第79話 山田太郎殺人事件 32

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 みなさん。

 ご迷惑をおかけして申し訳ありません。

 この遺書を見ているということは、私の犯行がばれたということですね。

 犯行がばれたら自殺しよう。

 その誓いは守ったようですね。

 誰まで殺せたのでしょうか。

 ロクジョウまで行けたでしょうか。

 ターゲットを全員殺害できていればいいですね。

 私の計画では四人、殺害しているはずです。


 シバ。

 ニイ。

 ゴミ。

 ロクジョウ。


 この四人は『現実館事件』の際に、とある使用人を見殺しにして犯罪に走っていました。

 その使用人は、私の恋人でした。

 誰も知らず、ひっそりと付き合っていました。

 幸せでした。

 だから許せませんでした。

 あんな奴らが、彼女の人生を奪い去ったかと思うと。


 だから計画を立てました。

 正常ではないルートでこのモニターツアーを立案して実行させ、そこにこの四人が集まる様に仕組みました。


 そしてまず、私は一日目の夜に、山田を拘束し、『幻の塔』に縛り付けました。

 理由は、彼があの事件の関係者で、事件を調査していたからです。

 今、私はあの事件の容疑者になっているはずです。

 シバと一緒に金品を盗んだと思われているはずです。

 それが実はシバとニイだったということになれば、私が恨みを持っていることがばれてしまいます。

 だから仕方なく、彼を殺害することにしました。

 塔に縛り付け、隠していた爆発物で建物ごと吹き飛ばす。

『幻の塔』を爆破した理由は、通信手段の遮断と、爆弾があるという認識を皆に持たせるためです。

 後にカウントダウンをするだけで爆破を想定させるようにするためです。

 結局建物は破壊できませんでしたが、目的は達成できたので放置することにしました。山田も放置して問題ないと判断しました。いつ崩れるか分からない建物に近づく人はいないでしょうし。


 また前日の内にシバを殺害しておきました。

 首を斬り、胴体を部屋に置いてきました。

 その後は計画通り。

 山田に成り代わりました。

 まずはクローゼットの中で首だけになっていたように見せかけました。

 トリックです。

 鏡を斜めに置いてクローゼットの横を移すことで奥に何もないように見えることを利用して、首から下が存在しないように見せつけました。クローゼットもあらかじめ加工して、膝立ちをすればちょうど隠せるようなものにしておきました。

 そしてタッチパッドから音声を鳴らして爆弾騒ぎを起こしている隙にクローゼットから出て、まずは加工したクローゼットを破壊すべく火を放ちました。

 加えて、既に着替えてあったスーツ姿にラバーマスクを被って、扉の陰に隠れていました。あのドアを最後まで開けないように設計指定したのも、このためです。

 あとは火災騒ぎの際に紛れるだけです。

 そうすればクローゼットの中に何もなく、シバの部屋から胴体のみが出てくる形となって、私は完全に死亡した扱いになるでしょう。


 ただその後に、ゴミが私を理由なく疑いました。

 だからわざと懲罰房に入りました。

 ゴミの信用を得ておくためです。

 幸いニイが言い出してくれましたが、誰かに見張りを依頼するつもりだったからです。

 見張りがニイかゴミであったら、事件のことを持ちだして外に出させるつもりでした。

 だからニイに対して事件のことを持ち出して鍵を開けさせ、三階まで連れて行き、隠し持っていた注射器で毒を注入して殺害しました。幸い三階に行くまで見つかりませんでしたが、見つかってもトイレであるとか理由を付ければ問題なかったでしょう。

 彼にはラバーマスクを被せ、あらかじめ用意してあったロープを利用して吊るしておきました。


 そして次にゴミを殺害しました。

 ゴミは部屋から出すにはどうするかを色々と考えていたのですが、結局はニイがマスターキーを持っていたので、閉じ籠っていたゴミを脅して懲罰房まで連れて行き、毒で殺害しました。あとはラバーマスクを被せるだけです。


 ラバーマスクを被せた理由は、混乱させるためもありましたが、入れ替わりという所から目線を逸らす目的もありました。

 ラバーマスクを被せれば誰が誰だか分からなくなります。だから敢えて死体に被せることでラバーマスクは入れ替わりの可能性という視点ではなく、死体に理由なく被せられているモノと認識させることを目的としました。またアピールすることで、そんな単純なことはないだろうと思わせるのも狙いましたが、効果があったかは不明です。

 ニイの死体を消した理由も同じです。

 私が万が一にも生きていると思われないために、特定の死体を消している、何故、というように思考を向けさせるのが目的です。鏡のトリックがばれないとは限らないので、その可能性を低くしたかったのです。


 あとはロクジョウを殺害出来れば、私の復讐は終わります。

 ニイを先に殺害したのは失敗しました。

 だけど問題ないでしょう。

 ここまで来たら山田のまま強制的にロクジョウを殺害すればいいだけです。

 他の人も関係ありません。


 この計画を持って、私は消えます。

 イチノセ、という人物は消えます。


 私の復讐を彼女に捧げます。



イチノセ ハジメ



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