84話 裏ワザ
「ごきげんよう、みなさん。今日も素晴らしいお天気ですわね」
イメルダがキラキラした瞳で店内に入ってくる。
「店長さん、お茶とモンブランをっ!」
「は、はい! かしこまりました」
「いらっしゃいませ」と言う前に注文をされて、ジネットが若干慌てる。
それなりの数の客でにぎわっていた店内が一瞬だけ沈黙に覆われる。ま、驚くわな、そりゃ。
ずかずかと店内に踏み入り俺が座っている一番奥のテーブルまで来て、俺の真正面の席に腰を下ろす。……おい、なんでここに座る?
イメルダはテーブルに肘をつき、ググッと身を乗り出しては、嬉しそうな顔で俺の顔を覗き込んでくる。
……近い。そしてちょっとウザい。
「……なんだよ?」
「え? なんのことかしら?」
ワザとらしい。
さも「聞いてほしいことがあります!」みたいな顔をしているくせに。
……やれやれ。
「なんだか嬉しそうだな。いいことでもあったのか?」
「分かりますかしら!? まぁ、どうしましょう。ワタクシったら、この感動が抑えられずに体の中から溢れ出てしまっていますのねっ!」
溢れ出してるのは暑苦しさと鬱陶しさだけどな。
「しょうがないですわね! 特別に! ヤシロさんには教えて差し上げますわ、ワタクシの上機嫌の理由を! それは……っ!」
「もしかしてあれか? 木こりギルドの支部の一部が完成したっていう……住居スペースだけ先行して作らせたらしいな。ウーマロがげっそり痩せこけてたぞ。こき使ってやるなよ、可哀想に」
俺がこき使いたい時に寝込んだりしたら困るだろうが。
「…………」
図星だったのか、イメルダの顔から表情が抜け落ちた。
まぁ、そんなことだろうと思ったんだ。
四十区の下水工事が終わり、これからいよいよ四十二区の街門を作ろうという段階に来て、イメルダが「先に木こりギルドの支部を完成させなさい!」と、ウーマロに直訴したらしいのだ。
ウーマロは、俺からの依頼で砂糖工場の建設に取りかかっていたところで、「順番があるッスから」とやんわり断ったらしいのだが……このお嬢様、金と権力を最大限に駆使して割り込んできやがった。
根負けしたウーマロは、大至急木こりギルドの住居部分――といっても、イメルダの住む屋敷と、イメルダ付きのメイドたちの使う寮だけだが――を、最優先で建設したのだ。
当然、妥協なしの最高級クオリティで、だ。
昨日の夜ここにやって来たウーマロは、カッサカサに干からびていた。
「…………」
じっと黙ったままのイメルダ。
つまらなさそうに唇を尖らせ床を見つめている。
あ~ぁ~、いじけちゃって。
と、イメルダがふらりと身を翻し、そのまま陽だまり亭を出て行ってしまった。
「あ、あの、イメルダさん? あの、どちらへ!?」
モンブランと紅茶を持ってやって来たジネットの呼びかけにも答えずに、イメルダは外に出る。そして、静かにドアが閉じられた。
…………そこまでへこまなくても……
「ヤシロさん、何か言ったんですか?」
「いや……なんか言ったつうか……何も言わせなかったつうか……」
追いかけた方がいいのか?
