第39話 TVデビュー

雪渓寺は、長宗我部家の菩提寺とされ、長宗我部元親の息子、信親の墓もある。元親の墓も近くにあり、ここらへんは長宗我部のお膝元と言える。


今日のゲストは、人気予備校講師がCMを転じて、お茶の間でも人気者の地位を確立した、森先生だった。


テーマは、四国の歴史という事で、長宗我部にまつわる話が盛り上がっていた時、突然、次郎が番組に入っていった。


「木津根村の石ノ森村長だね。いや、今日の番組に出たいって言うから、直前で番組側にも伝えていなかったけど、スペシャルゲストという事にしましょう」


「あ、この人知ってます。限界集落村長でしょ。結構トゥイッターとかで話題になってますよね。蕎麦とかコーヒーとかのブランド、美味しいらしいけどこの村長さんが仕掛けたんですよ」物知りが売りの森先生はここぞとばかり、次郎に絡みついた。


ディレクターも、まぁこれぐらいならいいか。と番組はそのまま続行した。


「木津根村の村長です。今日は、四国に住む全ての方にご紹介したい方がいるんです。こちらへどうぞ。長宗我部素親公!」


ひょこひょこと、制作陣の合間をぬって、長宗我部さんがカメラに写った。


制作陣がどよめいている。確かに、公共電波で、どうみても普通じゃない爺さんがヒョコヒョコ入っていくのは良いことでは無いだろう。


「このお方は、正統な長宗我部元親公の末裔、長宗我部素親公であります。本日、皆様にお披露目すべく参りました。」


長宗我部さんは、シルクハットを丁寧に脱ぎ、上品にお辞儀した。


「中々のハプニングだねぇ。制作側も焦っているが、面白いじゃないか。長宗我部由来の寺で、長宗我部元親公の末裔のお披露目か」白水は、慌てること無くいつもの調子で話す。白水は、全く虚栄心が無い為に、テレビに出ても自然すぎる自然さで話すし、元々頭の切れが抜群な為に、どうしたら視聴者受けが良いのかを考えだし、好感度においては、すでに相当の高みに達していた。知事の次はワイドショーの司会から必ずオファーがかかると言われているほどだ。


「長宗我部の末裔とは凄いですね。一家断絶してしまったはずの長宗我部家が、現代に復活!小説みたいな話だなぁ。それにしても、何でまた限界集落村長も一緒なの?何か関係があるんです?」森先生が幸運にも、いい感じでふってくれた。


「私は、四国というのは長宗我部素親公が本来は治める土地だと考えています。もちろん、現代の日本の様々な法律を考えると、そんな事を勝手にやれるはずもありませんが、四国は長宗我部家が治めていた時代が一番うまく行っていたのです。」


「そんな事言っても、そりゃ戦国時代の話でしょ」森先生がすかさずツッコミを入れる。


「四国に未来があると思いますか?私は思いません。老人が耕す田畑と、雑草が生え放題の空き家。働き口は、役所に入れなかったら、介護施設か売り子か外食の店員ぐらいしか無い。長宗我部公が統治したらこの豊かな島はどうなるか、一緒に実現しませんか?皆さん。誰が決めたか分からない県境に従い、徳島だ、愛媛だ、香川だ、高知だ、なんてやっている暇に、もはや、高齢化と人口減少の波は収まりません。」


「ふむ。中々君、良い着眼をしているね。誰が決めたか分からない制度で、四国が苦しんでいるというのは、正にその通りで、苦しんでいる事さえ分かってない連中が大半でもある。すると、君は本気で、この長宗我部殿を殿様にして、四国を再統一したい、という事を言っているのかな?村長」


「ええ、そのとおり。木津根村の皆さん。見ていますか?私の思いを今日、初めて伝えました。私が出すぎたマネをしていると思ったら、どうぞ罷免してください。しかし、私と一緒に、活動をしていきたい人がいるとしたら、ぜひ村役場までお越しください!」


「長宗我部素親です。私は明るくユーモアがあるいい人です。食事は好き嫌いなし。お酒はビールを少し飲んでそのあとは大吟醸です。ゴルフが大好きで、結構上手ですよ。カラオケも好きです。」


プツっとテレビはそこで番組は終わった。




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