第69話 山田太郎殺人事件 22

 山田太郎の姿がない。


 この懲罰房の中に隠れるような場所はない。

 あるとしたら、上に登るくらいだ。

 だが、上は手を掛ける場所など――


「……あ」


 あ、と、う、しか言えない私が、明確に発生した驚き声だった。

 兄だけではない。

 そこにいる誰もが、私の声に気が付いて。

 私の意図するところを気が付いた。


 上。


 天井付近。


 ――そこにいた。


 首に巻かれた縄は、細くても強度がありそうだ。

 ゆらり、ゆらりと少々だが揺れている。

 またその顔は、例にも漏れずにラバーマスクに覆われていた。

 誰かが分からない。

 だが、その体型故に、その人物は特定出来た。

 下腹部が、いわゆるビール腹というかなりの大きな膨らみがある。気のせいかいつもよりも大きく見えた。

 この島の中でそんな体型は、ただ一人しかいない。


 そんな彼の首には――



 ニイ。

 彼は

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