第51話 ペンタグラム・ヱクスプロージョン

 ヱルゴールドは、まだダークフェンリルが近くに存在することをミカに伝えてきた。メタルドライバーによると、シャンバラのゲートに侵入し、地球の核へと向かうはずだった。だが、その者はまだ地上に居たのである。

 同時に別のデータも伝えてきた。ゲートに、ゴールド・ドライバーのアストラル波がわずかながら確認された。ゴールド・ドライバーは、破片となる直前に、わずかながらその生命を結界へと変化させ、ダークフェンリルの侵入を防いでいたのだ。他のドライバーたちも同様にメタモルフォーゼし、ゲートを守っていた。もう元の姿に戻る事はできないだろう。どうやら途中から身を呈してゲートを護る作戦に変更したらしい。

 ダークフェンリルは、放たれた後、怒りにまかせて地球を七周駆け廻り、あちこちに天変地異を巻き起こしていた。どうやら他のゲートも発見できなかったらしい。そして再びこのヒマラヤに戻ってきたときには、さすがのミカ・ヴァルキリーもどうすればいいのか攻めあぐねる強大な存在になっていた。

 ダークフェンリルは半分モヤのようになりながらさらに巨大化し、その中心点は、この時空ではなかった。特異点を形成し、ダークフェンリル全体でブラックホールとなっている。その先には、絶望の未来図が描かれた、破壊というべきか、それとも暗黒の宇宙誕生とでもいうべきか、時空の断絶が待ち構えている。地球の核へは到達しなかったものの、これはメタルドライバー軍団も想定外の危険な状況であった。

 ミカは声を発して、ルビースピアーの曲がる光線を次々撃ち込んでいく。だが光線は吸い込まれていくだけで、ダークフェンリルに変化はない。

「このままじゃ、勝てないか」

 ミカはじっと右手に握りしめたルビースピアーを見つめた。

 宇宙最強の兵器、守護霊は言った。その言葉に偽りはないはず。しかしミカはまだ、その意味するところを知らない。ルビースピアーの本当の力をミカはまだ体得していない。

「私の情熱の全てをぶつければ、不可能はないはず。槍と私が一体化する……。私の宇宙で唯一の個性がこのルビースピアー。-------誰のものでもない、その力を真に発揮する時、究極への道が開かれる、究極への道は誰しもが同じじゃない、私だけが知っている唯一の道-------そうか分かった、平行宇宙のマイクスタンド……これは音の増幅装置なんだ!」

 ミカは渾身の叫び声をあげて、ルビースピアーをダークフェンリルに向けた。ミカの背にヱルゴールドが身口意具足時輪曼荼羅を作り出す。

「グリッドの五つの炎よ灯れ!」

 ミカは右手に握ったルビースピアーで五芒星を前方に向かって描いていく。その時、ヒマラヤのゲートを護るため、塵となって地面に散らばっていた各メタルドライバーの鉱物が吹きあがって舞いあがった。色とりどりの粉じんが、きらきら輝きを放ちながらダークフェンリルに向かって五芒星を浮かび上がらせてゆく。

「土よ! 大地を固めて金を生み出せ、金よ! 大気を肌に集めて水を作り出せ、水よ、種を木に育てよ! 木よ、燃えて火を生み出せ! 火よ、灰を土に戻せ!! 五つの元素よ、駆け廻れ、駆け廻れ、駆け廻れ、ペンタグラム・ヱクスプロージョン!」

 ミカの声はリズムとなりメロディとなっていく。五芒星の軌跡は、虹色の光の筋として形を維持しながら、膨張していく。ルビースピアーが振動する。かつて、ミカが三十万年前に使った技を思い出したのだった。虹に縁どられた赤いオーラとなって、周囲に発散していく。光は、ミカの声と連動している。振動が増幅し、山という山で雪崩が起こっていく。ミカの声のエコーは、時空戦略ホールのヱルゴールドに異変を起こした。

「まずい、ヱルゴールドが壊れる!」

 ヱルゴールドに赤いオーラが出現したことが視覚で確認できた。怜は慌ててアストラル通信の出力を落とした。

「これはミカのアストラル体が生み出した音波の衝撃波、宇宙の旋律だわ!」

 怜はヱルゴールドのデータを見て驚いた。

「宇宙に音が?」

「宇宙はアストラルレベルで音が満ちている。宇宙は本当の意味で真空じゃないし、決して無音じゃない。その音の無数の振動波が宇宙を維持している……。そして宇宙が破壊される時にも、やっぱり音が破壊を起こしているのよ。ミカは絶対音域を槍に共鳴させ、宇宙の破壊の旋律でドライバーを倒した。そして今それ以上の事が……。五行のエネルギー循環は、宇宙創成のエネルギー。あのルビースピアーを使って」

 ミカとルビースピアーが完全に一致した時に起きる現象、それが絶対音域五芒星大爆発。

 膨張した五芒星はダークフェンリルを包囲し、真紅の大爆発を起こした。ダークフェンリルは断末魔をあげて跡形もなく消え去っていた。荒れた天候は風と共に穏やかになり、元の晴れた空に戻っていった。

「伊東アイ、今からあんたの所へ行くわよ!」

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