そんなことを考えた矢先、陽だまり亭のドアが勢いよく開け放たれ、とびっきり明るい声が店内に響き渡った。
「ごきげんよう、みなさん。今日も素晴らしいお天気ですわね! あ、店長さん、お茶とモンブランをっ!」
「やり直すのかよっ!?」
こいつ、メンタル強ぇ……
「あの、ヤシロさん……モンブランと紅茶……どうしましょう?」
「二個ずつ出して二個分請求しとけ」
その後、嬉しそうな顔で俺の前に座ったイメルダから、すでに知っている情報を延々と聞かされた。
ベッドルームの日当たりが最高だの、庭に出れば小鳥が飛んでくるだの。ど~~~~~~~でもいいような情報が延々と垂れ流されていく。
要するにだ。
イメルダは今、物凄く浮かれているのだ。
「あのな、イメルダ……」
「え、ワタクシの新居に招待してほしいですって!? 身の程を弁えなさいましっ! どうしてワタクシの初独り暮らしの、この歴史的な瞬間にご自分が参加出来るなどと思われたのか、甚だ理解いたしかねますわ」
「いや……あのな……」
「ですが……まぁ、ヤシロさんがど~~~~してもと、おっしゃるのなら、このワタクシが、とっくっべっつっにっ! ご招待して差し上げても構いませんわよ? 特別ですわよ」
特別のゴリ押しは詐欺師みたいだからやめた方がいいぞ。
「四十区と四十二区の領主をはじめ、様々な貴族をお招きしての立食パーティー。そして、ワタクシの華麗なる舞踊の披露。そののち……ま、まぁ、ヤシロさんを、特別に、皆様にご紹介して差し上げてもワタクシ的には、まぁ、構わないと、このように思っている次第ですわ」
「なんで俺が貴族連中に紹介なんざされなきゃなんねぇんだよ……」
ヤだよ、メンドクセェ。
「パーティーは木こりギルドの支部が完成してからにしろよ。まだ住居しか出来てねぇじゃねぇか」
「大丈夫ですわ。ウーマロさんがすぐにでも完成させてくださいますもの」
「バカ! これ以上ウーマロを独占すんじゃねぇよ! あいつはこれから街門を作らなきゃいけないんだよ! お前が住居の建築をねじ込んだせいで着工が遅れてんだからな!? これ以上は遅らせることは出来ない。支部の他の施設は後回しだ!」
「住居しかないだなんて、アンバランスだとは思いませんの!?」
「だから、街門が終わってから木こりギルドの支部を作るって予定だったんだよ!」
お前がその予定を無理矢理ねじ曲げたんだよ!
「街門が出来る前に引っ越してきたってすることないだろうが!?」
「だって!」
俺を睨むイメルダの頬が「ぷくぅ~っ!」っと膨らんでいく。
「ワタクシがいない間に、みなさんで楽しそうなことをするんですもの! ケーキとか、ワタクシも一枚噛みたかったですわっ!」
……そんなもんで拗ねるなよ。
「あの、イメルダさん。モンブランです」
「まぁ、なんて美しい…………ベッコさん!? ベッコさんはいらっしゃいませんの!?」
「今日は来てねぇよ。誕生日用のロウソク作りが忙しいんだよ、あいつは」
誕生日を祝う習慣がこの四十二区内であっという間に広まり、ケーキを取り扱う各店舗がこぞって『誕生日用ケーキ』を生み出したのだ。各々、個性が出ている面白い仕上がりになっている。
ただ、どの店も共通しているのが、誕生日ケーキには年齢の数だけ小さなロウソクを立てるということだ。
おそらく、ジネットの誕生日の際の、あの印象が大きいのだろう。
で、ベッコは今、大忙しなのだ。
「では、このモンブランは食べられませんわ!」
「食えよ!」
「なくなるではありませんかっ!?」
「後日作ってもらえよ、食品サンプルなら!」
こいつは、美しいものがなくなることをとても嫌う。
……難儀な性格だ。
「で、では…………いただきますわ」
席に着き、フォークを握って、イメルダはモンブランと向き合う。
あ、本当に二人前用意されてる。
「はぁぁぁぁあああ…………ワタクシ、モンブランを食べるために生まれてきたんですわね、きっと」
「うん、たぶん違う」
極端な感想をさらりと受け流す。
一口食べた後は、止まらなくなったのか、がつがつとモンブランを口へと掻き込むイメルダ。
あ、もう二つ目に手を出した。……よく食うよな、ホント。
「とにかく、いいですこと? ……もぐもぐ……この次……もきゅもきゅ……何かをする際は……ズズズゾゾォ…………ぷはっ……ワタクシも絶対、もきゅ、協力いたしますからね!」
「食いながらしゃべんじゃねぇよ……」
「もきゅもきゅ……もきゅもきゅもきゅ…………」
「変な音出して食うな……」
この次ったって、次は街門を作って、街門から大通りまでを街道として整備し直すだけだからなぁ。俺らの出番なんかないぞ、たぶん。
「ところで、今日はあの……えっと、なんてお名前でしたかしら……赤い髪の…………あ、そうそう、ツルペラさんはいらっしゃいませんの?」
「エステラだよっ!?」
イメルダがうっかり言い間違えた瞬間、エステラが陽だまり亭のドアを乱暴に開けて入ってきた。
……まったく。
「乱暴に扱うなよな、ツルペラ」
「エステラ! 君まで乗っからないでくれるかな!?」
「まったく。折角のティータイムだというのに、騒がしい……少しは落ち着いたらどうですの、エスペタさん」
「エステラ!」
「だから、店でデカい声を出すなよ。ツルペタ」
「ボクの名前が完全になくなったよ!? ただの悪口になったね!?」
今日も今日とて賑やかなヤツである。
「まったく、人がなんとか時間を作って久しぶりの憩いを求めて来店してみれば……」
門の設計や工事期間のあれやこれやと、エステラはここ最近また忙しく走り回っている。
門が完成した後の運用方法も今のうちに確定させておかなければいけないしな。
門が完成したら、そこを通行する者の確認や、門の外にいる魔獣を追っ払うために兵士が必要になる。
領主が持っている自警団がその任に就くことになるのだが、少々人手不足だ。
だから、他所の区からも広く募集をかけている。
若いのに職にあぶれてしまった者にはチャンスとなる求人だ。すぐに数は揃うだろう。
「あ、モンブランだ。いいなぁ……でも今日はアップルパイにしようかなぁ」
「飯を食え、飯を」
こいつは、昼飯を飛ばしてケーキを食おうだなんて……子供か。
「え~! ケーキが食べたいのにぃ!」
口を尖らせて体をねじるエステラ。
「いやいや~」じゃねぇよ!
