第50話 十二神将

 渓谷から、十個の光の輝きが現れる。どんどん嵐がひどくなる。ヱルゴールドのナビゲートによると、ヤルンツァンポ大渓谷のどこかにシャンバラへの入口、アルカナゲートがあるはずだったが、その地下のゲートが開いた。しかし、ゲートから十機のメタルドライバーが出現するとすぐにゲートは閉じて場所は特定できなかったらしい。

 ミカ・ヴァルキリーは追跡を一端中断して、応戦しなければならなくなった。人類側に立つヱルゴールドから、続々相手の情報が送られてくる。彼らがシャンバラのウォリアー。時輪経に旧支配者と記されている「十二神将」、すなわちビカラ・ショウトラ・シンダラ・マクラ・バヤラ・インダラ・シュウランラ・マニラ・アンダラ・ミコラ・ワキラ・コンピラの十二機。そのうち、ビカラことセレン・ドライバーと、シュウトラことルビー・ドライバーはミカ・ヴァルキリーが撃破した。

 残るは、パール・ドライバー、アメジスト・ドライバー、エメラルド・ドライバー、シルバー・ドライバー、コッパー・ドライバー、サファイア・ドライバー、ガーネット・ドライバー、プラチナ・ドライバー、ビスマス・ドライバー、そしてリーダーのコンピラこと、ゴールド・ドライバーである。

 神将ことドライバーはもともと十二体、十二のエルと相応する十二の石で組成されている。一機一機は微妙に異なり、その形状は十二神将の仏像でもあり、戦国武将の甲冑のようでもあるが、全てが百パーセントの純粋な鉱物で出来ている。アンテナランスもそれぞれ少しずつ違い、先端が独鈷や三鈷、五鈷など多種多様な密教法具の形状やその他の槍のバリエーションを有している。

 ミカはルビースピアーを構えて、上空から様子を伺った。アストラル・シールドが嵐をよけている。

 奇しくも、ヱルゴールドと同じ金属であるリーダーは、ミカ・ヴァルキリーに叫んだ。

「破壊は自らを破壊することだ!」

 ドライバー軍団は蓄光の輝きを放ち、中でもゴールド・ドライバーは別格な輝きを放っている。

「阿修羅よ、お前も、地球を失って住む場所などないはず。生命の根源であり拠り所である地球を滅ぼし、自らが生きる道などないのだ。我らメタルドライバーとヱルは、始まりの時に星より誕生した。我らは、三十六億年前の太古に、伊東アイによって地球創成の世界建設のために産み出された。我らは戦士として、ヱルは頭脳として。太古の地球環境は荒々しく、我らが武装された身体はそのためのもの。その後に、我らは数々の変遷を経て、封印されていた。しかし今、この星とともに、この星を守るために! 自らを滅ぼすその愚かさに気づかぬお前に対し、我らは立ちはだかり、破滅を阻止するだろう」

 全身を遂げで覆われた黄金の仏像といったゴールド・ドライバーは、ドシンドシンとアンテナランスを大地に打ちつけながら大時代的な演説をした。古武士といった印象である。

「ダークフェンリルなら、あたしが倒すから問題ないって言ってんじゃん!」

「うるぼれるな! ダークフェンリルは今、地下への他のゲートを求めて地球中をさまよっている。もはや我らに残された時間はない。地球にも、残された時間はない! ガーネット、サファイア、往け! 我らはダークフェンリルを追う」

 ガーネット・ドライバーと、サファイア・ドライバーがプラズマ力で浮上してミカ・ヴァルキリーに迫った。

「金閣寺ッ! 燃える音楽頂戴!!」

 ミカがヱルゴールドに命じると、ロッシーニの「ウィリアム・テル序曲」が全世界のヱルに流れる。今度のヱルゴールドの選曲はなんと運動会のテーマ曲。

 二機はミカの周囲を高速で飛び回りながら、その鋭い槍の先端をミカ・ヴァルキリーの体に突き立てようとした。二機のウォリアーとドッグファイトしながら、ミカは相手の動きを、アストラル波の流れで感じ取っている。その時に頭から流れ出る黄金のツインテールがアンテナのような役割を果たしている。ドライバーは嵐の雲間に隠れながら、ランスから発射したプラズマ弾を撃ってきた。そして時折ミカに急襲して、ランスで斬りかかるのだった。

