第44話 僕が9ボルト(9)

 カンデンヂャーにとって幸いだったのは、絶縁体の強化により〈奇機怪械〉が驕っていたことだ。

 コピッペスの情報により先手を取って弓山市を襲撃した〈奇機怪械〉の機人の数が五体以上であれば、一瞬にして倒されることもすぐさま本拠地である真加家を狙われることもなかっただろう。

 しかし絶縁体の強化と数の差で本拠地からカンデンヂャーを追い払えたという自信は勝ちの少ない〈奇機怪械〉にとって驕りに繋がり、機人九体を襲撃させるのをやめた。

 九体投入しなくてもカンデンヂャーは倒せる、そんなことを思ったのだ。

 それがそもそも間違い。

 しかもその襲撃によって町が混乱すれば対応に追われ、カンデンチャーが本拠地を襲ってくることもないと過信していた。

 だからこそ、強行突破してきた電気自動車に〈奇機怪械〉は唖然としてしまう。

「なんだソー?」

 車に気づき真加家から出てきたスイコーメの前に四人のヒーローが現れる。四人を降ろした電気自動車はオマエノ電機の駐車場に去っていく。

「昨日ぶりだな、スイコーメ!」

「市の機人はどうしたッソー?」

 掃除機人は現れたカンデンヂャーに驚き動揺が隠せない。

「倒したに決まってるだろ」

 さらに9Vスパークを見てスイコーメの動揺は増していく。

「9Vスパークはいなくなったはずソー!」

「それはスパイを特定するための作戦だ」

「な、なんだっソー!」

 はったりのつもりだったのに単純なスイコーメは騙される。

「ということで、もう一度、基地を攻めさせてもらうわよ!」

「そ、それはやらせないソー!」

 寧色の言葉で我に返ったスイコーメは口笛を吹いた。

 呼ばれて飛び出るガレージだったがカンデンヂャーの姿、特にいなくなったはずの四人目がいることに少しだけ驚いてしまう。

 それでも動揺を最小限に抑えてガレージたちはいまだ変身していない光輝たちへと襲いかかる。

「ビリビリにシビれさせてやりましょう!」

 光輝のかけ声に全員が叫び、L.E.D.にそれぞれの乾電池を入れる。

「「「「電池変身!!」」」」

 四重の叫びでスイッチを押し、それぞれがそれぞれの色に包まれ、そしてスーツに覆われる。

「迸る電流! マンガンレッド!」

「穿て電力! アルカリイエロー!」

「撓る抵抗! リチウムブルー!」

「吼えろ電圧!! 9Vスパーク!!」

 それぞれが順番にポージングを取ると、

「「「「四人揃って電池戦隊!!」」」」

 レッド、ブルーが左腕を右胸にあて、イエロー、9Vスパークが右腕を左胸に当てる。レッドと9Vスパーク、ブルーとイエロー、内側と外側のふたりが「W」を作ったようなポージングを取って同時に叫ぶ。

「「「「カンデンヂャー!!」」」」

 後ろから赤、青、黄色、黒、四色の噴煙が上がる。グレイスの演出だ。PTAやら市役所からからクレームが来るが今回ばかりは受け入れるつもりの大盤振る舞い。

 四人は襲いかかってくるガレージへと向かう。

「ブリッツハンマー!」

 L.E.D.から取り出した鎚を大きく振るい、時には腹に打ちつけガレージを倒していくレッド。

「ライトニングウィップ!」

 同じくL.E.D.から取り出した鞭をまるで体操のリボンのように自在に操りブルーはガレージを翻弄する。

「エクレールランス!」

 その傍らで、電撃の槍から三連突きを繰り出し、乱舞するはイエローだ。

「スタンブレイド!」

 9Vスパークはスーツ性能とナビ機能を存分に利用してガレージの隙を見逃さずに叩く。

 四人によってガレージは一瞬で一蹴される。

 が倒したはずのガレージは再び立ち上がる。

 理由は明白。

「ビビーッ! 今日も負けにくるとはご愁傷様だビー!」

 B・Bトバッスが現れたからだ。

 現れたのはB・Bトバッスだけではない。

 昨日現れた全ての機人――グルワマール、マルデーキ、ヨゴトリー、チャチャイレロ、ラジカ・セレコ、ボイ・コーダ、スー・ジタタックが現れていた。

『私』『太刀』『に』『もう』『怖い』『者は』『蟻』『ません』『よ』

 代表するようにラジカ・セレコのラジオから音が流れる。

「ですが油断は禁物ビデェ」

「どうせ襲撃しているやつらは無視したに決まっているトドー!」

 最新技術の塊である電気機器が改造された機人なら、市街を襲撃した機人が撃破されたことがわかるような機人がいそうなものだが、ヨゴトリーの口ぶりからしてわかっていないようだった。