本当にガキみたいなことを……と、思った矢先、こんな会話が店内から聞こえてきた。
「こら! ちゃんと全部食べなさい!」
「もういらない~!」
見ると、母親と幼い少年が焼き鮭定食を食べていた。と、いうか、少年の食べ残しをなんとか食べさせようと母親が苦慮しているようだ。
「あの……少し多かったでしょうか?」
「あ、いえいえ。たくさんいただけるなんて、感謝したくらいで……ほら、あんたもわがまま言わないで全部食べなさい!」
「やー! ケーキ食べるー!」
「ケーキ食べられるならご飯食べなさい! もったいないでしょ!?」
「やー! もーいらないー!」
「はぅ…………」
「もういらない」その一言にジネットの表情が曇る。
……殴ろうか、ガキ?
どうせ、イメルダがモンブランを美味しそうに食うから、自分もそっちが食べたくなっただけなのだろう。ご飯よりケーキの方が美味そうだもんな。
だがな、俺は飯を食わずにお菓子を優先させるヤツが大嫌いだ!
飯前にお菓子を食って、「ご飯食べられない」とか言うヤツは、二度と白米が食えなくなる刑にでも服せばいい。
「あの……でしたら、お弁当箱に入れて、お持ち帰りになりますか?」
「え、でも……量が、これだけですし……」
少年の食べ残しは、ご飯が半分とシャケ四分の一、そして付け合わせの野菜があと二口といったところか。
無理して掻き込めばいけそうな量だ。
つか、ご飯残し過ぎだろこのガキ。おかず、ご飯、汁物と、三角食べが基本だろうが! なってないぞ、教育がっ!
……ん?
あれ…………そういや、こういうの、昔………………
「……あっ」
ふと、とても…………とても懐かしい記憶がよみがえった。
俺が親方と女将さんに引き取られたのは五歳の時で、俺の記憶が鮮明に残っているのもそれくらいからで……だからまぁ、本当の両親の記憶なんかはほとんどないようなものなのだが……ただはっきりと、五歳の俺は落ち込んでいたのだという記憶だけは残っていた。
ガキなりに両親がいなくなったことに傷付き、優しい伯父夫婦に気を遣わせてしまっていたのだ。
女将さんの作ってくれるご飯を「食べたくない」なんて、困らせたこともあった。
そんな時……
そう、ちょうどこのガキみたいに俺はわがままを言ったことがあって…………うわ、思い出すとすげぇ恥ずかしい……俺は、両親がいなくなって『いらない子』なんじゃないかと錯覚して……『お前は特別だ』と言ってもらいたくて……わがままを言った。このガキとまったく同じで飯を残して、ケーキを食わせろと……
その時……女将さんは俺に………………
「おい、坊主」
「……えっ?」
俺はガキの背後に立ち、高いところからそのこまっしゃくれたガキの顔を思いっきり見下ろす。
ガキが微かに怯えた表情を見せる。
「ちょっと、厨房へ来い」
「ヤ、ヤシロさん!? い、いじめちゃダメですよ?」
お前は俺をなんだと思ってんだ?
