第17話 まずは1勝

立会演説会に参加したのは、狸穴の息のかかった配下ばかりで、多数派ではあるが、狸穴を恐れる狐系の人達は家でおとなしくテレビを見ていてぶったまげていた。木津根きつね村は、NHKと、全国区の民放チャンネルは2つ、後は地方チャンネルしか見られないわけだが、昨日はなんと、全国放送で、木津根きつね村が放送された。


しかもその内容たるや・・・刺激が強すぎた。


狸の格好した、木津根きつね村ではおなじみの狸穴まみあな直属の手下とも言える、ポンポコポン達が女の子をレイプするかのような映像、ポンポコポン達が、アパートに放火している映像、ポンポコポン達が、縄で縛られた女の子を囲み、拷問ごうもんをしているように見える映像、縛られた女の子が奇妙な新興宗教のような施設で、供え物のように狸の大仏の前にさらされている映像、モザイクがかかっているが、恐らく集団ヒステリー状態になったポンポコポンの前で裸にされて、逃げまわっている映像・・


「戦後初の村長選挙が行われる、木津根きつね村の選挙風景」


と、淡々とテロップが流れた。


その後、


「私が村長になった暁には、まずは獣害じゅうがい被害、とくにたぬき一掃いっそうを第一の公約として、木津根村きつねむらの発展に全身全霊で挑みます!」


という、次郎の声が、全国のお茶の間に響いたのだった。


全国の国民には、モノ好きな若者としか見えなかっただろうが、この映像は、四国の狸派全員を刺激したのは言うまでもない。


「楽しみになってきた」


龍は1人、テレビを見ながらクスッと笑った。


選挙当日、さすがに木津根きつね村としても、当日は選挙活動はしてはいけないというルールは適用される。村はいつも以上にシーンとしている。


次郎は、特にやる事も無く、アパートを燃やされてからは、大おじい様の家に世話になりっぱなしだった。


「大おじい様のお陰で、狐系の人、ほぼ押さえられたようで、感謝しております。それに加えて、狐でも狸でも無い人も昨日のテレビの効果で狸穴には入れにくいと思うんですが、どうですかねえ?」


狸穴まみあなは、狸御殿たぬきごてんの御タヌキ様の話を出したそうじゃな」


「ああ、そうなんです。不気味な事言ってましたよ。俺に入れなかった奴を、タヌキ様に報告するとか」


タヌキ様か・・・。まぁ、今頃は狸穴は負けを悟り、過去のもみ消しに必死だろうが・・・。良からぬ事を企まないといいが。」


選挙は即日開票され、投票率95%、その約8割を次郎が押さえ圧勝した。


狐の人口は5割、2割がどちらにも属さない層、狸が2割だから、狸も一部は次郎に入れていた事になる。狸穴まみあなのえげつない独裁に不満を持っていたのは狐だけじゃないという事なのだろう。


そこに、大型バイクが突然急ブレーキで大おじい様の庭に止まった。ヘルメットを取ると、孔雪梅だった。


「お!孔雪梅!!もう会えないかと思ったよ!帰ってきたんだね!!」


「執権次郎様!!今日もおうるわしく!なんたって私達夫婦ですから!!」


「お前、それにしても、やりやがったなー。よくあんなエッチな映像を自分で撮って、集めて、編集して・・大丈夫だったのかよ?裸にされたり、何か無かったのか?」


「私は執権次郎様に仕える身。傷物きずものではございません!!ご安心くださいまし!」


「そりゃよかった。それにしても何だよあのインタビュー。思わず吹き出しそうになったよ〜」


「あら、執権次郎様も私がいない間に益々たくましくなられて、機転も効くようになりまして、孔雪梅、筆頭家臣ひっとうかしんとして嬉しく存じます!

まさか、狸退治を宣言するとは!私めも、思わず吹き出しそうになりましたわ!!」


「村長になったのはいいけどさー。アパートも燃えちゃったし、これからどうしようかね〜」


「執権次郎様!すでに手配済みですよ!次郎様がこの村に来る前から・・・。2人だけの愛の屋敷の準備はできておりましたのよ!!」


「何それ・・?」


「さ、乗ってください。ご案内いたしまする!」


大おじい様と美香さんに別れを告げ、オートバイに乗り更に高い峠に着くと、古いがセンスの良い小さな洋館が建っている。ブラックジャックの屋敷を彷彿ほうふつさせる海辺の岬の館だ。


「ここ、何年も空き家だったんです。昔は牧師さんが住んでいたんだそうです。リノベーションして、村長の執務に耐えうる、最新の機器を取り揃えております。ここがこれから私達の愛の巣 アンド、村長の館です〜!」






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