第38話 二元性の果実

 晶は一人トイレの洗面台で鏡を見ている。洗った顔を見つめる。これからの自分自身の決断が、人類の、地球の運命を左右するのだ。

 怜の前では大胆なことを言ったが、宝生晶は全人類の道を決める立場として、トイレで膝を屈して苦しんでいた。一体、どうすればいいのか。

 頭の中で、一つの情景が浮かんできた。赤い血の人間と青い血の人間が大戦争している光景。殺し合いによって、無数の屍から赤い血と青い血が大地に流される。トイレの床にも、赤い血と青い血が流れ、混ざり合って紫に変化していく。さらに、赤い血と青い血は太極図を形作っていく。晶は立ち上がり、それを驚愕しながら見降ろす。その幻想は消えた。

「そうか、そういうことか……」

 宝生晶は決断した。人類は伊東アイの手を離れ、一人立ちすることを。

 晶は、ミカと亮をヱルゴールドに待たせると、再び所長室に怜と二人で入った。

「怜。これから私が話す事をよく聞いて。私は今、委員会によってヱンゲージが中止になった事で、人類の進化を阻止しているのは、伊東アイ自身ではないかと考えている。だとすれば、セレン計画を潰したのも、アイ自身だったのかも」

 二人きりになったところで、晶は唐突に言った。

「な、何ですって?」

 怜は、さっきのひとみ出現で未だ寒気を感じたまま怪訝な表情で聞く。

「人類が進化してアイと同じになると、彼女は人類を支配できない。アイは、私たちが進化しすぎると困るからよ!」

「そんなバカな……飛躍しすぎてる! 確かにDNAを操作したって書いてあるけど、わざわざ地球計画を立案して、人類に実行させながらそれをつぶすって」

 しかし、晶は水を飲みながらさらに続ける。

「だってそれが解読できた時輪経の内容でしょ。今回だって例外じゃない。この時代……アクエリアスの時代が、人類の進化のエネルギーのターニングポイントだったというのは、確かな事実。同時に銀河の中心核から爆発的な進化のエネルギーが押し寄せてもいる。これも世界中で観測されている。その二つが合わさった、宇宙の進化の高次元波動の周期、アクエリアスの風。アクエリアスの風が、地球のグリッドに作動する。だから、この時期は地球と人類が進化するチャンスだった。その為のトリガーがまず第一に月の女王であり、第二に亮とミカのヱンゲージだった。その二つの進化のエネルギーを、伊東アイは最初にセレン計画を演出し、進化を促進すると称して、逆に月の女王を潰した。そして異東京をダークフィールドで包み込んで、滅ぼした。次に今度は、この時空で地球の王子と、そのパートナーのヱンゲージを計画し、それと同時に潰そうとしている。委員会が立てた二つの計画は、人類の進化に必要な二つの重要な鍵を、アイが叩き潰す為に予め仕掛けたものだったとすれば-------」

 晶の推論は、驚くべきものである。

「ちょ、ちょっと待ちなさい、あなた、さっきから時輪ひとみの話を聞いてからおかしいわよ! 思考が極端になってる。あたしは、智恵の実の存在を提示したけど、食べろなんて勧めてないわ。冗談半分に言ったけど。誤解したなら訂正する。智恵の実は決して食べちゃいけない。でもひとみはあなたに食べるように勧めてる!」

 怜はさすがに大きな声を出して抗議する。怜は、軽口をたたいた事を後悔した。むしろ時輪経の事は自分と、ヱルゴールドの秘密にしておけばよかった。

「時輪ひとみの語った事は、つじつまが合う。アイの言う人類の敵というのは、自分に都合の悪い存在を、月の牢獄に封印し、彼女の目的に利用している。外敵を作り出す事で、この星で人類を、伊東アイの永久的奴隷生物にし続ける口実を作り出す。その脅威から人類が身を守るには、半永久的にアイの加護の中に入らなければならない。アイは、月という外敵から人類を守る為の用心棒というわけ。そのために、人類はずっとアイの言う事を聞かなければならなかった。そうすれば、伊東アイは何億年でも人類を支配できる。ディモンが攻めて来ると言えば、アイが地球を支配する為の錦の御旗になる。どう、その為に、ディモンは必要なんじゃないかしら? 実際にディモンが居るかどうかなんて関係ない」

