第45話 僕が9ボルト(10)
「あんたは……!?」
寧色の驚きと、
「ハツディーン様……!」
目を覚ましたガレージの声が重なる。
「お初にかかる人もいますが、別段自己紹介する気にもなれませんね。実に最低な状況です」
そう言ってハツディーンと呼ばれた男はカンデンヂャーたちを睨みつける。
「あんたのその雰囲気、ただの勧誘屋じゃないわね、初澱」
初澱と呼ばれたハツディーンはかつて寧色を悪の組織に誘った男だった。
「ええ、わたくしはこの支部を任された長にあたります」
寧色が〈奇機怪械〉の誕生の経緯、創設者にもっと興味を抱いてWakipediaなどを見ていれば初澱が総督マカイゾーの親族であると気づいたことだろう。
「にしても、この状況。わたくしの計略でコピッペスを侵入させたのにそれがばれたということでしょうか?」
「グワハハハ、そういうことだ」
「やれやれ、これは大きな失態です。もっとも機人など、わたくしがいればいくらでも使える使い捨てなので問題ないのですが」
「あんた、本当に悪いやつだね。せめてリサイクルしてあげなよ」
「ブルーさん、それ少しずれてますよ」
唯一生身の光輝は三人のカンデンヂャーに囲まれながら、そう指摘する。
「なんにしても、絶縁体の強化も意味がなかったということですか。よもや一日で打破されてしまうとは。やれやれ、また計画の練り直しです……」
「私たちがそんなことさせると思う?」
「もちろん、思ってませんよ。ここからすんなりと逃げさせてくれないのでしょう?」
言って構えを取る初澱。
「グワハハハ! 当たり前だのクラッカービスケットせんべいだ!」
レッドが駆け出し、
「それ、意味わかんないわよ!」
イエローも続く。
「光輝も、早く変身しなよ」
「分かってます。電池変身!」
かけ声とともに光輝は再度、9Vスパークへと変身。その頃にはブルーも初澱へと駆け出していた。
三人が同時に初澱に攻撃を加えようとしたとき、初澱から黒いオーラと衝撃波が発生。三人は吹き飛ぶ。
「大丈夫ですか?」
ブルーを抱き起こしながら9Vスパークは心配げに声をかける。
「うん。ありがとう」
ブルーが立ち上がり、イエローとレッドも立ち上がる。
その瞬間に初澱の変化は終わっていた。
顔だけは初澱の顔のままだがそれ以外の部分は光沢のあるメタルフレームに包まれていた。継ぎ目はどこにもないため、電気は通りそうもない印象だ。
デスガレージとも機人とも違う姿に9Vスパークは違和感を覚える。
「これが本当のわたくし、オマエノ電機横真加家支部支部長、発電機人ハツディーンの姿です」
言い放ち、ハツディーンは手を振りかざす。
途端、ハツディーンの手から電撃がほとばしり、カンデンヂャーたちを襲う。
「こいつ、電気を使うのか……」
「そりゃそうよね、こいつ、発電機人だって言ってたから」
イエローは飛んで回避する。ゴロンと転がり立ち上がるが、再度稲妻が飛ぶため、回避行動を取り続けるしかない。
「攻勢に出れないじゃないの!」
イエローの怒号はブルーとレッドに9Vスパークも感じていた。
ひたすら避け続け、雷撃が切れるのを待つがなかなか途切れない。
それもそのはずだ、発電機である以上、電気を作り続けることができる。もっとも原料は必要なはずだが、それがもし空気だとしたらほぼ無限に作りだすことができるだろう。
9Vスパークは電撃を避けながら、ひたすら考える。
ナビがあるので、他のカンデンヂャーよりも戦いに集中しなくていいのは特権とも言えた。
ハツディーンはただの機人ではない。けれど発電機人である以上、他の機人と同じように元になったもの――それも名を冠する発電機があるはずだ。それをショートできればおそらく倒せる。
――問題はそれがどこにあるかだよなあ。
とはいえ、9Vスパークはある程度見当をつけていた。
ハツディーンは初澱から変化しても人型だった。ということは心臓に発電機がある可能性が高い。根拠はヒーローとしての自分の勘でしかなかったが。
「みなさん、胸のメタルフレーム外せますか?」
「何か策があるのか?」
レッドがハツディーンの稲妻を避けつつ尋ね返すと、9Vスパークは強くうなづく。
「だったらやってやるわよ」
「うん」
イエローとブルーが呼応して、多少電撃を喰らうのを覚悟で前に出る。
ブルーが鞭を振るい電撃を発する手をそらした隙にイエローとレッドが駆ける。
レッドの体当たりでハツディーンは体勢を崩し、間髪いれずにブルーが足を鞭で拘束。
レッドが両腕を両足で踏みつけ動きを拘束。
「やあああああああああああ!」
気合とともにイエローが槍を胸に突き刺すが、メタルフレームが硬く弾かれる。
「胸に当てていろ」
ハンマーを振り上げたレッドがイエローに言う。
何をするのか一瞬で悟ったイエローが穂先を胸にあて、そこへレッドがハンマーを撃ちつける。
釘を金槌で打ちつけるかのように、メタルフレームに大きな音が響き、槍が折れる。
「むっ、駄目か!?」
その言葉とは裏腹にハツディーンは慌てたようにカンデンヂャーを振り払い足を拘束する鞭を電撃で焼き切って退く。
「いえ、大丈夫ですよ」
レッドの懸念の声に9Vスパークは答えた。ナビによって視界をズームして見たハツディーンの胸にはかなり小さな穴が空いていた。
「これで、トドメだあああああああ!」
3人が穴を空けてくれると信じて光輝はすでにL.E.D.をスタンブレイドに装着してスタンバイしていた。
「サンダーリベレイション!!」
横なぎに払うと同時に電撃の竜が的確にライディーンの胸を射抜く。
光輝の勘があたり、ちょうどそこに発電機はあった。
ハツディーンは体を震わせ、感電。発電機はショート。
間際、
「おのれ、カンデンヂャー。しかしここは支部のひとつにしか過ぎません。ここに不具合が生まれれば他の支部が動き出すだけです」
ハツディーンは不安の一言を残して動かなくなる。爆発はしない。
「だったら、何度だって僕たちが叩き潰すだけだ」
カンデンヂャーの勝利だった。
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