第2話 悪魔生徒

 今日は、晴れだ。

 まだ高いところまで昇りきらない太陽の光が、教室の窓から差し込む。


 「どうしたの?その手。」


 大きな絆創膏を貼った手を振りながら教室に入ってくるトモに訊ねた。


 「昨日、あまりの嬉しさに天使先輩のペンを握り締めたまま寝ちゃったんだよね。で、朝起きたら手が傷だらけ。ペンで怪我しちゃってたみたい。でも天使先輩のペンだから幸せ~。」


 よく見ると、顔や腕など何箇所も絆創膏を貼っている。

 それでも嬉しそうににやけた顔をするトモに、冷めた視線を送りながら言葉を投げた。


 「それで、オレのペンは買ってきてくれたの?」


 オレの質問に、ちょっと困った顔をしながらトモが申し訳なさそうに頭を下げた。


 「それがね、同じペンを探したんだけど見つからなくて。ひとまず代わりのペンで我慢してくれ。」


 同じペンを買ってくれる約束だったのにとちょっとふてくされた態度を取りながら、トモから受け取ったペンの試し書きをしてみる。


 「ザラザラした書き味。全然代わりになってないじゃないか。」


 ため息をつくオレに、同じものがなかったのだから勘弁してくれと言って、傷だらけの手でオレの肩をトモがつかむ。

 そんなやりとりをしているうちに、トモが買ってきたペンが床に落ち、とある女子生徒の足元に転がった。


 「これ、あなたの?」


 自分の足元に転がってきたペンを拾い上げ、オレに差し出しながら言われたその言葉は、周囲の音にかき消されそうなほど小さく色味のないものであったが、とても軽くフワリと周りの喧騒を掻き分けて静かにオレの耳に優しく運ばれてきた。


 「あー、ありがとう。」


 窓から差し込む太陽の光を背に受けながら、ペンを拾ってくれた女子生徒と向かい合う。

 オレの影が、その女子生徒を覆う。


 表情一つ変えないままペンをオレに渡し、立ち去っていった。


 「アクマノコ」


 トモがつぶやく。


 「転校生の阿久マノコ。地味で暗くて、転校してきてから誰かと話しているのを誰も見たことがないって噂。通称”悪魔の子”と話すなんて、お前すごいな。」


 からかっているのか、感心しているのか、どちらとも取れない顔をしながら話すトモの言葉を聞きながら、立ち去って行った女子生徒を目で追う。

 何かはわからないけど違和感がある。

 周りとは何かが違うような気がする。


 席について、何気なくペンをノートに走らせる。

 あれ?


 「今までで、一番スラスラ書ける。」


 最初に試し書きしたときのザラザラ感はなく、いつまでもペンを走らせていたくなるような書き心地だった。


 「えっ?なに?俺の買ってきたペン当たりだった?」


 嬉しそうにトモが覗き込み、ノートがトモの影で暗くなる。


 そうだ!

 ハッと顔を上げ、先ほどの女子生徒を見た。

 教室から出て行くその足元には、あるべきものがなかった。

 


 


 

 

 

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