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 アレックスには好きな女性がいる。ジャシー要塞の近くにあるスペンス農園を経営するジョン・スペンスの娘、モニカだ。年は十七。アレックスよりも少し年下の彼女はよく言えば明朗快活めいろうかいかつな、悪く言えば少しがさつな女性だった。しかし働き者で、艶やかさは薄くても農家の娘としては申し分のない性格をしていると言える。


 彼女と知り合ったのは、二年前の収穫祭の時だった。アレックスは持前のよく回る舌と騙し騙されて磨いてきた話術で人の輪を作っていた。酒の席にさかなは多い方がいい。多くの職場を回った時に経験した話や、色々な人から聞いた話、時にはほら話も交えた彼の語りは多いに盛況を買っていた。


 モニカはそんなアレックスの話術に魅せられた人間の一人だった。それからモニカはアレックスの話を何度も聞きに来た。アレックスも、純粋な少女のモニカに何度も会ううちにどことなく惹かれ始めていた。


 アレックスは断じて違うと思っているが、彼女をその話術で丸め込んだわけではない。確かにモニカがアレックスと一緒にいる理由の一つにアレックスの話の上手さはあるだろう。歯が浮くような台詞で口説いたこともある。しかし彼女は自分のそれだけを愛してくれたわけではないと信じていた。


 モニカはアレックスとは違い真面目だ。それでいて懐が大きい。そんな下らない理由で愛に溺れているわけがない。ただ上辺だけを見て愛する人ではない。


 あまり人に見せたくない部分をモニカに打ち明けた事がある。それはアレックスの深部、孤児院を飛び出しどんな世界で生きてきたか、その一端だ。勿論全部打ち明けられたわけではない。しかしそれでも日の当たる世界で生きている人間にとっては信じられないような出来事を並べたはずだ。


 それでもモニカはアレックスを受け入れてくれた。だからこそアレックスは本気で彼女を好きになった。それはアレックスが孤児の頃にはほとんど経験した事がない温かさだった。


 だからこそ、人生を大雑把に生きているアレックスもモニカに関しては本気だった。彼女に対しては普段はほとんど見せない誠意ある態度を取った。人生で一番本気になってアレックスはモニカを求めた。


 しかし、農園を所有する地主の娘と孤児で胡散臭うさんくさい男。お伽話とぎばなし程の身分の差はないにしても彼と彼女では立場が違い過ぎるのだった。

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