 晶は怜の反応を予想していたように、冷静に話を続ける。

「何を今さら言ってんのよ! だって、異東京を滅ぼしたのは帝国でしょ。ダークフィールドに包まれているんだったら、ディモンとしての彼らの存在を、疑う余地はないわ! あんたそんな認識で今まで地球計画を担ってきたの?!」

 怜は、それまでと変わって、時輪ひとみを見た瞬間から、ブルータイプが敵、ディモンであるという情報を裏付ける、充分な恐怖を感じていたのだ。絶対人間なんかじゃない。そして、邪悪な怪物であるという感覚だった。

「しかし、委員会はディモンと帝国の詳細情報を、私たちに隠し続けた。それは何故? ブルータイプがディモンだとしても、ブルータイプは、血液が青いという点を除いては人間と全く同じなのよ。血が青いというのも、ヱルのアストラル分析によって分かるもので、伊東アイによれば、体内に流れる血液は可視光線で赤く見えるように化けていて、外に流ればたちまち赤く変色するっていうのだから、証拠はこのヱルメタル以外にはない。何かの拍子で化けの皮がはがれれば、青く変色するというけど、要するにその違いを別けるアストラル上の違いをブルータイプと言っているだけなのよ」

 晶はあくまでブルータイプを擁護しようとしている。

「スペクトル分析も、アイがヱルゴールドの中に仕掛けた陰謀って事?」

 怜は、首を横に振りながら言った。

「いいえ。時輪ひとみが現れた事で、ブルータイプがディモンである事は客観的に認められたと言える。でも、ブルータイプが、ディモンが敵であるというアイの言葉を、そのまま受け取ってはならないって事。それは、真実から私たちの目を反らしているのよ。異東京では、確かにブルータイプはダークフィールドに包まれて、彼らは地球を滅ぼした。でも、この世界で新しく誕生したブルータイプが、ダークフィールドに包まれるかどうかは全く別の要因が関わってくる。たとえばアイがそう仕向けたとかね。アイが、彼女にとって邪魔なブルータイプをディモンに作り替え、敵に仕立てた。そういう事よ。人類の敵は委員会から月から来ると言われて来たけれど、月がアイにとって都合の悪いブルータイプを封印する為の牢獄なら、果して本当にディモンだったのかしら? 私はずっと、月が邪悪なものというアイの言葉には違和感があった。だからひとみの言う事は納得できた」

 晶の瞳は確信に満ちていた。

「じゃああなたはブルータイプを何だと思っているのよー?」

 怜は頭を抱えた。怜はすでに、アイに黙ってここまで晶に協力したことを後悔している。

「おそらくこの地球に誕生した、人間の新しい進化のプロセス。私たち、レッドタイプもね-------。両者は同胞なのよ。結局人類は、ヱヴォリューションを目指していかなければならない。それは、決して中止してはならない。むしろ両者は対立を超えなければいけない。二人のヱンゲージによって、地上にブルータイプが生まれた事は、決して悪い事じゃない。それは、過渡的な現象だった。アイが彼らに干渉し、ブルータイプをディモンに変えてしまう前に、私たちが彼女を阻止し、このままヱンゲージを続ければ、人類はもっと進化するはず!」

 と、宝生ナイスバディ晶は熱弁する。

「あなたが今言った事は全部憶測。証拠なんか何もない。そんなの科学じゃない。あなたの憶測が真実だというなら、アイが言う事の方が逆に真実かもしれないじゃない。さっきヱンゲージの準備段階で、時輪ひとみが現れた事が、果してあなたの言うような、吉と言えるのかどうか------。私には絶対そうは思えない。私はこのままヱンゲージを続けたら、取りかえしの着かない事になると断言できる。アイに隠れてそんな事できないし、絶対バレるわよ。そしたら、世界中敵に回す事になる。彼女が世界を支配してるんだから。その事実を忘れないで!」

