第12話 選挙活動

孔雪梅は早速次郎を引き連れて、アパートを出た。手には竹箒たけぼうきとバケツと雑巾。


「なんか、わざとらしすぎる気がするんですけど」次郎は不満そうに言った。


「掃除を一生懸命やっている人には、初対面でも85%の人が好感を持つというデータがあります。ましてや、このような高齢者しかいない過疎かそ地域ではほぼ全てが保守的なので、95%ほどに効果があると思われます」


次郎は仕方なく、竹箒で辺りを履き始めた。介護職をやっている事もあり、結構仕事として掃除する機会が多い為、次郎は掃除には多少の心得がある。

孔雪梅は可愛いしスタイル抜群なのに、意外と掃除が上手いんだなと見とれていた。まだ寒さが残るのに、冷水をバケツに貯めて雑巾を絞っている姿は確かに心を打つ。


「あら、どうしたの?あなた達誰?何やってるの?」

アパートに住んでいると見られるオバサンが不審そうに声をかけてきた。


「あっ、はじめまして奥様。私は石ノ森遥いしのもりはるかと申しまして、こちらの石ノ森次郎の妻でございます。先日からこちらに越してまいりまして、本日から皆様にご挨拶をさせていただこうと思っていた矢先、主人が挨拶の前にまずは、今後お世話になる近隣にお住まいの方の周りを掃除しようと言い出しまして。突然で驚かせてしまって、返ってご迷惑にならないかと心配だったのですが」


「あら、若いのにしっかりしてて偉いわね。そういう事だったらいいのよ。私も最近まで、周りをよく掃除してたんだけどね。なんたって、ここらじゃ私が一番、まだ若いから。最近は私も腰がちょっと痛くてね。いいわよ。困った事あったらなんでも言ってちょうだい。このアパートは、まあアパートってだけあって、せいぜい10年ぐらいの人だけど、あの辺の辺りは、もう何百年も住んでる家ばかりだからね。色々うるさい事言う人いると思うけど。また色々教えてあげるね。遥ちゃんだっけ。私、美香っていうの。よろしくね」


「光栄でございます!美香様、今後とも末永くお付き合いさせてください!ほら、あなたも。」


「美香さん。私は次郎と言います。また改めてご挨拶させて頂きます。」


「次郎ちゃんね。中々の青年だわ。でも、よくこんな美人でできる奥さん見つけたわね。きっと魅力的な方なんでしょうね。若いって羨ましいわ。じゃあね」


美香と名乗ったオバサンは、部屋に入っていった。


「ああいう奥様は味方にすると頼りになりますが、敵にすると、とても面倒な事になります。こうやってコツコツとまずは今日一日、近隣から固めて行きますよ」

孔雪梅は耳打ちした。


「大体、お前なんで勝手に、人の苗字使って。それに名前も偽名かよ。よくするっと出てくるなあ。そういう事が」


「あら、孔雪梅でーす。中国人でーす。次郎ちゃんと同棲中でーす。と言えばよかったでしょうか?執権次郎様?」ニコッと笑いながら孔雪梅は言った。確かにこういう田舎は、妙にそういう事を気にするからな。


次郎と孔雪梅は他にやる事も無い田舎で、2週間、公職選挙法違反である、告知日前の選挙活動に勤しみ、着実に良い知名度を上げていったのだった。


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