第43話 お腹減った事件 12

 想定していた方とは逆の方に、哺乳瓶は倒れてしまった。

 ……確かに考えるべきだったと思う。

 淵にあるからといって、振動でこちらに落ちてくるとは限らなかった。

 その可能性を考えていなかったのは私の落ち度だ。

 というか空腹のせいだ。

 つまりあの母親が悪い。

 あーもう。よく分からなくなってきたよ。

 あうあうあうと悲鳴を上げる私。

 転がってしまったが故、振動を与えてもこちらに落ちてくる可能性は低いだろう。

 残念ながら私の食事は終わってしまったのだ。


 目の前にチャンスがありながら摂取できない、という事態で。


 思い切り、ガクリときた。

 ここまでか。

 ここまでで諦めなくてはいけないのか。

 あるのに。

 知っているのに。

 見えてはいないが、どこにあるかは分かっているのに。

 それでも私は、空腹に耐えているだけしか出来ないのか。


 ……違う!


 私はまだ諦める訳にはいかない。

 考えろ。

 どうすれば台所の奥にある哺乳瓶の中身を入手できるのか?

 私のステータスと、その場にあるもので可能性を探れ。

 腹が減っていることが邪魔になるなら、集中しろ。

 頑張れ私。

 考えろ。

 思考を回転させろ。

 柔らかくなれ。


 


 ……赤子だけど。

 

 さて、単純に考えよう。

 落とすなんて考えはなしだ。

 落とすことは不可能だ。

 ならばどうする?

 一番簡単な方法は何だ?

 それは自分の手で取ることだ。

 自らが手に取るにはどうすればよいのか?

 そんなのは簡単だ。

 哺乳瓶の近くまで行って手に取ればいい。


 つまり――


 では登るにはどうすればいいか?

 単純な高さでは私では届かない。立ってですら淵に手を掛けることが出来ないだろう。

 おおよそ一メートルちょっと。

 ならば、その間に何かがあればいけるのでは?

 何かとは何か?

 台所には何もないわけではない。

 その間に、引き出しがある。

 では、その引き出しを使えば登れるのでは?



 そう――使

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