 ミカは雲隠れする敵と槍で撃ち合った。ミカは音楽に乗ってまるで火の弾丸のようなスピードで両機の間を切り抜け、「おーりゃぁー!!」という雄たけびと共に二機を次々とバラバラに粉砕した。

 アストラル通信で、ヱルゴールドがミカの見ている情景を映像に視覚化し、時空戦略ホールの晶達はミカとドライバーの格闘を見ている。

「あんたの革命は、ミカの戦闘力を予想してたの?」

 怜はぽかんとした顔をして訊いた。

「こんなこと、私は予想もしなかった。圧倒的にミカ・ヴァルキリーが強いわ。人類に、これほどの力が眠っていたなんて」

 大スクリーンで見つめる宝生晶の目にも、驚嘆の色が宿っている。ミカ・ヴァルキリーの方が、メタルドライバーに戦闘能力で勝っている。ヱルゴールドが流していた音楽は終わった。

 仲間を破壊された事を察知したゴールド・ドライバーと計八機のメタルドライバーが、捜索を打ち切り、続々引き返していく。ミカにシャンバラのゲートに侵入される恐れが迫ったためだ。

 真紅のアストラル・シールドをなびかせたミカ・ヴァルキリーは、神将たちの急襲を待ち構える。

 エメラルド・ドライバーがミカに襲い掛かった。ミカは相手の腕を掴んで投げ飛ばした。エメラルド・ドライバーは飛んで行き、山肌を突き抜けて穴を開け、さらに吹っ飛んでいく。ミカのルビースピアーが背後に接近したパール・ドライバーの胸を突き破る。一瞬にして純白の兜蟹のような鎧に覆われた巨人は白く輝き、空中爆発した。

 赤い槍が次の獲物を捉えた。ミカは前方のコッパー・ドライバーを袈裟切りに叩き切ると、その身体を真っ二つに引き裂いた。山脈を破壊して投げ飛ばされたエメラルド・ドライバーが戻って来て、空から蹴りを加えようとする。ミカ・ヴァルキリーは避ける。だが、エメラルド・ドライバーの鍵爪がミカの首を掴んだ。ミカは苦しそうに一瞬もがく。ミカはエメラルド・ドライバーの両肩を掴むと、ヘディングした。転倒したエメラルド・ドライバーの頭を右手でグッと掴んで持ち上げる。そのまま地上に叩き落とし、自らも地上に降り立った。エメラルド・ドライバーに馬乗りになり、ルビースピアーを両手で持って胸に突き降ろす。エメラルド・ドライバーは身動きもできない内に爆発した。

 ツインテールを回転させてミカ・ヴァルキリーは立ち上がる。アメジスト・ドライバーとビスマス・ドライバーが大槍を車輪のように振り回し、ミカを襲った。ルビースピアーが大槍の攻撃をカットしていく。敵の動きを読みながら、ミカは後退する。アメジスト・ドライバーがミカにタックルを仕掛ける。ミカはフッ飛んで地面に突っ込んだ。残る五機は、編隊を組んで飛び上がる。

 ミカ・ヴァルキリーは再び起き上がり、大声を上げて山腹を拳で殴りつけた。雪崩が起こり、低空飛行のドライバー軍団の上に落下する。が、すぐに雪の中からドライバー軍団が飛び上がって来る。ミカは上昇し、敵の大槍を避ける。

 プラチナ・ドライバーの巨大な尾がミカの真紅のボディーをムチ打つ。プラチナ・ドライバーの尾はミカを振り飛ばす。ミカは再び山に激突した。ミカの頭上で雪崩が起こる。ミカは雪を払って再び飛び上がった。上空に、シルバー・ドライバーが待ち受けていた。ミカは後ろから羽交い締めにされた。前方から、ゴールド・ドライバーの槍が襲い掛かる。ミカはバック転する要領で、迫るゴールド・ドライバーの顎をキックで蹴り飛ばし、後ろに居るシルバー・ドライバーのバックを取った。その首にエルボーを喰らわした。シルバー・ドライバーは木の葉のように回転しながら落下していった。ミカは地面に降り立った。地面に激突しつつも立ち上がったシルバー・ドライバーの首をすっ飛ばす。シルバー・ドライバーは後ろに仰け反って倒れ、爆発した。

