第7話 動機が違う
「拉致?冗談はよしてくださいよ。本当にこのまま高速乗る気ですか?大変な事になりますよ」次郎は言った。
「まあ、堅い話は抜きだ。俺を
猿爪は大声で言った。
「動機の質?」
「そうだ。お前ら若い癖に何も考えずに、ご苦労様なこった。毎日お前らの安月給から徴収した年金で世話されているジジイババア相手にこき使われてなあ。それにしても偉そうな老人多いよな。足洗ってもらっても、ありがとう1つ言えねえ。しかも、自分の金で洗ってもらうならまだしも、こいつら若造の金で養われて、その若造に足まで洗ってもらっても、ヘッチャラだ。年取るって事は羞恥心を失うという事だからなあ。こりゃ、快感だぜ。何しろ、ジジイ、ババアが一番欲しくて、一番手に入らないもの、若さ、若さを持っている奴を虐めるほどの快感なんて無いからな。俺もジジイになってようやくその快感が分かったがよ。」
「ああ、もう高速乗ってしまった。どうするつもりなんですか。それにしても猿爪さん、要介護とはとても見えませんが、不正したんですか?」
「俺はな、こう見えても結構シャイだし、最初は戸惑ったぜ。いわゆる認知症患者として、それも重度なのを装ってくれ。と言われてやったまでだ。だが、やってみるとハマっちまってな。
「どんな動機と」
「復讐さ。残された人生、復讐に一点張りだ。だから悪く思わんでくれよ。これからお前は、ちょっと痛い事に遭ったりするが、俺にとっては、小さな事だ。気にしないつもりだ。おっ、陽子ちゃんがまたボケ出してるぞ。ヤバイな。マダラ認知だからな。油断してると認知状態に戻っちまう。陽子ちゃんにもこれから働いてもらわなきゃならん事が山程あるからな。」
陽子ちゃんを見ると、何か尋常じゃない言葉を見えない相手に向かって楽しげに喋っている。目が狂気じみている。瞳孔が渦巻いている。確かに、正常な状態では無い。
「陽子ちゃんな。お前知らないだろ。世が世なら姫だよ。普通じゃ近寄れないご身分の出だ。いいところのお嬢ちゃんじゃなきゃ体験できない、あらゆる日本の伝統文化を知っている。正に生き字引きと言えるのさ。お前らが信用してる、なんだあれ、あのグーグルとか言う奴か。そんなのじゃ、到底かなわない。知り得ない。本当の文化と言うのに精通しているんだ。こう見えても」
確かに、こう見えてもと言うだけに、陽子ちゃんはいつの間にか、オムツを脱いで頭にかぶろうとしている。
「やばいな」猿爪は苦笑しながら黙った。
パーキングエリアまではまだ遠く、しばらく止まれない。
陽子ちゃんは器用に、局部を出来る限り高らかにし、放尿した。フロントガラスに勢いよく、尿が噴射される。
「まぁ、クソじゃなくてよかった。としよう」
陽子ちゃんは満面の笑みで、自分の仕事ぶりを褒めてもらいたいようにキョロキョロしてキャッキャしだした。
「なかなか、この婆さん、独特なにおいの小便をするな。これも育ちの違いという事かな」猿爪は無理やり笑って気を散らした。
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