赤ちゃん探偵

狼狽 騒

プロローグ

第1話 プロローグ

 ――慟哭どうこく


 初めて意識が芽生えた時、私は泣いていた。

 泣き叫んでいた。

 何故泣いているのだろう。

 何故叫んでいるのだろう。

 答えは分からなかった。

 いや、分かっていた。

 分かってはいたけど、理解出来ていないだけだ。

 自分の意志では止められない。

 意志が通じない。

 それが苦しいから泣いているのか。

 違う。

 そうすべきだから、泣いているだけだ。

 伝える。

 伝達する。

 それだけしか出来ない。

 ……ただ。

 今は何を伝えたいのだろう。

 自分は彼女に何を訴えたいのだろう。

 その答えは簡単だ。

 何もない。

 何もないけど、泣いている。

 何もないからこそ、泣いている。

 目的は無い。

 ……ああ、そういえば。

 今、振り返ってみれば。

 この時。

 この時だけだったな。

 私が意志を持たずに泣いたのは。




 私、




 母親の体内から出た直後。

 生まれた時の話である。

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