それにいじめるなら表に連れ出すわ。
部外者を厨房に入れるなんて、よほどのことがない限り、この俺が許さない。衛生管理は食品を扱う者にとって命と同じ重さがある使命だからな。
「ジネット、新しいエプロンを二つ持ってこい」
「は、はい。ただいま」
「おい、ババァ…………もとい、お母さん。あんたも付いてきてくれ」
「え? あ、は、はい……」
ジネットが持ってきたエプロンをババアとガキに着せ、厨房へと連れて行く。入ってすぐに手洗いをさせ、爪の中までブラシで洗浄させ、最後にアルコールを吹きつけてから厨房への立ち入りを許可した。当然、靴も殺菌させてもらった。
「そこら辺にある物には触るなよ」
念のために釘を刺し、二人を作業台が見える場所へ連れて行く。
さて……やるか。
俺は持ってきたガキの食い残しをまな板の上に載せる。
野菜と、鮭の切り身だ。
そこに、味噌、砂糖、醤油を混ぜ包丁で叩く。ちゃんちゃん焼きもどきだ。
で、こいつをかる~くフライパンで炒める。水分を飛ばし、味の濃縮された『タネ』を作る。
あとは、ガキが例外なく大好きな『アレ』を作る。
記憶にないだろうか?
凄く幼い頃、ご飯がどうしても食べられない時、茶碗に残った白いご飯を、おにぎりにしてもらったら不思議と食べられた……なんていう経験が。
ガキなんてのは単純だから、見た目に面白ければ興味を示し、そして食うのだ。
ガキの「お腹いっぱい」は、単純に「もう飽きた」であることが多い。その証拠に、飯のすぐ後に「おなかすいた」とか平気な顔して抜かしやがる。
「お~にぎり、お~にぎり、な~にいれよ~?」
「あはっ!」
そんな歌を歌いながら、残ったご飯を手に取り、一口サイズのおにぎりを作る。
こういう、なんてことのない歌とか、ガキは結構食いついてきたりするんだよな。
……女将さんが歌っていた調子はずれのオリジナルソング、今でも覚えてるもんな。
気の利くジネットが、新しく平たい皿を出してきてくれる。
そこに一口サイズのおにぎりを置く。
すると、もう我慢出来ないような様子でガキの目がキラキラしていた。
「食うのは、向こうに戻って椅子に座ってからだぞ」
「えぇー!?」
焦らすのも、効果的だ。
なるべくゆっくりと、時間をかけ、歌なんぞを歌いながら、ガキが食い残した物を全部おにぎりへと作り変える。味噌などの調味料を追加したが……まぁ、今回はサービスでいいだろう。
「さぁ、戻ろうか! あ、エプロン返せよ」
「うん! 早く! 早くっ!」
厨房を出るなり、ガキはエプロンを脱ぎ、ジネットへと押しつける。そして、電光石火の速度で椅子に座り、ワクテカした表情でおにぎりの登場を待った。
……分かりやすいガキめ。
「ほら、残さず食えよ」
「いただきまーす!」
ガキが『ちゃんちゃん焼きもどきおにぎり』に齧りつく。
「ん~っ! おいひぃっ!」
足をバタバタさせて口に頬張る。
この調子なら完食出来るだろう。
モンブランよりも後に登場した、見たこともない面白い料理に、ガキの興味は完全に移っていったようだ。
「ヤシロ! あれ、ボクにも出してくれないかい!?」
「ワタクシにも!」
お前らの興味も移ったのかよ? 子供か……
「ヤシロさん、凄いです。お子さんの気持ちまでよく理解して……本当に、凄いです」
なぜか、ちょっと泣きそうな目をしてジネットが言う。
……なんで涙目なんだよ?
「なんだか…………お爺さんみたいです」
「誰が年寄り臭いか!」
「あ、違います! わたしの祖父に、少し……ダブるものがありまして」
なんか、前にもそんなことを言われた気がするな。
俺ってそんなにジジイっぽいのか?
「こういうのは、どこで思いつかれるんですか?」
「あぁ、これは……」
…………自分のことなんか、話したことないんだが…………ま、いっか。
「女将さんが、俺にやってくれたことでな」
「おかみさん?」
「まぁ…………母親だ」
俺にとっての母親は、やっぱり女将さんなんだ。
「そうなんですか……素敵なお母様なんですね」
「まぁ……そうかもな」
くっそ。
他人に褒められて…………ちょっと嬉しいとか、なんでだ?