 怜がひとみに感じた恐怖からすると、晶の言葉は到底納得できない。

「間近で見た感じだと、ひとみは、明かに人類の敵だったわ」

 怜は断言した。蛇だ。ヱデンの園に侵入し、晶に智恵の実を食べるように勧めた蛇だ。

「彼女が私と、一体何が違うというの? 何も変わらない。ディモン、悪魔は、人間なのよ。正体は人間よ。私達が受け入れない限り、彼らを救うことなんて絶対にできない」

「救うですって? 正気なの」

 晶は、ブルータイプ全てを救おうと決心していた。この計画に関わってからずっと疑問だった事への答えだ。ひとみとの出会いが、決定的だった。

「伊東アイは何かはっきりとは分からないけど、いつも私たち人類をマイナスの方向へ導こうとしているように私には思える。ヱンゲージを中止したのは、私たちの力を恐れたからに違いない。人類の進化を語りながら、結局は人類を恐れている。自分の支配から人類が逃れる事を。ヱンゲージは、伊東アイの手を離れて、私たちが行わなければならない事よ。ミカの力が高まった今、エネルギー的には亮の足りない分までカバーできるわ。後は二人の信頼関係よ。二人がやりたいと言っているんだから、任せてみる価値は十分にある」

 晶は怜にエンゲージを継続し、ヱヴォリューションのプログラムを組むように指示した。

「まさか本気で言っているの」

 晶という人間と、伊東アイは所詮相容れない者同士であると怜は思う。

「私は真面目よ。大真面目だよ。私は最初にここで伊東アイという驚くべき存在に出会ってから今日迄、ずっと考えてきた。人類が一つの生命としてこの地球に存続するなら、いつまで伊東アイという存在にコントロールされ続けなければいけないのだろうかと。私も含めて完全に支配されている今の人間では、いつまで経っても進化できないに違いない。彼女に飼い殺されたまま、人類はこの星の最期まで生きていかなければならない。私は伊達統次という、軍事独裁者を阻止する為に軍人になった。出世をして統次を止める為に。けど伊達統次以上に伊東アイの方が人類にとって危険な存在だった」

 晶はずっと思っていた。伊東アイもまた伊達統次、あるいはもっと、それ以上に危険な存在なのかもしれない。本当は、月の侵略者などよりアイこそが忌むべき人類の敵なのではないか。ブルータイプを肯定するなんて、人跡未踏の領域だが、ディモンとしての証拠が何もない以上、それを……、いや、そもそもブルータイプとしての証拠もない!! 全て、何もかもヱルゴールドの中に仕組まれたシナリオに違いない。それが客観的証拠と言えるのか。こんな恐ろしい社会が、新しい地球のはずがない! 陰謀と専制に満ちたアイの世界から人類を解放する。晶にはそのシナリオが始めて見えていた。そう、宝生晶は決心していた。

「あなただって、ヱンゲージ計画を続けたかったんでしょ、怜。今更弱気になったというの?」

「弱気って……そうじゃないでしょ。状況が変わったからに決まってるでしょ。科学的な問題なのよ。二人が、月面のディモン兵器の船を出現させた事だってあるのよ。もう忘れてしまったの。その為の修復に、あたし達とアイが随分苦労して------」

「巨蟹学園のヱルアメジストもこのヱルゴールドも、全て委員会からもたらされたものだった」

「まさか、月面に現れたディモン兵器の像は、あくまで委員会が作った天文台に予めセットされていた像だったと、そこまであんたは言いたいの?」

 怜は問いつめる。

「そうかもしれない。委員会が、私たちに月という敵を認識させるために」

「ありもしない像を見せたと? 彼女が、二人にわざわざダークフィールドを増幅させるために?」

 怜は、さっきからどうやって晶の考えを改めさせようかと考えている。しかし、一度智恵の実を口にした人間を改心させることは困難だった。晶は、自分で気づいているのか知らないが極論ばかり口にしている。

