第34話 狸の力

しばらくすると、獰猛な鳴き声と共に、信者が土佐犬を連れて来た。闘犬用の土佐犬なのか、形相も恐ろしく、襲われたら簡単に殺されてしまうだろう。


太いリードでつながれているものの、近づくと生きた心地がしない。


信者は、土佐犬を連れて、そのまま狸穴の部屋に入った。


犬は狸穴を見てうなっている。憎悪がこもった不気味で低いうめき声だ。


狸穴は、感情が壊れてしまったのか、怖がってはいないようだ。従来の臆病者ぶりであれば、真っ先に逃げ出すはずなのに、余裕の表情でいる。


「放せ」


書斎に戻った白水は、部屋についているスピーカーを通じて、指示をした。


監視カメラを通して注意深く見守る。


信者が手を離した瞬間・・・狸穴の鼻からニョロニョロっと流動体が出てきた。あれは面田紋次と同じ現象だ。


だが、ニョロニョロと出た流体が形作ったのは、あの可愛い蕎麦屋の軒先にある狸の置物では無く、野生の荒々しい狸だった。


犬に向かって、狸は迷うこと無く跳びかかり、一撃で喉元を正確に狙い噛み切った。

そして、そのまま信者に向かい、信者の喉元も噛み切った。


1人と一匹は即死した。


狸はするすると、狸穴の鼻の中に入っていった。


死の危険を感じて、能力が覚醒したか。わりかしスムーズに行ったな。それにしても狸穴だけに、こいつもやはり狸がついているのか。


「狸穴。お前は自分の能力に気づいたようだな。大事な事が2つある。よく聞けよ。1つは、お前の腹の中には、小型の電極が仕込んである。電極と言っても、軽い電流を流す事もできるが、お前の内蔵に致命傷を与える事もできる。」白水は、スマートフォンをちょこっといじった。


「オフェッ!」


狸穴が奇妙な叫び声を上げた。


いいか、私の言うことを聞かないと、こうだ。


「オフェッ!オフェッ!オフェッ!」

さらに白水は電圧を上げて流した。


「お前は危ない奴だから、いざとなったら、即死してもらうからそのつもりで」


狸穴は不敵に笑っている。


「いいか。私の言うことは絶対だ。絶対に守ることが大事だ。分かったら、右向け右!」


狸穴は不敵に笑いながら、右を向いた。


「オフェッ!」


「お前、右向け右ぐらい知ってるくせに、適当にやっただろ。次は即死かもしれんぞ。右向け右!」


狸穴は、今度は小学生のように右向け右をした。


「前へならえ!」

「なおれ!」

「安め!」

「行進始め!イチニ!イチニ!・・・よし。一応従順に操れるようだな。じゃあ、、もう一度狸を出してみろ!」


狸穴は、不敵に笑ってる。


「オフェッ!」


「何笑ってるんだよ。お前は。早く出せ!」


ニュルニュルっと狸が鼻から出てきて顔を出した。


「ほう。子狸か。サイズが一定というわけではないのか。状況に応じて使い分ける事ができるというわけだな。だが、今出して欲しいのは、もっと力のある大狸だ。その死体を全部食ってみろ」


ニュルニュリュっと狸は鼻に戻ったかと思うと、ゲロを吐きながら、大口をあけた狸穴の中から、今度は大狸が出てきたかと思うと、死体に駆けつけ、むさぼり食いだした。ものの数分で、痕跡が無くなるほどに綺麗に骨をも粉砕し、飲み込んだ。


「こいつはいいな。死体処理がお前の当面の主たる業務になるやもしれんわ。よし、今日はお前の好物の酒を2倍届けさせよう。たっぷりと楽しんでくれ」


白水は、監視カメラのスイッチを切って、タバコに火をつけた。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る