 メタルドライバー軍団が、真言を唱えている。大気に念を込めている。ヒマラヤは風が吹き荒れ、上空にハリケーンが形成された。数百本の竜巻が出現した。炎をまとった、巨大な雹が天から降って来る。辺りは、たちまち火の山と化した。真っ黒な煙が辺り一帯を包み込む。ミカ・ヴァルキリーは、アストラル・シールドを張って避ける。メタルドライバーは、天候、自然を自由自在に操る。

 空中でミカに蹴られたゴールド・ドライバーが体制を立て直し、槍を伸ばして斬り掛かった。ミカもルビースピアーを伸ばした。二つの、長く伸びた槍が空中で激しくぶつかり合う。そこへビスマス・ドライバーとプラチナ・ドライバーがミカ・ヴァルキリーに迫る。片手で槍を支え、もう一方の手で、ミカは念動力を込めた。山が崩れ、巨大な瓦礫が宙に浮かぶ。岩山の群れが空のビスマスとプラチナに向かって次々飛んでいく。ビスマス・ドライバーは不意打ちを喰らって、落下する。

 ミカと槍を交えるゴールド・ドライバーは、槍を短くすると、ミカに対抗して、真言を唱え念動力で岩山を動かす。対してミカは「んあー」とかしか言えないが、負けじと念を集中する。岩山は両者の間で宙に浮いたまま、動かない。

 メタルドライバー軍団の槍から続々青白い稲妻が走った。稲妻は、ミカ・ヴァルキリーを襲撃する。この嵐と稲妻の真っただ中、メタルドライバーは平気らしいがミカは次第に体力を消耗し、アストラル・シールドが弱まっていたので、たまらない。

 ミカは黒雲が所々赤く燃え、そこに青い稲妻が走る空に向かって、ルビースピアーを振り上げた。上空の雲の天井に巨大な台風の目のような穴が開く。ミカは天の穴に向かって上昇した。雲の穴から抜けようとした時、メタルドライバー達の左手から、グレイプニールが飛び出す。グレイプニールはミカ・ヴァルキリーの肢体に食らいついた。四肢を拘束され、ミカは空中に張り付けになった。身動きが取れない。

「しまった!」

「一気に阿修羅、紅玉のヴァルキリーをくし刺しにセヨ!」

 眩いコンピラことゴールド・ドライバーが叫ぶ。

メタルドライバー軍団のアンテナランスが、一斉にミカ・ヴァルキリーに向かって襲いかかった。


「ミカ……!」

 モニターを見上げる晶は、如何にミカ・ヴァルキリーが無敵でも、やはりドライバー全てを倒すのは不可能だと思うのだった。もしここでミカを失ったら、晶の反乱は終わる。いや、革命の成功以上に、来栖ミカを失いたくないという気持ちの方が強い。だが、晶には基地でモニターを見ている他に、どうする事もできない。


 ミカは叫んでいる。その声は幾重の音を含む倍音であり、まるで歌うようにリズムを含んでいる。右手に握りしめられたルビースピアーがピジョンブラッドの輝きを増す。ルビースピアーの先端から真紅の光線が発せられる。真紅の光は、曲がる光線となってグニャグニャと空間を駆け巡り、一挙に前方の四機のメタルドライバー軍を貫いていく。ドライバー達は次から次へと胸を撃ち砕かれ、鉱石の破片となって飛び散った。

 仲間がすべて撃破されていく中、ゴールド・ドライバーは「愛する地球の敵」、ミカ・ヴァルキリーへと突撃していった。

「我らはシャンバラのゲートを護る最強の盾!」

 ミカもまた相手に向かって突進した。

「あたしのルビースピアーは最強の槍、あんたの最強の盾を打ち砕く……!」

 黄金の輝きと真紅の輝きの大爆発が起こった。最強の槍(矛)と最強の盾が衝突したらどうなるか。これを「矛盾」という。真紅のミカ・ヴァルキリーだけがチベット上空を飛んでいた。ゴールド・ドライバーは砕かれながら落下していった。


「勝ったわ。ミカ・ヴァルキリーが勝利した……」

 晶も怜も、信じられないという顔で戦闘天使を見ている。

「ヱルゴールドがダークフェンリルのアストラル波を検知したわよ。こ、これは……」

 怜はその数値を見て気を失いそうになった。

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