「その通りよ」

 ディモン兵器の幻像、すなわちあれこそが、委員会の陰謀だと晶は考えているようだった。

「でもあれは、異東京に現れ、実際に世界を滅ぼした兵器よ。実際に存在したものよ。単なる像なんかじゃない」

「異東京で伊東アイがどんな陰謀を働いていたかなんて、今の私たちには分からない。ヱルゴールドやアストラル望遠鏡が、私たちには作れない超テクノロジーのように、異東京を滅ぼしたディモン兵器も、委員会の作ったものだったのかもしれない」

 晶は腕を組む。

「そんな事、何の根拠もないわ!」

「ではなぜ彼女は帝国とディモンに関して何も語らないのかしら? アイは、私たちがあまり敵の事を知る事は人類の潜在意識によくない影響を及ぼすと言って、最小限の情報しか与えてくれない。その結果、私たちはディモンに関して何も知らないという状況よ。地球と人類の存亡が掛かっているという時に。アイは永年、月と人類は戦って来たというけど、過去の失われた時代に、どんな戦いがあって、どんな風に敵が押し寄せてきたのか、彼女は一切教えない。それは、本当は何か別の理由があるからだとすれば納得がいく」

 怜は信じられないという風に首を横に振る。だが、晶は続ける。

「それは、潜在意識に悪い影響を及ぼすからなんかじゃない。もともと根拠が存在しないからなのよ。ヱンゲージにもし問題があるのなら、それを委員会に言われて止めるのではなくて、私たち人類が原因究明をし、解決しなければならないはず。中止などせず、私達は進めるべきだった。だから、彼女に気づかれない内に、一刻も早くやるべきだったわ。怜、あなたならできるはず。私は決めた。アイにまた見つかる前にやらなくては。これ以上、時間がない。もう準備段階はいい。ヱヴォリューションに向けて、今からヱンゲージを強行しましょう」

 時輪ひとみとの出会いで、晶は自分の考えに確信を持った。そして、決心した。答えは一つだ。

「しかし-----」

「ヱルゴールドを信頼するとすれば、解明された時輪経の断章にはっきり書かれていた訳よね。あなたが解明したはずよ、伊東アイが人類の力を封印して支配していること。亮とミカの力は、人類の武器なのよ。その力を持つ事が、人類が独立した存在である証となるはず。世界を変える程の、二人のアストラル波が持つ力。それは私の想像を遥かに超えていたわ。手放すべきではない。明日の人類のために」

 晶の右手にはクリスタルガイザーの五百ミリリットルペットボトルが握りしめられている。相変わらず晶はせっせと水を飲んでいた。なぜ、晶はこんなに水を飲むのか? まるで体内にある毒素を全て取り除こうとするように。体の中の全てを、丸ごと入れ替えてしまいたいというように。

「私は反対だよ! ヱルゴールドのエンジニアとして警告しているのよ、フォースヱンジェルを覚醒するなんて簡単に言うけど、あなたはヱンゲージの事を何も分かっていないくせに!」

 極端すぎる晶の直観に、怜は科学者としての立場で反論する。

「そうじゃないわ、もっと根本的なことよ。怜、私がこれからやろうとしている事は。残った本当の二人の人類、来栖ミカと原田亮が、もう一度世界をやり直せばいい。そのために、フォースヱンジェルの覚醒は、道程にすぎないってこと。二人の力もちゃんと調査して。それしかないはずでしょ……。そうすればブルータイプもレッドタイプも無に帰して、今度こそ、失敗しない地球が誕生する」

「…………」

「そして怜が言った、フォースヱンジェルという可能性が人類の中には眠っている。そういうことよ。人類が進化してしまえば、もし人類の敵が存在していたとしても、人類の敵なんて問題なんか自然に解決してしまうに違いない。しかし、人類が進化できない限り、ダークフィールドや侵入経路の特異点は永久に発生するんだから」

