第4話 三郎

「三郎さん、黙っていても解決しませんよ。私達が三郎さんに何か押し付けましたか?そうじゃないですよね。全て三郎さんのお望み通りに私としてはご協力させて頂いたつもりです。いかがですか?」


「はい」


三郎と言われた男はうつむきながら声を絞り出した。


「大丈夫。私に任せてください。ほら、今日は疲れたでしょうから、ここまでとしましょうか。これ、交通費です。さ、気をしっかりしてください」


三郎は、顔が一瞬強ばった。テーブルに置かれたのは、450円。


「あ、あのう、交通費はこれだけですか?」


「は?」


「いえ、ですから、交通費はこれですか?」


「あ、ああ。いつもの交通費の額と違うじゃねーかよオメー、いつもの通り、諭吉を出せや!」突然、龍と言われた男がドスの効いた狂気の声で怒鳴った。


「ひゃぁああたあ」三郎が情けない声を出した。


「と、言いたいんですね」龍はニッコリと450円をテーブルから拾い上げ、三郎の手に渡して握りしめた。


「新宿から、あなたの自宅まで、中央線に乗って450円でピッタリです。ご安心下さい。」満面の笑みで龍は言った。


「さ、これから色々とお手伝いしていただかなければならないですから、忙しくなります。今日はしっかり休んで下さい。あなたを救い出せるのは、世界で1人しかいませんよね。」


「は、はい。龍さんし、しかいません。」


「そうです。そうです。きっと、あなたを救い出してみせますよ。耐える時は耐えるんです。一緒に頑張りましょう。さ、」


龍は、三郎と言われた男をドアにいざなった。


「あ、そうだ。三郎さん、大事な事を言い忘れていました。岡山のご両親、お元気そうでしたよ。息子さんが立派に働いていると言ったら、喜んでいました。こんど岡山に仕事に行くと言ったら、ご丁寧に住所も教えて下さいましたよ。ぜひ来てくださいって」


三郎は青ざめた。


「このご時世、親孝行できなくてもいいんです。ただ、迷惑だけはかけたくないですよね」


「龍様、私は龍様だけです!」突然、生気の無かった三郎が大声を張り上げた。


「やめてください。三郎さん。最初に会った時のように、龍ちゃんでいいですよ。ほら、他のお客様もいらしていますから」


女の子が、感じよく三郎を部屋から連れ出した。


気まずい静寂が続く。


何も話しかけてこないつもりか。


沈黙が重い。


「あの、仕事があると聞いて来たんですが、来る所間違えちゃったかも知れませんので」


次郎は、ドアに手をかけたが、開かない。ヤバイ。閉じ込められたのか俺・・・。



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