第13話 木津根村

「執権次郎様。こちらを御覧ください」孔雪梅はニコニコしながらノートパソコンをちらつかせた。


「すげーな。一応、WEBサイトがあるんだな。この村、なんだっけ?」


「木津根村ですよ。ダメです。失言ですよ。村の名前を忘れるなんて。それにしても、インターネット黎明期れいめいきを思わせるデザインセンスですが、意外と色々な情報も乗っていて参考になりますね」


「お、村長挨拶があるぞ。どれ。うわっ、見るからに、村の政治家って感じだな〜。この人、若くして親の後を継いで村長になって、ずーと村長してるんだ。日本にもこういう人いるんだなぁ。しかし、なんでこんな画像出てくるのに時間かかるの?重すぎでしょ」


「執権次郎様。この村では老人に好かれる事がポイントです。このWEBサイトもご老人が、老眼鏡でホームページの作り方、とか本買ってきて、一生懸命作ったものかもしれません。すごい事じゃないですか。執権次郎様が介護士の現場でお遊戯を指導していたように、少しでもできたら褒める。これが高齢者に好かれる為の基本戦略です。意外とシンプルです。」


「それにしても、この村、ネットで見ると、相当頑固者の集落って感じなんだね。全国レベルで市町村合併が盛んだった頃も、村で団結して合併を退しりぞけたらしいよ。うぁっ、何だこりゃ、反対運動の画像がアップされてる。皆、たぬきの被り物して、不気味な衣装着て反対運動してるのか。やべー雰囲気だな。こりゃ、外の人も近寄りがたい・・」


「さて、この村には、実は伝説があります。空海って知ってますか?平安時代のお坊さんで、弘法大師とも言われています」


「弘法も筆の誤りという奴だね。」


「そうです。とにかく何でもできるスーパーマンみたいな人で、日本全国から信仰されておりますが、ここ四国でも活躍しました。空海は、四国に来て狐に化かされそうになったのですが、「四国は狸の国にします」と宣言し、狐を一掃したと伝えられています。確かにそういうわけで、四国は狸が多い。狸の楽園です。ただ、この村を除いては・・・。」


「木津根村・・・狐村?」


「そう。その通り。村の名前を変えたのは、狸穴権助の父親、金助です。実はこの村は、四国唯一、空海によって狐の棲息が許された地域と言われています。ほとんど知られていませんけどね。」


「狸穴っていうぐらいだから、狸の人が狐を制したという事なのかな?」


「鋭い!!さすが執権次郎様!実は狸と狐というのは比喩なんです。四国というのは奈良時代、平安時代ぐらい昔はそれはそれは、畏れ多い霊力最大の神々しい禁断の島として考えられていました。そこでは2代一族の闘いが何百年に渡り続いていたと言われています。そこに、当時日本最強の空海が仲介に入った。というのが筋のようです。そして、どういう訳か、狐一族を四国から追い出し、狸一族の国としたのですよ。ただし、期限付きで」


「期限付き?」


「空海はこう言ったと伝えられてます。四国は狸一族のもんじゃ!じゃがのー、四国に鉄の橋掛かったら、その橋伝って狐、帰っていいぜよ。四国取り戻せや」


「へー面白いね。つまり、狐一族と狸一族の闘いがまた始まるという事?」


「狐一族は四国でひっそりと、木津根村を中心に生きていたんですが、1988年に瀬戸大橋ができても、空海は現れず、何も起こらなかった。木津根村の住民も、狸勢力の代理人である狸穴家に抑えこまれて、飼いならされてしまっていたので、機を逸してしまったんです。特に、狸穴家が狐の有力者を追込み、木津根さえ、狐の勢力は地に落ちました。執権次郎様の最初のミッションは、狐のリーダーになる事。その為、まずは木津根村を落とし、それを皮切りに土佐地方だけではなく、四国全土に隠れ狐一族が潜んでいます。そこを刺激し、勢力をまとめ上げる、というのが大きな戦略と言えます」


「なんか、話の筋が見えたきた。その暴動だか革命の最初の導火線、それが木津根村という事か・・・」


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