「食べたー!」
「おぅ! 偉いぞ、クソガキ!」
「それ、褒めてるのかい?」
「めっちゃ褒めてんじゃねぇかよ。なぁ、ガキ?」
「うん!」
エステラが小首を傾げる。
なんでそんな反応なのか、こっちが小首を傾げたい気持ちだわ。
「本当に、ご迷惑をおかけしました」
ババアが丁寧に畳んだエプロンを返しつつ頭を下げる。
「いいえ。こちらも新しい発見がありましたし。どうかお気になさらないでください」
恐縮して、ジネットも頭を下げ返す。
おにぎりの追加料金を払うと言うババアの言葉をやんわり断り、焼き鮭定食二人前の代金を受け取る。
ババアは何度も頭を下げ、ガキは元気に手を振り、店を出て行った。
「よかったです。喜んでもらえて。ヤシロさんのおかげです」
「しかしまぁ、ガキにはちょっと多いのかもしれないな」
「そうですねぇ……たまにですが、少しだけ食べ残されるお子さんがいらっしゃいますね」
飽食の日本とは違い、この街で食べ残すなんてことは基本的にあり得ない。
なんと言っても、ここは最貧区なのだ。骨付きカルビの骨を三日三晩しゃぶり続けるような生活水準だった街なのだ。
なのに食い残しが出るってことは、純粋に量が多いのだろう。
「お客さんの食べ残しは、再利用のしようがありませんから……少し、もったいないですよね」
「堆肥に混ぜてやれば、そのうち肥料になるかもしれんが……それも限度があるしな」
使い回して別の客に、なんてことが出来るはずもなく、結局は生ごみとしてまとめ、堆肥にするくらいしかないのだ。……ブタに食わせるとか……つっても、家畜にはそれ用のエサを各ギルドが作ってるしな。
「ウチじゃあ、ウーマロの料理に紛れ込ませるくらいしか使い道ないよなぁ」
「紛れ込ませないでほしいッス!」
凄まじくいいタイミングでウーマロが陽だまり亭へやって来た。
なんなら、外でスタンバイしていたんじゃないかってレベルのナイスタイミングだ。
「企業秘密を盗み聞きするなよ、いやらしい」
「企業秘密じゃないッス! それはただの陰謀ッス!」
ぷりぷり怒るウーマロを、ジネットが座席へと案内する。
なんだかんだで客が捌け、店内は顔馴染みばかりになっていた。
ウーマロがやって来たってことは……もうそんな時間か。
「……ただいま戻った」
「今日も完売したです!」
マグダとロレッタが揃って店内へ入ってくる。
この二人は陽だまり亭二号店と七号店の移動販売の陣頭指揮を執っていたのだ。
ランチ後は、やはりまだ客足が遠のくので、その時間二人は移動販売の方へ行っているのだ。
ランチ後から数量限定で発売される『午後メニュー』を引っ提げて。
ポップコーンは新味のキャラメルポップコーン。
タコスは、タマゴサラダを挟んだタマゴサンドが毎日数量限定で発売されている。
夕飯までの小腹を満たす用途で、これらはいい売り上げを記録している。
「マグダたんっ! 外回りお疲れ様ッス!」
「……ウーマロも」
「むはぁ!? 今ので疲れ吹っ飛んだッス!」
で、マグダが戻ってくる時間を見計らってウーマロはランチを食いに来るのだ。
……こいつ、もうプロだろ? 時間ピッタリじゃねぇか。
こんなスチャラカなキツネが、その筋では高名な建築家だってんだから……ファンとかいるしよ…………ん?
「あぁっ!」
思わず喉から漏れ出た俺の叫びに、その場にいた者が全員「ビクッ!」っとする。
「ど、どうされたんですか、ヤシロさん?」
「……そうか。そうだよ…………なんで、今まで気付かなかったんだ…………」
ここにいる連中は、みんな顔馴染みだ。
つか、最早『仲間』の域だ。
『仲間』なら……協力してくれて当然だよなぁ…………? なぁ?
「…………んふふふふふふ」
「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い! 怖いッスよ、ヤシロさん!」
「あ……なんか嫌な予感がするなぁ、ヤシロのあの顔……」
「邪悪ですわね」
「……何かを企んだ時の顔」
「悪お兄ちゃんモードです」
「そうですか? わたしには、なんだかとても楽しそうに見えますけど」
「「「「「節穴?」」」」」
「ひ、酷いです、みなさん!?」
俺は、ここ最近陽だまり亭で発生していたという問題を解決する妙案を思いついた。
実に、単純なことだ。
単純だが、そいつを実現させるには『引き』が必要になる。
そして、俺には『心強い仲間』が、こ~んなにたくさんいるじゃないか。
「なぁ、みんな」
俺は、その場にいる『仲間』たちに視線を向ける。
満面の笑みで。
「俺たち…………『なかよし』だよな?」
「「「「「怖っ!?」」」」」
ジネットを除く全員が顔色を青くした。……失敬な。
「はい。とても仲良しですよ。ヤシロさん」
「だよなぁ?」
「はい」
満面の笑みで応えるジネットのその言葉を、ここにいる連中の意見を代表したものだと解釈して受け取っておく。
さぁ、商売を始めようか……
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