第41話 お腹減った事件 10
私はブレーキを掛ける。
実際に進んでいた訳ではないので、脳内でブレーキを掛けただけだが。
進むのを止めたのは、とある懸念点からだった。
哺乳瓶。
あれを下に落とすのは良しとしよう。
でも――本当に落としても大丈夫なのだろうか?
キッチンの床はフローリングだ。
当然、固い。
そこに落とした哺乳瓶。
……割れないだろうか?
いつも使っている哺乳瓶はプラスチック製だった。
それだったら落としても割れないだろう。
だが……もしも、だ。
もしもあの母親が、ガラスの哺乳瓶を買っていたら?
プラスチックの哺乳瓶は摩耗が激しいと聞く。その点、ガラスの哺乳瓶の方が物持ちが良いということも知識としてある。
今までのはたまたまプラスチックであって、ガラスの哺乳瓶も持っていた可能性もある。
新しく買ってきた可能性もある。
あの母親のことだ。あらゆる可能性を考えておくべきだ。
しかし、困った。
もしガラスの哺乳瓶だった場合、落として割れる危険性がある。
そうなると床を舐めることとなる。
流石にそれは嫌だ。プライドが許さない。
どうにかしてあれがプラスチックかガラスか見分ける方法がないだろうか?
じっと瓶を見る。
うーん……ここからだと見える部分が少ない。
もう少し離れた所でどうだ?
私は元の通路に戻り、遠目から再び哺乳瓶を見る。
先程よりも注視する。
……駄目だ。さっきよりも見えない。
透明な部分は先より見えるが、判断が付かない。
それに日射が背中に当たって、妙に熱くなってきた。早くこの場から離れよう。
ん? 日光?
……そうだ!
閃いた。
遠くから判定できる方法があるかもしれない。
私はリビングの方へと戻っていき、とある場所から、とあるモノを持っていく。
私の手でも持ってこれるモノ。
それは――手鏡だった。
手鏡。
それで自分の姿を見つめるわけではない。そんなことをしても腹は膨れない。
何に使用するのか?
それは日光という単語があれば、結び付けられるだろう。
私はさっそく実行に移す。
場所は、リビングとキッチンのちょうど境目。
日光が当たり、哺乳瓶が見える位置。
そこに鏡を、斜めに置く。
鏡を利用して日光を反射させ、瓶の淵に当てるために。
プラスチックとガラスでは反射率が違う。
だから日光を当てればその違いで判断できる。
さあどうだ。
鏡の角度を調整して、ちょうど透明部分に日光を当てる。
きらりと光る哺乳瓶。
日光も直進せず、屈曲する。
さて、結論を言おう。
結局――見ても判らなかった。
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