 それは9Vスパーク――光輝にとっては好機であった。冗談やシャレとかではなく。

「見せてあげなよ」

「危険かもですから隙を見て地下へ」

 9Vスパークはスタンブレイドの柄頭にL.E.D.をはめた。

「喰らえっ!」

 スタンブレイドがより一層輝き、稲妻を纏う。

 瞬間、マスクプレートに文字が映る。

《電力98%以上確認。必殺モード発動しますか?》

 ――なんだ、これ?

 光輝が戸惑ったのは一瞬。何がなんだかわからないが強そうというだけで発動を許可する。

 瞬間、9Vスパークの体を稲妻が包んだ。いや正確には包んだのではない。9Vスパークのスーツが放電していた。

 ――力が溢れているみたいだ。

 そんな感覚が光輝が包んでいた。

 ――いける。

 確信が生まれる。

 マスクプレートの残電力表示は高速で減少している。

 それでも光輝は焦りもしない。

 一歩、9Vスパークが踏み出すと、B・Bトバッスのすぐ後ろに移動する。

 目にもとまらぬ速さ。光速。

 それに比べれば高速で減少する電力など、みじんも気にならない。

「サンダー、リベレイション」

 剣を振るったところで、ようやくB・B・トバッスは9Vスパークが後ろにいることに気づいた。

 何も言えず、B・B・トバッスは感電しショート。爆発はしない。

 操られていたガレージも倒れる。

 たった一発の攻撃でかなりの数が減り、それに恐れをなした数体の機人が逃げ出す。

 しかしそれも無駄だ。

 逃げるボイ・コーダに一歩で追いつき感電させる。爆発はしない。

 その様子を見て転んだスー・ジタタックへと攻撃の余波、雷の奔流が到来しショートへと追い込む。爆発はしない。

 空を飛び逃げようとするグルマワールをスタンブレイドから放たれた稲妻の竜が光速で追いかけ、食い殺す。爆発はしない。

 木に化けたマルデーキは電光を纏う蹴りで文字通り一蹴されショート。爆発はしない。

 漂白剤を噴射するヨゴトリーだったがその全てを避けられ、胴体の洗濯機を貫かれショート。爆発はしない。

 チャチャイレロは近寄らせないようにお湯を撒き散らしたが、その温水に通電し本体に到達、感電。爆発はしない。

 一体残ったスイコーメは全員が一瞬にしてやられ激怒したのか猪突猛進。計画性のない突撃は9Vスパークの手に受け止められ、そこからの電撃でショート。爆発はしない。

 それがたった数十秒の出来事。9Vスパークの残電力が0%になり、光輝の変身が解ける。

「あいつは危険すぎる! あいつから倒すぞ!」

 少しばかり残っているガレージのひとりが叫び、光輝へと向かう。

 9Vスパークの強さに恐怖しているはずだが、それよりも悪の使命感が強いのか、それとも生身相手なら勝てると踏んだのか光輝を倒そうとしていた。

「グワハハハ! オレ様たちがいることを忘れてないか?」

 レッドのどすの利いた声でガレージたちは一瞬怯むが、それでも立ち向かってきた。

 昨日、覚えた勝利の味、ガレージたちはそれに酔いしれたいのだ。

 そんな望みもレッドの電池鎚によって一撃で砕け散る。鎚で叩かれた衝撃で吹き飛び、ガレージが気絶。後続もその攻撃に巻き込まれたり、かいくぐったとしてもブルーやイエローに追撃を受けてしまう。

 やがて真加家の庭にたたずむのは四人になった。

 そんなときだ、声が響く。

「おやおや、わたくしが勧誘に赴いている間に、最低な事態に陥ってますね」

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