第5話 おーがん。ぶれいざー。かんさん。(1)

 おねいさんに引っ張られて連れてこられた場所には、木造の教会のような建物が立っていた。

 しかしその入口の上には、英語で「ギルド」と書かれた木の看板が打ち付けられていた。

 ギルドという文字の下には、ギルドという文字の下には、文字の下には……。


 うう、知らない単語で読めません先生……。


 というのは冗談で、……お……お……オルガン(organ)……? なんでギルドの名前がオルガンなんだ? 設立にオルガンが関わってたりすんのか? 


「はい、じゃあ入って入って」


 アルファベットと格闘していたらいつの間にかおねいさんがギルドの中に入っていて、俺にも中に入るよう声をかけてきた。


 外から見ても、人がごちゃごちゃしているのがわかるギルドの中へ足を踏み入れると。


「ようこそー! ギルド「オーガン」へ!」


 おねいさんに歓迎の挨拶を受けた。


(あ、あの名前オーガンって読むんだ。ってことはスペルが同じで、意味は違う単語だな、多分)


 ……そんなことよりも。


 ……そんなことよりもだ。


 むさ苦しい男たちがジャージ姿の俺を見て奇異の視線を送ってきている。


 そう。ジャージなのだ。起きて着替えることなくパソコンに向かったため、ジャージ姿のままブラックホールに吸い込まれて死んだのだ。

 だからなのか、転生してもジャージ姿のままだった。


 それはまあ良しとして、十人――いや二十人くらいはいるだろうか、上半身が裸の、オーバーオールを着た筋骨隆々の臭そうな男たちが問題だ。


「がははははははは! なんだそのひよっこは!」


「おいお前! 魔術師には見えないが、ここはお前のようなモヤシが来るところじゃねえぞ! ははは!」


「チビ助! 冗談もほどほどにしねえと、母ちゃんにどやされるぞ? がははは!」


 などという容赦のない言葉の数々。これじゃあ道化ピエロもいいとこだ。


 確かに男たちは皆強そうだ。上背も俺より二十センチくらい高い者ばかりだし、二の腕や胸筋など、全身の筋肉が膨れ上がっている。あれならイノシシと相撲ができそうだ。

 露出が高い服装なのは、己の肉体を見せつけるためなのだろう。皆腕っぷしに自身がある者ばかりなのだ。

 それに加えて俺はどうだ。ジャージ姿でだらしなく、引きこもり生活のせいで女のように腕は細く、腹筋など一つの起伏もない真っ平らだ。これでは少々恰幅かっぷくのいいおばさんにすら腕相撲で負かされそう――いや負かされるだろう。


 自分のみすぼらしさを改めて確認させられ、劣等感から鬱になりかけた。


「はーい! 静かにー! この人はこれから新しい仲間になるんだからー! 仲良くしてよねー!」


 大きな声で男たちに対応するおねいさん。その姿はまるで物怖じしていない。それどころか堂々たる様で、ともすると男たちをまとめる姉のようにも感じられる。


 俺は何気なくギルドの中に視線をやり、インテリアを観察をすることにした。


 ギルドの中はホールともいえそうな広さだ。奥の方にはおそらく掲示板だろう、男たちと同じくらいの背丈のそれが三つ並んでいて、その右方に二つ、受付のためのカウンターと木を楕円形にくりぬいて作った窓口がある。窓口の中には十人ほどが入れそうなスペースが設けられており、受付の者――おねいさんがあそこで毎日作業をしているのだと想像できた。入口から見て左方には階段があり、それはギルドの二階へと続いている。


 おねいさんの声を聞いても男たちはまだ何かぶつぶつと言っていたが、多少は静かになった。今は掲示板に興味を移して何事か論じている。


 ブーイングの嵐が収まり、ほっと胸をなでおろすと、おねいさんはこちらを向いて口を開いた。


「じゃ、君はこっち来て。メンバー登録するから」


 そう言ってから受付に向かってすたすたと歩き出す。


 メンバー登録……会員登録か。前の世界では数えきれないほどの会員登録を経験し、会員登録の鬼とまで言われた俺だが、今回のはどうだろう。商品買うごとにお得なポイントがついてきたりするんだろうか? それとも何かのグッズプレゼントとか? ……ふ、これは俺の腕の見せどころだな。


 と内心ふざけつつおねいさんについていった。

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