第30話 白水博士
大学を持ち、出版社を持ち、政党もある。法律家や官僚も近年は増えている。広告代理店やテレビ局には必ずコネ入社の枠が設けてある。その影響力がどれほどなのかは庶民の目には計り知れないし、実体は信者ですら、よくわからないというのが本音であった。
天才少年として、子供の頃からテレビにもよく出ていた。当然のように、全国屈指の難関私立中学である、
誰しもが
ハーバード大に行ったのさ、
いや、ホーキング博士に弟子入りした
頭が良すぎて世界の真理を知ってしまい殺された、
いや、宇宙の法則に触れて発狂したのだ、
などと色々言われたものだが、数年もしたら皆忘れてしまった。
白水は、高校生の頃、オカルトにハマっていた。特に密教の修行や、儀式をする事により、人間がトランス状態に入り、場合によって人智を超えた力を得たりする事にのめり込んだ。空海を唯一尊敬できる師と仰ぎ、自分の部屋には祭壇を祭り、日々聞いたこともない怪しげなお経を唱えていたと、両親は言う。
白水ほどの天才は、すでに高校生の時には経済的にも自立していた。税務署に務める平凡な父と専業主婦の母の元に生まれた白水は、中学の時に始めたラジオ作りが切欠となり、高校の時には高度なハード設計技術を習得するに至り、色々な工場から外注を受けては設計、開発に携わっていた。最初は小遣い稼ぎと思っての事であったが、気づくと親の収入を超えている事が分かった。自分としては、1日1時間程度気分転換に費やす事で、オヤジの収入を超えるんだなと、冷ややかに理解してしまったのだ。
白水が失踪した時、両親の本音は、実は
「ホッとした」
であった。
正直、話は全くかみ合わない。性格は温厚に見え、人と喧嘩したりするタイプでも無いから、これまで一度として親に迷惑をかけたことも無い。また、息子がお金で困る事は無い事は両親が一番分かっていた。どんな世の中になっても、あの頭さえあれば、食いっぱくれる事は無い。正直、全く手がかからなかったのだ。
あまりに自分たちとは違いすぎる息子を、世間体だけで育てていたが、もう息子も18歳。親の役割は果たしたとも言える。別の意味で肩の荷がやっと降りた。むしろ、もっと手がかかる子供が欲しかった、などと思うこともあった。何しろ、オムツが取れて以降、親として教えた事も無く、世話を焼いた事も無い、というのが正直なところだったのだ。その為、捜索願は形式的に出しただけで、それ以上深追いしなかった。
白水は、実際はアメリカのユタ州にある、テンペスト大学に特待生として入学していた。テンペスト大学は、世界で唯一、オカルト研究を真剣にやっている大学で、その筋の権威が集まっていた。白水は、テンペスト大学のサップ・ボブ教授と実は長い間極秘裏に文通をしながら共同研究をしていた。大学に入ってからは、すぐに飛び級してサップ・ボブ教授の研究室に入って共同研究に明け暮れる每日であった。
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