第5話 天使再来
今日の天気は薄曇で、鈍い明かりが校舎内を照らす。
この長い廊下の端と端でも、こちらに向かって歩いてくるのが誰なのかわかる。
あの眩しい光を全身に集めているのは、彼女しかいない。
空気が固められたように、オレの動きが止まる。
静まり返った空間の中で、その人の足音が徐々に大きくなって身体に響いてきた。
少しずつ距離が縮まる。
息の仕方を忘れてしまったかのように、呼吸が荒くなり、息苦しくなる。
心臓の早鐘が煩い。
近づいてくるその人から、視線を逸らすことなど許されないのだと知っているように、オレの眼球はただその対象物を見つめることに逆らわず従った。
柔らかな微笑を浮かべたまま、その人はオレの前に立つ。
「あのペンは、どうしたの?」
え?あのペン?
何の話かと、ガチガチに固まった脳をフル回転させる。
もしかして・・・
「これ、前のペンとは違うわね。前のペンはどうしたの?」
オレの胸ポケットにあるペンに視線を送りながら、透き通った声音が響く。
「と、、、友だちに、あげました。」
直立したまま、渇いた言葉をなんとか口から押し出す。
「そう・・・」
オレの言葉を聞いて、ほんの一瞬・・・瞬きをしている間に見逃してしまいそうなほどのほんのわずかな時・・・冷めた表情で顔が崩れたが、またいつもの微笑を浮かべ、長いキレイな髪を揺らしながらオレの横を通り過ぎていく。
「またね、あえかな快楽主義者クン。」
すれ違い様、氷の杭を打ち込むようにオレに言葉を残していった。
「そうやってあなたは、また人を陥れて自分だけ助かっていくのね。」
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