第13話 青葉の頃(8)

「頼明は見つかった?」

 ホープの裏へと降り立ったリチウムブルーはすぐさま変身を解いて、〈i-am〉へと話しかける。

『いえ』否定の言葉だけで次郎花は少し落ち込むが、光輝の言葉はまだ続く。『けど頼明くんの〈i-am〉は見つかりました』

「どこにあったの?」『梧桐ごとう駅の手前に落ちていました』

 言葉が重なる。次郎花はヒントを求めようと焦りすぎた。次郎花が黙ると光輝がもう一度、言った。梧桐駅といえばこのホープの左手にある駅で、そこから地下通路を使って直接ホープにも入ることができる。

 頼明が駅から電車に帰ったということはありえない。頼明の家からホープに行くのなら、一時間に二本しかない電車に乗るよりも徒歩のほうが早い。

「光輝は今、その駅の周りにいるんだよね?」

 次郎花の質問に光輝は肯定の返事を出す。

「だったら、ごめんけどそのあたりに何か怪しいものがないか調べてみて」

『謝らないでくださいよ。僕だってヒーローなんですから』

 そうだったね、と次郎花は少しだけ笑う。

 光輝は人の役に立つのがヒーローの役目だと思い込んでいる。いや実際のところ、それが正しい。カッコいいヒーローになりたくてヒーローになった次郎花とは、ヒーローに対するやる気がまったく違う。次郎花が頼明を探しているのは、自分がヒーローで役に立とうなんて気持ちからではなかった。ただただ心配。その気持ちだけで次郎花は突き進む。

「駅の近くに〈i-am〉があった以上、そっちにいる可能性が高いけどボクは頼明の家まで一度歩いててがかりを探してみる」

『何かあったら、連絡します』

「よろしく頼むね」

 〈i-am〉を切った次郎花はもう一度駆け出す。裏口から表の駐車場に出る。

 ちょうどそのとき、社員以外の自動車が一台、駐車場へと入ってきた。腕時計の針は午前八時を示している。開店には一時間も早い。

 次郎花の目にその自動車は怪しく感じられたが、運転席に座っていたのはどこにでもいそうな豹柄の服を着たおばさんだった。しかし<奇機怪械>の戦闘員ガレージは悪の組織に就職した一般人がなっているため、ガレージである可能性も否めない。だが、店員と思しき人が外に「大売出し」、「特売日」という旗を立てかけているのを見て、おそらく特売狙いで早くきたただのおばさんだろうと見当をつける。

 店員とおばさんが実はガレージで共謀してカンデンヂャーを騙しているとは到底思えなかった。そんな手を込んだことを<奇機怪械>は今まで一度もしたことがないし、それにそこまで疑えばキリがない。

 そのまま表の駐車場を突っ切って、次郎花は頼明の家へと向かう。

 けれど、何もてがかりらしきものは見つからなかった。

 そんな次郎花に再び光輝から電話がかかってくる。

『頼明くんが見つかりました』

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