沈み始めたのだ。

 同じく海に入ったメンバーも「うわ!」「さっきより冷たい!」「風邪引くわ!」と悲鳴を上げ、それがまた笑いを誘った。風邪を引いてしまいそうな冷たさでさえ、笑い合えた。

 宿に一旦引き上げ夕食をとった後、日が暮れた砂浜に再度集まって花火をした。

 打ち上げ花火も手持ち花火も、綺麗で最高だった。

 持ち込んでいた缶ビールと酎ハイを先輩たちがハイペースで空けていき、酔った勢いで誰かが海に何かを叫んだ。酔いすぎて何を言っているのか判断できないが、俺も一緒になって何かを叫んだ。

 何を叫んだかは俺自身もわからなかった。でも、最高だった。

 酔った北斗さんが、調子に乗って両手の指の間全てに手持ち花火を持って走り回った。「小学生かよ!」と笑いあった。最高だった。

 誰かが「火傷するぞ!」と叫んだ瞬間、北斗さんが「アツ!」と叫んで火傷した。

 もう爆笑だった。最高の瞬間だった。

 暗闇に包まれた浜辺を、俺たちの花火が照らしていく。

 浜辺には街灯が少なく、俺の、俺たちの花火だけが唯一の光源だった。

 俺たちの花火が闇のど真ん中を穿ち、光と闇の境界線を明確にした。

 光の中にいるのが俺たちで、それ以外のすべてが闇だ。

 光の中にあるものすべてが、輝いて見える。

 自分たちが、今世界の中心にいると勘違いできた。

 誰かの持つ手持ち花火の火が消える度に、夜という暗闇が俺たちを包み込もうとする。が、それも別の誰かが新しく花火を付けるとすぐに引っ込んでしまう。

 この花火の光さえあれば、どんな暗闇や絶望が俺たちを襲おうともへっちゃらだと思えた。

 今の俺たちは最強だと、青春とは、今この時のための言葉なんだと実感できた。

 楽しすぎて、こんな時間がずっと続くと、絶対的に信じることが出来た。

 勘違いなんかじゃない。世界の中心だ。

 今俺たちがいる場所が、世界の中心だ。

 そう、断言できる。

 こんな最高のメンバーには、もう二度とめぐり合えることは出来ないと、俺は確信を持てた。

 今、こんなに楽しい時を過ごすために俺はこの大学に入学したんだと、『エル』に入ったんだと、他のものはもう何もいらないと、皆とつながれたんだと、本気で思っていた。

 だから最後の花火の火が消え、浜辺を再び闇が覆っても、俺は爽やかな気分だった。

 この思い出さえあれば俺は大丈夫だと、そう信じられた。満足しきっていた。

 だからだろう。こんなにも動揺してしまったのは。

 花火の片づけを終えて宿に帰る最中、俺を呼び止めた大島さんは内緒話をするために少し背伸びして、俺の耳元でこう言った。

 

「ちょっと、寄り道していかない?」

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