第23話 現金化

鳥居さん扮する次郎がやるべき事は、大きく分けると


・専属の秘書長である猪口早苗いぐちさなえを追い出す

・鳥居さんの個人資産を整理し、現金をかき集める

・予め、龍がまとめ上げていた木津根村の土地を買う

・抜擢されていた非創業家初の社長、荒波に特命をする

・鳥居家の緊急総会を開く


という事だった。

それに基づいた様々なスケジュールが、分刻みで組まれた紙を龍からは受け取った。

全て、龍のほうで予め手配済という事だ。


秘書長の猪口を丸め込むのには肝を冷やした。


猪口は、トリイサンの秘書室のトップであるだけでなく、鳥居さんの公私に渡るほぼ全てを管理している。会社員というよりは、創業家にひもづく、特殊な地位であり、鳥居さんを除くと、社長と言えども、恐れをなしている存在だ。プライベートは謎に包まれており、既婚者なのか独身なのかも誰も知らない。60手前という噂だが、40代後半ぐらいだとよく間違われる容姿とスタイルをキープしつつ、男まさりなネゴシエイションに定評を持つ。


龍からは、猪口には、とにかく少ない言葉で、怪しまれないように、短時間で、という指示だった。


「猪口君。今までご苦労だった・・・・・」


「・・・どういう事でしょうか?」


「長い付き合いだ。多くを語る必要も無い。今まで働き過ぎてきたんだ。これから、第二の人生を存分に楽しんでくれ。その為に必要なものは、用意する」


「・・・・。そうですか。釈然としませんが」


「休みを取って、旅行にでも行って来たらいい。」


「・・そんな急に、どうされたんですか?会長」


「いや、旅行に行くべきだ。さ、今日から休みを取って行ってきなさい」


「わかりました。今日のところはこれで失礼致します」


「あっそうだ。今日の夜、本家に、鳥居家の主たるものだけでなく、一族全てを招集しておいてくれ。大事な話をする」


「・・・承知いたしました」


猪口は部屋を後にした。


なんとか、悟られなかったと思うが、恐ろしく緊張したし、生きた心地がしなかった。だが、心はなぜか強烈な前向きさとやる気が満ちている。これは鳥居さんのエネルギッシュさに影響を受けているのだろうか?


次の2つは、龍の細かな指示書に従うことにより、驚くほどスムーズに事が進んでいった。鳥居の権力はさすがなもので、銀行、証券会社、不動産会社の上層部が極秘裏に会長室に集められ、すぐに良い値段で買い手がつく土地は売り、時間がかかりそうなものは、担保にして現金を借りる。鳥居さん個人が所有する様々な会社も、売却、融資により同様に損をしてまでも、出来る限りの現金を確保していった。ここぞとばかり、それぞれが、次郎に色々な手法を提案してきては、次郎にはサッパリ理解できない事ばかりだったが、時間も無いので全部丸呑まるのみした。


集められたエリートサラリーマン達は、ただ事ではない事が起きているとは察しながらも、むしろ必要以上に冷静なおもむきで粛々とさばいていった。


嫌悪していた、エリートサラリーマン達も、これぐらいの上層部のエリートとなると、やはり身のこなし1つとっても、次郎とは全然異なっており、仕事もテキパキとこなし、無駄な会話も無い。大したものだと感心せざる得なかった。


数時間を経て、目処が経ち、彼らが準備よく持ってきた書類には、言われたままに署名と押印をした。これで、彼らが全部うまくやってくれるとの事だ。


結論としては、5000億円の現金が鳥居さん個人で調達できる見通しのようだ。それが大きいのか小さいのか、次郎には判別不能なほどに、大きい金額であった。








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