第33話 仏骨
いつもの日課として、狸穴が酒をペロペロ舐めている様子を監視カメラで眺めながら、好物のフルーチョという、牛乳に混ぜて作るデザートを食べていた時だった。
「ん、始まったか」
思わず白水博士は声を上げた。カメラから、悲鳴が聞こえて、狸穴は頭を押さえている。よく見ると、狸穴の頭頂部がモリモリと隆起し、仏様のような形の頭になった。
「うまく仏骨が出おったわい。こりゃいけそうだわ」
狸穴の一番好きな肴に、妙薬を少しずつ入れて、体質を変えさせていた。
猛毒の類をかなり含んでいる漢方の妙薬は、そのまま飲むと即死するほどだが、少しずつ、少しずつ体内に取り込む事により、脳に染みこむように働き、脳がある時点で急成長を始める。
膨らむ脳に対応して、脳から出された指示に従い、頭蓋骨が変形する事でスペースを確保する。それが、仏骨と言われる。
ここまで来るには随分と時間がかかった。大体は全く効果の無いか、頭部の隆起がスムーズに行かず、目から脳を吹き出して死ぬかのどちらかであったが、その都度原因を探り、改善を進め今日に至っている。
狸穴のような知性の
白水は、狸穴の宿坊を直接尋ねた。「おお、狸穴さん。気分はどうだい?」と声をかける。
「・・・・・・」
狸穴は声を出さない。
だが、不敵な笑いをこぼしている。
「どうした。何がおかしいんだ狸穴さん」
「・・・・・・」
狸穴は声を出さない。
だが、不敵な笑いをこぼしている。
「おい。何がおかしいんだ狸穴さん」
「・・・・・・」
狸穴は声を出さない。
だが、不敵な笑いをこぼしている。
白水も今で言うコミ障のため、会話しながら相手の様子を探るような事は得意でない。だが、常人ならば黙って笑っている狸穴に対して、不気味を覚えて立ち去るのだろうが、白水は粘り強く狸穴を観察した。
「おい、狸穴、いい加減しないと、酒を抜くぞ」
初めて、狸穴の不敵な笑いが収まった。
「おっ、酒という言葉に反応したのか。意外とバカバカしい所に解決の糸口があったな。ただ、もうこの調子だと、人格の大部分は破壊されてしまったようだな。まぁ、そのほうが都合よかったりはするんだけどね。おい狸穴、俺の言うことは全て聞くんだろうな。俺はお前の唯一の保護者なんだ。お前の好物の酒もやるし、女もやる。
だが、言うことを聞かない場合は全部取り上げる。分かってるんだろうな」
狸穴は、また不敵な笑いをしながら、親指を立てて、「グッド!」という感じなジェスチャーをした。
「うむ。どうやら言語中枢がいかれてしまって、喋ることを忘れてしまったようだ。だが、これだけ立派な仏骨があるという事は、必ず、何かしらな力を持っているはずなんじゃ。だがこの調子じゃな・・やむを得んか。おい、狸穴、お前はこの部屋から俺が出ていいと言うまで、絶対に出ちゃならんからな」
白水が言いつけると、また狸穴は、また不敵な笑いをしながら、親指を立てて、「グッド!」という感じなジェスチャーをした。
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