第22話 龍との再会
次郎は、会長室と思われる贅沢な作りの部屋のソファに横にさせられた。
「大丈夫だ。君たち、席を外してくれ」次郎は、取り巻きを退けると、ソファで頭を整理しはじめた。
俺が鳥居さんの体に乗り移っているのは、現実として認めないと何も進まない。多分、鳥居さんと俺が対面する機会など、もう無いだろうから、これが最初で最後の乗り移りのチャンスだろう。出来る限り今の状態を活かし、後々有利になる展開を作るしか無い。
次郎は、部屋を見渡した。東京タワーが見えるから東京なんだろう。結構都心のほうだな。それにしても、パノラマスケールのガラス張りに、部屋には贅沢なバーカウンター、あれはサウナか。まぁ、日本屈指の金持ち一族が経営する会社の会長なんだから、これぐらいは別に普通か。むしろ、アブノーマルな感じがしないだけ、立派なものなのか。
会長の机には、割りと平凡なPCが置いてあり、開いてみると、パスワードがかかっている。なんか打ってみようという気になった時、奇妙な感覚で字が浮かんできた。
(TORIISAN?)
さすがに、それは無いだろう。そのまんまじゃないかと思いながら、
試しに入力してみると、
デスクトップ画面が現れた。
おっ?
単純なパスワード以上に、あのパスワードが浮かんだ感触が発見だった。
(どうやら、鳥居さんの記憶にアクセスができる、という事らしい・・・)
試しに、存在感のある金庫を目にして、開けようと考えると
(0から右に4回まわして66。66から左に3回まわして91。
91から右に2回まわして23。23から左に1回まわして8)
唐突にアイデアが降ってきた。
鳥居さんの金庫だから、もっと仕掛けがあると思ったら、意外と古典的なアナログ金庫なんだなと思いながら、その通りにやると簡単に空いた。
(さすが昔の人だよな。今の人は一々金庫の開け方なんか、暗記してないだろう)
次郎は感心しながら、中身を物色すると、当然と言えば当然かもしれないが、意外と金目の物は置いていなかった。金塊なんかが入っていると思ったのに少しガッカリしたが、そんなものは一々会長室には保管しないだろう。
その代わりに通帳と印鑑が色々と几帳面に置かれていた。
(この時代に、こんな巨大会社のドンとは言え、印鑑と通帳なんか使うんだなぁ。なんか滑稽だ)
その時、電話が鳴った。
「なんだね?」
「龍様という方がお見えになっておりますが、いかがいたしましょうか?」
「通しなさい」
龍か・・・あの、犬神の儀式以来の面会だ。
ノックの音がしたが次郎は黙っていた。というか声が出なかった。だが、ドアはすぐに開き、龍が次郎の乗り移った鳥居さんの正面に立った。
次郎は引き続き黙っていた。
沈黙はしばらく続いた。
「うん。私の直感は今のところ、正しかったように見えます。執権次郎様。お久しぶりでございます」
「何ですか?わざとらしい。からかっているんですか?」
「いや、そうでも無いですよ。何しろ、あなたに然るべき地位が備わった時というのは、名実ともに世界の覇王になっている時ですから。未来の覇王に向かって敬意を持つのは、当然の事かと」
龍は、深々と敬礼の意味を込めたようなお辞儀をした。
「言いたいことが無いわけじゃないけど、与えられた課題に取り組んでます。あなたのお陰で犬神に取り憑かれて、こんな風な事ができちゃったわけですけど」
「そうですね。多少荒っぽいですが、最短ルートで進めましょう。鳥居さんはトリイサンの代表権を持っており、筆頭大株主でもありますが、やはり大企業。鳥居さんの一存で簡単に何でもできるわけではありません」
「でも、そんなに長い時間かけられませんよね。大体、僕の本体の肉体は今頃どうなっているんですか?」
「心配に及ばず。ただ、確かに飲まず食わずで何日もいれば、次郎様の肉体にも限界が来てしまうのは事実。事を急ぎましょう。トリイサンという会社を動かすのが時間がかかるのであれば、できるだけ個人の判断、裁量で済む事を進める方針で行きます」
龍は、次郎にやるべき知恵を端的に与えた。
次郎には、完全に理解はできなかったが、言われたとおりやる事だけなら何とかできそうだと感じた。
「執権次郎様!ご立派になられましたね。初めてお会いした時とは見違えていますよ。まぁ、当然と言えば当然な事ではありますが・・」
「当然?」
「いや、なんでもないです。それでは私はそろそろ退席します。また近々お会いする事になるでしょう」
龍は、物音1つたてずに、サッと消えた。
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