第24話 荒波

「君だけへの相談なんだがね」次郎は、社長である荒波を部屋に呼ぶと、単刀直入に話した。


「君は、私が言うまでもなく、華々しいキャリアを積み上げてきたし、実際に日本でもトップレベルの経営者だと思って、うちの会社に呼んだんだが・・・」


「は、光栄な言葉でございます」メディアに対しては、存在感のある強面の荒波も所詮はサラリーマンという事か・・。


「実は、ある人からこんな事聞いたんだ。君の華々しいキャリアの出発点となった、菱菱商事時代、まだ君が30歳手前の頃だよ。亀井という先輩の男がいただろう」


荒波の顔が青ざめたように見えた。


「いや、先輩と言っても、随分昔のことですから・・」


「忘れたとは言わせんぞ!荒波!!」

次郎は机をバンッと叩き、迫真の演技で怒鳴った。


案外情けなく、荒波はひるんだ。


「お前がニューヨークであけた大穴、全部亀井にかぶせたどころか、自殺までご丁寧に追いやったって話がこっちに回ってきてるんだよ!」


「会長、落ち着いて下さい。何かの間違えか、良からぬ出版社に吹きこまれたのではございませんか?そんな濡れ衣を・・・」


「お前、思ったより馬鹿な奴だな。これを見てみなさい」


次郎は紙ペラ一枚を荒波に渡して、今度は露骨に顔色を変えた。


亀井の遺書のコピーだった。狂気を思わせる字体で、荒波にはめられた、という怨念のこもったものであった。


「お前は何も知らない世間知らずのボンボンで、裏でけつぬぐってくれた人の事を想像すらできないんだよ。まぁいい。話は続きがある。もう話は終わったんだ。私はゆすられた。これを週刊誌にリークすると言われてね。金の支払いも全て私のほうで済ませた。この件があったからと言って、君におとがめはしない。私が君を選んだのだから私の責任でもあるからな。この問題は」


「・・・・。この御恩は忘れません。会長の為に、命を賭けて・・・。」


「そうか。命を賭けてくれるか。命まではいらんが、お願いしたい事がある・・・」


鳥居さん扮する次郎。元々舞台を夢見てダンスに明け暮れただけに、演技が好きだった事を思い出した。面白がっているな。俺は・・。


荒波が会長室を後にした。時計を見ると、17時。


会長室に電話がかかってきた。


「どうやらうまくやれたようですね」龍だった。


「それで、次はどうする?」


「犬神の最も効果的な使い方・・・そろそろ理解しましたか?執権次郎様」


「なりすまして、大概たいがいのことができる事は分かった」


「では、本家で会いましょう。本家では台本はいりません。私も本家に行きますので、臨機応変に対応してください。あなたなら必ず最高の結果を引き出すことができるでしょう。なに、心配はありません。何もかもが破綻したとしても、最後にあなたはこう念じればいいのです。我は人なり。と」


電話は切れた。


また電話が鳴る。


「ヘリの準備ができました。会長。屋上にお上がりくださいませ」










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