第3話 強運少年

 「昨日は天使、今日は悪魔。レアな2人と話せるなんて、さすが強運少年!」 


 学校からの帰り道、トモがオレの肩を叩きながら言った。


 「今でもお前の父ちゃんは、『ジンは奇跡の子だー!強運の持ち主だー!』って泣きながら俺に話してくれるもんな。」


 どうやらオレは、生まれながらに強運の持ち主らしい。

 母さんの腹の中でとても危険な状態で、今にも息絶えそうだったオレは、なぜか突然に回復し医者も驚いたそうだ。


 「でもその話、あまりオレの母さんの前でしないでくれよ。悲しい夢を思い出すみたいだから。」


 オレが生まれたことを「奇跡が起きた」と父さんは泣いて喜んだだが、母さんはそのときに見た夢があまりにも悲しくて、喜びの涙と同時に悲しみの涙を流した。


 「お前は本当に両親に愛されてるよなぁ。いい家族って、こういうのをいうんだろうなぁ。」


 トモの言葉そのとおり、オレは両親にとても愛されている。

 この歳になって少し恥ずかしい気もするが、両親からの愛情はとても温かく、何不自由ない生活に一切の不満はない。


 ただ、オレの誕生日が来る度に、母さんはまた同じ夢を見て涙を流す。

 何の夢かは教えてくれない。

 悪夢ではないらしいが、決して楽しい夢ではないことは確かだ。

 いつもはオレだけの母さんだが、このときだけは誰か他の人の母さんのような、誰かに母さんをとられたような嫉妬心が少し生まれる。


 「お前の強運伝説に、俺も肖りたいよ。」


 トモがそんな風にオレを羨ましがるのには、それなりの理由がある。

 それだけ、オレは運良くことを運んでくることが出来たのだ。

 自分で意識しなくても、上手く危険を回避できた。

 後になってみれば、危険と隣り合わせの状況だったはずだが、そこをなぜか避けて、平穏に過ごしている。

 

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