第8話 縛られるだけじゃなく犬
次郎は、十字架に両手を縛られ吊るされていた。一応死なないようにという配慮なのか、水滴が滴り落ちてくる薄暗いところだった。水滴は丁度舌を伸ばせば、なんとか舌に当たるように調節されているが、しばらくするとこれは配慮どころか高度な拷問だと気づいた。
何しろ、水滴は何とか舌を伸ばせば受けとめられるが、1滴を受け止めるだけで、舌がヒリヒリするスピードで
きっと俺の様子を隠し撮りするのではなく、見てる、という意思表示がしたいから、わざわざ見えるように監視カメラを設置しているのだろう。
「ワン!ワン!!」
はっとした。暗くて気付かなかったが、よく見てみると、犬が首から下は地面に埋められている。犬と言っても、土佐犬だ。こいつが抜け出してきたら食い殺されかねない凶悪な顔をしている。
それにしても
鳴き声も異常だ。狂った感じだ。
もう少し観察してみると、犬は一生懸命、穴から出た首を押し出して、目の前にある塊に口を伸ばそうとしている。
とどきそうでとどかない絶妙に嫌らしい距離だ。
肉か何かか・・・と思って目を背けた。
人の生首じゃないか。本物だ。まだ、腐敗していない新鮮な生首だ。
「グルルル」
犬は必死に、人の頭を喰おうとしているのだ。
だが、届かない。ギリギリ届かない。
なんだんだよ。これは。
それにしても、もし誰も助けが来なかったら、いずれ確実に死ぬな。
自分の糞尿に
そもそも、俺はどうやってこんな風に縛られて監禁されたんだ・・?
記憶が
そう言えば、猿爪とかいう爺さんに拉致されたんだったなあ。
復讐の為には犠牲も止む得ないとか言ってたぞ。俺も痛い思いするとか言ってたが、ここまで痛い目と知ってれば・・・。
確か、復讐する為には、多少の犠牲が出ても構わないとか、恨まないでくれよ。これも必要なんじゃ、とか、なんか言いながら泣いていたような気がする。デカイ
それで、休憩もせず、ひたすら車を飛ばし続けて、猿爪の爺さんとは段々仲良くなった気がしてきて、心を許してしまった。それで呑気に寝てしまったのが運の尽き。俺は本当に馬鹿だ。起きたらこのザマか。
大体、なんで俺がこんな目に遭ってるんだ?俺をこんな目に遭わせて得する奴なんていないだろう。
予想を超えて何事も無く、2日経過した。
犬は、ぐったりしていた。頭にはハエがたかって来た。卵を産み付けて、じきにウジが湧くだろう。
どうにかなるだろう、こんな事が起こるはずが無いと思い、根拠の無い楽観した気分ももはや完全に消えた。
パンツを足でなんとか脱ぎ去り、下半身は露出。その下には糞尿が溜まってきた。幸い下痢はせず、固い大便だった為早く乾燥してくれたのが救いだ。
当然ではあったが飲まず食わず。いや、偶に渇きが限界に来た時は、水滴を
もしや・・・龍?
あ、そうだ。すっかり忘れていた。こんな事をしそうな奴な唯一の男だ。
クソ野郎。なんなんだあいつは。変態サイコパスか?
いや、そうじゃない。あいつは、俺ごときを傷めつける為に、こんな馬鹿な事するタイプとは思えない。もっと損得にシビアで、無駄を嫌う頭脳派だが冷血漢という感じだった。
無駄を嫌う人間が、俺ごとき一介の介護士にこんな手の込んだ真似をするんだ。単なる八つ当たりや嫌がらせなはずがない。なんでアイツは、俺に3千万をチラつかせたんだっけ。和田夏子がいて、活田庄作がいて・・三郎という男がいて・・・。なんだったんだんだろう。
あ、そうだ。そもそもここは、四国のどこかで、あいつは四国を独立させるとか言って、俺に大統領になれとか言っていたな・・・。
そんな事を考えているタイミングを見計らったように、奥の暗がりから2人が歩いてきた。
「次郎さん、私は使命があります。生きている以上、成し遂げなければならない使命が。人に迷惑をかけようが、人を犠牲にしようが、やり遂げなければならない事が。あなたには、人に迷惑をかけようが、人を犠牲にしようが成し遂げたい事はありますか?」
妙なハイテンションで龍が気持ちよさそうに声を響かせた。
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