解答編

第14話 私誘拐事件 13

「あらあらぁ。大丈夫ぅ?」


 母親が私を抱えながらベビーカーの方に足を運ぶ。

 その声を掛ける相手はただ一人。

 今は床に引っ繰り返っている彼に向かって、だ。


 ――


「いたたたた……」


 兄は、ベビーカーの横で膝をさすっている。


「唐突にどうしたのぉ? いきなり走ってぇ?」

「んー、なんかねー、うんとねー」


 そう声に出しながら立ち上がり、ベビーカーの中をごそごそと漁る。

 周囲が呆気に取られている中、兄は手を止めずにベビーカーの中を弄りまわす。


「あ、あった」


 大声で、兄がシートの下から何かを取り出す。

 その手の先にあったのは――


「……袋?」


 女性ポンコツ刑事が首を捻る。

 だが、警部は何かに気が付いたように目を見張って、手袋を付けながら兄の近くに駆け寄っていく。


「ちょっといいかい?」

「あ、うん。どうぞー」

「ありがとう……これは!?」


 警部の目が見開かれる。

 彼がかざしたことで私にもよく見えた。


 透明なビニール袋のようなもの。

 但しその中には、白い粉が入っていた。

 かなり薄く広げられているそれは、私の寝ていたシートの下にあったようだ。


 予想通り。

 完全に予想通りだった。


 あの男は、これをベビーカーに入れたのだ。

 ただ、私の背中に位置していたとは思っていなかった。クッションとかのさらに下のシートにあったから、きっと帰っても母親は気が付かなかっただろう。

 ではその白い粉は何か。

 片栗粉だとかそんなギャグ漫画でありそうなものではない。



「恐らくこれは……だ」

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