光輝く天使に存在を否定され狙われるオレは、最弱の悪魔に守られる
@asa-asa
第1話 天使先輩
今日は曇りだ。
厚い雲が空を多い、昼間だというのに学校内は薄暗かった。
でも、階段から降りてくるその人は、太陽の光を全身に浴びたように輝いていた。
あまりに眩しくて、オレは階段を上ろうとしていた足を踏み外す。
そのまま階段3段ほどを転げ落ちた・・・
「これ、あなたの?」
痛む身体を起こすオレに、柔らかく温かで透き通った声が降りてくる。
目の前には、息を呑むほどきれいな女の人の顔があった。
「大丈夫?これ、あなたのもの?」
優しい微笑を湛えながら、その人は一本のペンをオレに差し出す。
それに見覚えのあった俺は、胸ポケットにそれがないのを確認してから、声を振り絞った。
「はい、オレのです・・・」
震える声で答え、震える手を伸ばし、真っ直ぐに差し出されたペンを受け取る。
なぜだ。口の中だけではなく、喉の奥の方までカラカラに渇ききり、ガサガサの声を出すのがやっとだ。
体中の細胞が、髪の毛も皮膚も血も骨も、全てが硬直したように、思うように動かない。
その人は笑顔のままオレにペンを渡すと、そのまま顔をオレの頬に寄せた・・・
身動きの取れないオレは、そのまま硬直し続ける。
「またね、あえかな利己主義者クン。」
耳元でそっと囁かれたその声は、オレの脳にまでグサっと突き刺さり、背を向けて立ち去るその人の揺れる長い髪をただただ見つめることしかできない。
どういう意味ですか?
そんな疑問を持つことさえ許されないほど、温度を持たない重たい空間がオレを締め付けてくる。
鉛のようなこの身体は、このまま見えない世界に吸い込まれ落ちていく・・・
そんな感覚をおぼえたときだった。
「いいなぁ。天使先輩と話せるなんて!」
明るい声と共に、ポンっと肩を叩かれた。
金縛りが解けたように振り返ると、そこには親友のトモが興奮を隠せないといった表情で立っていた。
「天使先輩?」
身体の失われたものが一気に戻ったように、髪を跳ねさせ、心臓をドクドクといわせながら、トモに訊ねる。
「今のが、この学校で一番の美人と有名な天使先輩こと‘”天野シト”だよ。」
あれが?
教室に戻りながらトモの話を聞いた。
「天からの使徒なんじゃないかってくらいキレイで、惹きつけられるだろ?」
あぁ、この学校にすっごい美人がいるって聞いたことはある。
「いいよなぁ、天使先輩。お前、天使先輩と話できてラッキーだよな。あの心地よい声、天使そのものだよ。天使先輩が持ったそのペン、俺にくれよ!天使先輩が触ったペンなんて、絶対ご利益あるだろ?なぁ、俺にそのペンくれ!」
あれは、話をしたというのだろうか。
オレはラッキーだったのか?
「昨日買ったばかりだし、今までで一番スラスラと書けるんだよ。オレだってこのペン使うし・・・」
そう言って、ノートの端に試し書きをしようとしたのだが。
「なぁ、ジン。このペン書けないじゃないか。」
あれ?今朝までとっても気持ちよく書けていたのに、全くインクが出なくなっている。
「書けないペンはいらないだろ?ジンに同じペンを買って返すから、俺に天使先輩が持ったペンをくれ!」
書けないペンは、オレには必要ない。
トモにとって利益あるものならトモが持てばいいし、オレは新しいペンを買ってもらえるならそのほうがありがたい。
トモの提案通り、その書けなくなったペンをトモにあげた。
大事そうに胸ポケットにペンをしまい、天使先輩の魅力について顔をほころばせ熱心に語るトモを複雑な気持ちで眺めていた。
たしかに彼女の声は柔らかく温かく透き通っていたが、なぜかオレの体中に冷たく突き刺さる感覚を残していた。
オレにとっては、決して心地よいものなどではなく、忘れることが出来ないほどの衝撃を心にまで刻んでいった。
それが、オレと天使先輩”天野シト”との出会いだった。
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