覇道か王道か 世界へ・・・

第21話 犬神現る

「ああ、君が四国の木津根村から狸を追い出した、村長さんか」

鳥居さんからは、話で聞いていた慈善事業系なイメージとは随分違う、おっかない感じの雰囲気がした。


「そうです。実は、鳥居会長に、協力を頂きたいんです。中国から蕎麦とコーヒーの原材料を仕入れ、木津根村に選別加工場を作り、日本品質の高級食材として、販売したいんです。」


「はぁ、それで?」


「食品の巨大メーカーのトリイサンがバックに着いていただき、そのノウハウと営業力で、世界に向けて打って出たいのです。そして、日本全国から働きたい人を集め、大産業に成長させます。それに鳥居さんの財界の地位を使って、財界の狐、いやユダヤ系の企業にも協力をとりつけていただきたいんです」


「あのさあ。君。私はあなたのお父さんじゃないよ。なんの為にそんな事やらにゃならんのだい?

・・・・・・・だが、そのアイデアは面白いね。なるほど、確かに実際は高品質だが、イメージと管理面で問題のある中国の蕎麦やコーヒーを日本で中間加工する

。実にいいアイデアだ。今まで考えもしなかった。いや、あっぱれ。じゃあ失礼するよ。村長くん」


「ちょっとまってください。鳥居さん、そのアイデアどうする気ですか?」


「なんだね?知らんよ。君が勝手に教えてくれたんじゃないか。私がどうしようが、私の勝手だと思うんだが、違うかね?まだまだ青いねぇ。青すぎる。固くて食えないよ。ハッハッハ」


「ちょっ・・おっおっおっべれろあー」

突然、次郎の口から、黒々とした流体が流れだした。


「あっあっ」次郎は言葉が出ない。


そこにいたのは、凶悪、醜悪な見覚えのある犬だった。あの犬だ。


犬は次郎には見向きもせず、テレビモニターに突っ込んだと思うと、そのままどういう理屈なのか、モニターに入り込み、モニターに映る鳥居さんの口の中に入っていった。


どうやら鳥居さんには、犬の姿は見えないらしいが、鳥居さんの口の中に犬が流体になって雪崩れ込んでいったように見えた。


「おあええてけあへっ」


鳥居さんは突然奇声をあげて、しばらく咳込んで、モニターの画面が消えた。


「やりました!ついに犬神が現れましたね!!」

孔雪梅が1人盛り上がっている。


「ゲホゲホッ、おまえ!また何か知ってて隠していたな!大体なんだよあの鳥居さんとか言うクソジジイ!どこが慈善事業家だよ!人を馬鹿にしやがって!」


「執権次郎様!大変失礼致しました!犬神を出すには、怒りの感情が必要なんです。知ってしまうと、怒りも弱まる。怒りというのは常に、期待を裏切られた時に生まれるからです!さあ、執権次郎様!目を瞑ってください。そして、「我は犬神なり」と3回ゆっくり唱えて下さい。戻る時は、「我は人なり」でOK!でも問題解決するまで、戻らずに頑張ってみてください!執権次郎様なら絶対できますよ!」


「なんだよ、それ?便所の花子さんみたいな・・。わかった分かった。そんな顔するなよ。「我は犬神なり、我は犬神なり、我は犬神なり」・・・・・・」



----------------------------------

目を開けると、そこは超高層ビル一面ガラス張りの部屋。


「会長!しっかりしてください!今救急車を手配しています」


なんだこいつら?


「救急車?いいよいいよ。大丈夫だよ」


周りをキョロキョロ見渡す。見慣れない景色ばかりだ。


鏡を見て、しばらく次郎は固まった。だが、数秒で概ね事態を理解した。さすがに変な体験ばかりしてきて、頭は柔軟になっている。


(俺は、鳥居さんにのり移っている。という事か。乗り移るというより、乗っかっている。鳥居さんの脳みそを占拠している感じだ。耳を澄ますと、鳥居さんのクレームが聞こえてくる。あのクソジジイを押さえつけて、今俺は鳥居さんの体を支配しているという事か。これが犬神・・・)



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る