第82話 山田太郎殺人事件 35

    ◆





 三人を殺害した犯人はニイだ。


 昨晩、私は兄を通じてそう皆に伝えた。

 全て兄に代弁してもらったので、兄の言葉のみをピックアップしよう。


「ちょっとおかしいんじゃないかなー?」


「だってイチノセさん、だったのかなー?」


「僕だったらと思うよー」


「あと、も分かっていないよー」


「もしだよねー」


「そうなるとのかもねー」


してー」


 ここまでヒントを与えたら。流石にミワは理解したようだ。

 そこから瞬時に推理を組み直し、ニイが取った手段までを細かく皆に解説した。



 事件の全容はこうだ。



 最初に述べておこう。


 この島に――


 山田太郎は、ニイとイチノセがそれぞれ交互に変装していたのだ。

 ニイはイチノセを脅し、協力させていた。

 例えば最初の船に乗っていたのはニイ。

 イチノセとケンカしたのはニイだし、戻ってきた時にはイチノセに中身が変わっていた。

 だから山田太郎自体はフェイクの存在なのだ。

 何故、山田太郎という人物を創り出したのかは、また後に述べさせてもらう。

 その山田太郎関係以外、『幻の塔』の爆破、イチノセの首の消失まではタッチパッドに書いてあった通りだ。ゴミの殺害も同様だろう。


 ただ、次のことについては確証なく、恐らく、の話だ。


 私と兄とミワが、懲罰房の前で話していた時。

 きっとあの時、懲罰房の中にはゴミの死体とシバの生首があったのだろう。イチノセがいたのか分からないが、何かあった時に待機していたものと思われる。

 だからすぐさまゴミの死体がニイと入れ替われたし、シバの生首を後に簡単に三階に持って行けたのだろう。

 そしてその後、ニイはゴミの死体を自分の代わりに座らせ、自分は三階に行って死んだように見せかける準備をした。


 ニイが首を吊ったのに死んでいない方法。

 それは至って簡単なマジックだ。


 まず、シャツの下でもいいが、見えない所で脇や腹に巻きつけるようにロープを通す。このロープで身体を支える。

 次にそのロープの途中で別のロープを型結びで結び付ける。ポイントは首の後ろ辺りに結び目が来るようにすることだ。

 最後に、その途中で結びつけたロープを首に巻きつける。


 すると、の為、生きていながら吊られることが出来る。遠目だったので多少の動きは錯覚で済ませられるし、傍からはただ単に身体を吊っている様には見えないので、確実に死んでいると思わせられる。

 ラバーマスクを死体に被せていたのも、、という意図があったからだ。ここのためだけに、死体にはラバーマスクを着用させていた。顔が確実に分からなくてはいけない、クローゼットの中で首だけになったイチノセの時だけは例外だが。まあ、実際に死んでいないし。


 その後は爆弾と見せかけて皆を遠ざけた後、ゆっくりと自分で梁に登り、隠し持っていたナイフでロープを切って回収し、上から火をつけた花火を落として逃げた。爆破のタイマーを作動させたのも、もしかしたら遠隔でやっていたのかもしれない。あまりにもタイミングが良かったので、そうとしか思えない。

 きっともうちょっと時間が稼げるとは思ったのだろうが、ポンコツ刑事が考えもなしに突撃したので、不可解な状況になってしまった。時間かければ消失の方法も色々と考えられただろうに。

 シバの首を廊下に置いたのは、現場から逃げる時間を稼ぐためである。

 その隙にニイは使

 三階まで行くのに、しかも急いでいる際には、遠くの端にあるエレベータを使わずに中央にある階段を使うのは至極当たり前である。

 あのエレベータは、重い荷物を運んだりする時に利用することしか結果的にしないので、結構な死角となっていたのだ。

 彼らは犯行を終えて、姿を消した。


 だがニイはイチノセに全ての罪を着せるべく、ロクジョウを襲うために姿を現し、そして天井上にいたイチノセを落とした。恐らくは事前に殺害していたのだろう。

 そして、この島から脱出するつもりだった。

 山田太郎はそのために創り出された存在だったのだ。



 いやちょっと待て。

 その言い分はおかしい、と思う人もいるだろう。


 ニイ。

 彼の体型は太っている。

 山田太郎の中肉中背にはなれないだろう。


 その疑問は正しい。

 太った人が瞬時に痩せるのは無理だ。

 だが――痩せている人が瞬時に太っている様に見えさせるのは、モノを詰めれば簡単にできる。


 要するに、

 腹にずっと詰め物をしていたのだ。

 もしかすると吊られていた時に詰めていたのはシバの首だったのかもしれない。そうすれば吊られた時に中の詰めモノが落ちても、そちらの首の方に意識が取られるだろうから。



 以上が、ニイが使ったトリックだ。



 その推理について皆が納得した。

 推理直後に「今すぐ捕まえに行きましょう!」とポンコツ刑事が意気込んでいたが、夜だし、捕まえた後一晩中ニイを拘束し続けるのも難しいだろうと説得し、翌朝にすることにした。結果的に何故か非番なのにポンコツ刑事が持ってきていた手錠があったので、完全に不要な考えだったのだが。

 まあ、あのタッチパッドの中身の遺書が読まれていないと『幻の塔』に来るはずもない、とニイも認識しているだろうし、安心して眠れるというメリットもあったので、結果としては翌朝にした方が良かったのだったが。


 そして翌朝に皆で塔に向かって、逮捕劇へと繋がった、というわけだった。


 後で分かったことだが、あの『幻の塔』の爆破は凄そうに見えたのだが、実際にはそんなに威力は無かったようだ。塔の表面のみを燃えるように細工したとのこと。まあ、最後に自分が捕らわれる所だったから、そのようにするのは当たり前だと言えばそうなのだが。しかし爆破を目の前で見ると分からないモノだ。



 こうして。

 二泊三日の間で島で起こった殺人事件は幕を閉じたのだった。

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