第40話 マーケッティング
「あ、ここにも貼ってある。長宗我部友の会のポスター。これ知ってる?」
「何それ?」
「なんか、四国を独立国にして、長宗我部さんという人の国にしようっていう草の根活動なんだって」
「草の根活動?雑草は根から取らないとまた生えてくるっていう奴?」
「何それ?それはいいとして、草の根活動・・じゃないわ、長宗我部友の会に入ると、長宗我部国ができた時に、1級市民にしてもらえるんだって。今のうちに入っておかない?」
「入るとどうなるの?お金かかるの?なんか変な宗教とかじゃないよね」
「大丈夫よ。お金はかからないし、新農業っていう、ほら、今話題じゃん。木津根村の会社知ってる?新農業が経営している居酒屋とか、レストランとかの優待券がもらえたり、友の会のWEBサイトから、長宗我部国をこうして欲しいとか意見言えたり。面白くない?」
「面白いかなぁ?そもそも、友の会を増やしてどうしたいんだろうね?」
「そりゃ、独立したいって言っても、賛同者が誰もいなければただの気狂い。でも逆に、賛同者がわんさかいたら、色々な事が動き出すかもって思ってるんじゃない?」
孔雪梅は、オンライン、オフライン共に、長宗我部友の会のマーケッティングに力を入れていた。こうやって、奥さん達の話題に段々なってきている実感が掴めてきている。田舎のマーケッティングは地道にやっている。ポスティングやポスター、ビラ配りもそこそこ効果があるようだ。都会より競争が少ない為、見てもらえる。
ゆるキャラ、「
電撃的なテレビデビューをした割には、特に表立った動きは起こらなかった。あまりに唐突すぎる話で、見る人の理解の度合いを大幅に超えてしまったからだろう。不思議と木津根村にせよ、高知県庁にしろ、逆に怖いぐらい誰もあのテレビを見なかったように話題にしなかった。
だが、四国内の視聴率ではかなり高い数字をキープしている番組である。実際は皆見ていたはずなのだ。結局のところ、他人事で終わる話なのか、自分にも関係するような話なのか、自分にとっていい話なのか、悪い話なのか、そういう事を慎重に見極めるまで、話題にしない、慎重なお国柄なのである。
こうなる事は、ほぼ正確に孔雪梅には予測できていた。まず、長宗我部国創立における登場人物を示した。そして、最初は理解不能ではあろうけど、趣旨を説明した。後は、じわじわと勝手に進める。
「私は知らなかったんだ」
「なんか、いつの間にか勝手に事が進んで気づいたら大層な事が起きていた」
「いや、こういうのは、市民の認識と政治の認識に開きがあるから」
言い訳しやすいように、時間を与えて、気づいたら国民的な問題として、是是非非を問う。
その為には、一旦、ストレートに言い放った後、螺旋階段を昇るように、慎重にじっくりと既成事実を浸透させていく必要があった。
アナログな四国の現実世界は、着実とは言え、のろのろと四国独立論争は進んでいったが、SNSを通じたマーケッティングは、もう少し急進的に進んだ。
予想以上に、東京を中心とした知識人というか、WEBメディアに発言力を持つ層が関心を示して、概ね好意的に勝手に盛り上げてくれている。
これも孔雪梅が狙って行ったとおりの立ち位置が自然と作られていっている。
>荒唐無稽に何言ってんだ、独立とかwww
>誰だ、あの長宗我部とかいう爺さん?
>その手があったかって思ったよ。俺は。確かに四国は遅かれ早かれこのままの路線ではいい事何もないから。負採算部門は独立して切り離す。いい発想だ。
>なんか、あの村長、怪しくね?いきなり外からやってきて村長になったんだろ?
>ゆるキャラ可愛いよね。長宗我部殿www
>あの白水っていう知事、メチャ頭いいらしいよ。とぼけた爺さんぶっているけど
最近、孔雪梅が3ちゃんねるの長宗我部国の板を見るのは、仕事以上に趣味に近い。
色々と話題を勝手に膨らましてくれて助かるし、偶に孔雪梅もコメントをして、その反応を見て楽しんでいた。
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