 晶はフォースヱンジェル、戦闘天使の存在を知ってから、もう一つの考えに取り付かれていた。ブルータイプにもし問題があるとしても、ブルータイプ達を結局殺してしまうしか手がない今の伊達のやり方は、あまりにも非道すぎる。しかしブルータイプにすり変わった人々もひっくるめて、戦闘天使のように人類が進化してしまえば、問題は根本解決するかもしれないということである。

 なぜ、伊東アイはフォースヱンジェルの存在を公開しなかったのか? おかしな話だ。人類の中に、フォースヱンジェルが誕生してはいけないのか? ならばいつまで人類は彼女のペットなんだろう。晶には、アイが彼女の箱庭宇宙で、人間を飼い、残酷なゲームをさせて楽しんでいる存在に思われるのだった。その悪循環の輪廻から脱し、未知の領域、人類が進化せねば人類は救われない。そう、進化=フォースヱンジェルなのだ。それが出現し、アイと同じ力を持つ事をアイは恐れる。ブルータイプ問題も同じだ。これまでもそうだったからといって、なんでブルータイプをいつまでも敵と考える必要がある? アイが、そう仕向けてきただけではないか!

「分かったわ。そういう事なら、協力しましょう。あんたの直観が正しければいいけど」

 怜は、自分とヱル・ゴールドが開けたフォースヱンジェルというパンドラの箱ゆえに、逆に晶の暴走を招いた事にひどく罪悪感を感じている。もともと自分が始めたことだから、晶のウルトラ暴走に強く反対できないのだ。全く、アダムに智恵の実を勧めたイヴとは自分のことかもしれない。しかし、大胆不敵な晶の暴論を受け入れた訳ではない。ただ、最終目的に至る計画としては認めたのだ。不空怜も、人馬市の方法論に素直に賛成している訳ではなく、晶の危惧には同意している。だが、晶のあまりの超越理論にはへきえきしているという事だ。

 しかし、ヱンゲージ計画を実行すれば、時空研は必然的に人馬市及び三百伊東アイ委員会を敵に回さなくてはならない。地下深くに彼女の秘密結社の本国がある。人類など及びも着かない先進文明は、ざっと三十億年以上も昔から地球の地下深くに存在し地球の進化に関与していた。人類が足下にも及ばない超越存在・伊東アイ。未だかつて、伊東アイを敵に回した人類は存在しない。むろん、勝利した者も。

 それが分かっているかどうか、宝生晶は決断した。伊東アイに反旗を翻し、人類が彼女から独立して進化する事を。晶は怜に指示する。ミカと亮の中にフォースヱンジェルを現出させることを。怜は、あたかもブラッド・スペクトル分析を続けているように見せ掛けながら、人馬市をごまかし、人馬市のヱルシルバーに監視させないようにプロテクトした。

「あなたが戦おうとしている敵は一体誰? まさか本気で伊東アイと全面対決なんて事を考えてるんじゃないでしょうね」

 やはり親子なのではないか、と怜は思う。思い込みの激しさ、目的に向かって進む時手段を選ばないやり方。晶は義父を激しく嫌っているが、怜には晶と伊達統次の二人は根底で似ているとしか思えない。

「いずれ、人類は伊東アイと対決し、独立を決断しなければならなかった」

「あなたやっぱり------」

「私は統次とは違うわ、怜」

 晶は怜の考えを読んで答えた。

「また伊東アイがちゃぶ台ひっくり返すわよ」

「…………」

「もう引き返せないわよ。いいわね晶」

「ええ」

 晶と怜はワイングラスを手に持つ。晶は水杯、怜のグラスには赤ワインを入れて。二人は飲み干して、床に叩き付ける。怜は、自分達が本当に正しい道を歩んでいるのか、或いはセレン計画の二の舞いを踏んでいるのか、まるっきり未来が見えなかった。

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