Season of New Green Leaves
第6話 青葉の頃(1)
「スタンブレイド!」
L.E.D.から射出されたミクロの箱を握ると、光輝はそう叫ぶ。本当は叫ぶ必要はないが、戦隊物ではお決まりのセリフ――武器を取り出したときはその武器名を言う――をヒーロー好きである光輝が言わないわけがなかった。
箱から変形したスタンブレイドを握り締め、9Vスパークは目の前の機人に切りかかる。全てがナビゲーションの指示通りだ。9Vスパークに搭載されたモードはマニュアル、セミオート、オート。
初陣のときに光輝が使ったのはオート。9Vスパークに内蔵されたナビに全て頼るモードで、メリットは最適化された行動が取れることだが、デメリットはスーツの動きに光輝の体が無理にでも合わせられてしまうため、それによって身体を痛めたり筋肉痛になることがあることだった。
それを二日目で思い知った光輝はそれ以来オートモードを控えている。
今現在、ヒーローになって三日目の光輝が使っているモードはセミオート。マスクプレートにナビによる最適な行動が表示されるモードだ。光輝はそれを見て、ナビ通りに動いてもいいし、自分の好きなように動いてもいい。とりあえず光輝はナビに従っている。戦闘経験の少ない光輝が足を引っ張らないためにはそれが一番だと思ったからだ。
切りかかられた機人はエアマルチプライアー――羽のない扇風機のような腕を前に出し、それを受けとめる。
エアマルチプライアーの両腕に、ボックス扇風機の胴体。左右に首を振る量産扇風機の顔。それが扇風機人グルマワールの容貌だった。
「そんなの効かないグルマー!」
スタンブレイドを受けとめたグルマワールはそのまま背中についた、天井に設置されているような囲いのない扇風機を回転させ、空を飛ぼうとした。
「無駄っ!」
9Vスパークは吼え、スタンブレイドのスイッチを入れる。フランベルジュのような波打つ刃に電流が走り、それがグルマワールへとほとばしる。
弓山市を侵略する〈奇機怪械〉の機人は電気に弱い。なぜなら〈奇機怪械〉の機人が電化製品をもとに作られているからだ。
そもそも〈奇機怪械〉侵略の歴史は世界征服を目論んでいた奇機怪械総督マカイゾー(本名、真加偉蔵 出典:Wakipedia)が日本の電化製品がどの国よりも最先端であると思い込んだところから始まる。マカイゾーは日本の電化製品が不良品と化せば、生活の利便性が失われ、全国、さらには輸出している全世界が混沌に陥ると確信していた。だからこそ自らが開発した技術【魔改造】により電化製品を弄って機人を作り出し世界征服の第一歩として日本征服を始めた。
日本征服を掲げた〈奇機怪械〉が弓山市に本拠点を置き、弓山市周辺を襲い始めたのは弓山市が世界一と呼んでもいいほどの電化製品を作り出した技術者を多く輩出しているからだった。
技術者としても最先端技術を駆使した電化製品を【魔改造】により機人化されるのは大いに困る。
そこで彼らは〈奇機怪械〉に対抗するべくカンデンヂャーを作り出した。
こうしてカンデンヂャーと〈奇機怪械〉の争いの構図は出来上がる。
「ちなみにヒーローと悪の組織には不文律があってネ、侵略する場所と守る場所を決めるというものデス。我々の守るべき地域は弓山市ですが、弓山市のとある清掃会社だけはその守るべき領域に入っていないのデース。なぜなら、その清掃会社を襲う悪の組織とその清掃会社を守るヒーローが存在するからなのデース!」
歴史を語るなかでグレイスはそう言った。
そのとき、光輝は軽くショックを受けた。A地区のヒーローがB地区の悪の組織を倒すことはない。現在のヒーローはある特定の地域だけしか守らないのが常識だった。
「でもそうしないとヒーローは守るべきものすら守り切れまセーン。そうしているからこそ、無数に存在する悪の組織から日本を守れているのデース」
しかし、そのグレイスの言い分も光輝は理解できた。
特撮ヒーローと職業ヒーローは違うのだ。
それは戦ってみて身に染みている。
機人は毎日と言っていいほど弓山市に出現し人々を襲っていた。
グルマワールへとほとばしった電気がグルマワールを構成する扇風機へと感電。電子回路のコンデンサなどが高電力によって過負荷となりグルマワールはショート。そのまま倒れる。爆発はしない。
「認めたくないけどスーツ性能の差が歴然ね。いやになるわ、まったく」
ガレージを倒していたイエローがいつの間にか横にいて、ぼやいた。
「だがすいぶんと倒すのが楽になったのは事実だ。しかし性能の違いが戦力の決定的差ではないということを覚えておけ!」
レッドは少し格好をつけてそんなことを言ってくる。
ブルーの姿はどこにもいなかった。
「一ヶ月間アルバイトでやるんだってね」
昨日は基地に姿を見せてそう声をかけてくれたが、今日は基地にすら姿を見せていない。
ちなみにカンデンヂャーの三人は案外すんなりと光輝を受け入れてくれた。親もヒーローのアルバイトをすると言ったら、特に問題なく許可をくれた。
「ジロウさんって来ない日とかあるんですね」
「むしろ来ない日のほうが多いわよ」
イエローはぶっきらぼうにそう答えた。
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