第38話 お遍路めぐり

知事が四国88箇所をゲストと回りながら、生放送で四国の未来について語る「白水知事とお遍路めぐり」という意欲的なテレビ番組が世代を超えて四国内で評判を得ていた。


知事の白水は、映り生えのしない、汚い老人であるが、ゲストが毎回、どういうツテがあるのか、全国レベルの歌手、タレント、芸人などであり、そういう全国級の人選が四国について、知事と深堀したテーマを語り合うというのが新鮮だったのだ。


例えば、若者に人気のアイドルを呼び、四国の第一次産業についてトークさせる。

往年の演歌歌手を呼んで、四国の財政問題について一緒に考える。

大御所お笑い芸人を呼んで、四国のITベンチャー企業を知ってもらい、コメントしてもらう。


従来、四国に芸能人が来た時、有り体のご当地グルメ番組ぐらいで、「おいしい〜」ぐらいしか、コメントしないのに慣れすぎていた住民たちには、驚きと、ちょっとした誇りを感じさせた。


「昨日の、知事のお遍路巡り見たか?タウンタウンの松井がなんか、四国でITのスタートアップする若者に投資したいとか言っとったぞ」


「なんだ、そのアイティーのスタートアップってのは?アップルティーかなんか作るのか?」


「ねー、昨日の知事の番組見たー?蛇煮胃頭ジャニイズ北側きたがわ君が出てて受けるんだけどー」

「えー、見たかったー。何の番組それ?」

「なんか、白水知事っていう高知の人と、世間話しながらお遍路のお寺をたずねる番組」

「北側君、どんな事しゃべってたの?」

「いや、四国の高齢化問題について知事と話してて、頭良さそうな事言っててカッコ良かったよー」


四国内の喫茶店やファミリーレストランで、こういった会話を耳にすることは珍しくなくなった。



もちろん、番組の企画をしたのは孔雪梅であり、テレビ局を常にリードしていた。そして、孔雪梅経由、つまり龍を介して有名人が送り込まれる仕掛けであった。芸能関係の主要どころとガッチリとパイプがあるからこそできる荒業だった。


始めは、高知県内だけに留めていたが、88箇所めぐりという事もあり、押しも押されぬ人気番組にもなった為、四国全土のお遍路の地をランダムに、なぜか高知県知事の白水知事がコメンテーターとして、他の県まで出没する番組になっていた。一部の県外者からは、なんで高知の知事がウチの県にノコノコやってきて紹介してるんだ!みたいな声も無くはなかったが、視聴率に支えられた。


白水は、知事の業務をしておらず、テレビ撮影にかまけておるという批判もされていたが、それは事実であったし、別に悪びれてもいなかった。実際、白水は全て知事の業務は狸穴に任せていた。業務と言っても、上がってきた書類にサインと押印をするだけだが、それは狸穴が最も好きな仕事でもあった。かつて、村長として威厳を持って押印していた時代を懐かしみながら、それよりも地位の高い知事の代理として、押印をしている自分を誇らしく思った。


テレビに集中していたのは、言わずもがな四国統一の為に先を見据えたPRの為だった。予想以上に番組が四国内に定着してきたタイミングで、電撃的に次郎と長宗我部をこの番組でデビューさせてしまう、というアイデアを打ち出したのも孔雪梅であった。




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