191G.ストラグルピーク ハイラウンダーズ

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 天の川銀河、ノーマ・流域ライン

 サンクチュアリ星系、第5惑星オルテルム衛星軌道。

 サンクチュアリ解放作戦艦隊、旗艦サーヴィランス艦橋ブリッジ


『ライトウィングの連邦艦隊前進! ハルベルヘルドも予備艦隊を離脱します!!』

『オリュンポス、ゼウス陽電子砲システムに熱、電磁波反応! 非常に高い! 稼働中です!!』

『キングダム船団より支援砲撃。メナス流上流に直撃します。メナス群反応。当艦隊への投射量が20%減少』

『マレブランスに応戦中のインターセプター損耗30%! 第3防衛ラインを割ります!!』


「なにやってんだ連邦軍……?」


「命令を無視しての独走となれば、連邦艦隊を囮に使う事も考えられますが?」


 サンクチュアリ星系解放作戦艦隊は、大混乱だ。

 連邦艦隊はメナスに何度も揺さぶられた末に浮足立ち逃げ腰になった、と思ったら、今は損害度外視で全軍突撃している。

 さりとてセンチネル艦隊の方も、あまり良い状態とは言えない。

 メナスという強大かつ莫大な敵を相手に奮戦する上で、多くの負担を引き受けており、消耗も激しかった。

 マレブランスが2体出現という非常事態により一時は撤退まで決断したが、そこに来て皇国艦隊と共和国所属のキングダム船団という大戦力が出現した事で、戦闘指揮も連携も大分錯綜している。



 だが、もはやここ・・しかない、と艦隊司令、村瀬唯理むらせゆいりは判断した。



「いや、このまま往こう。全艦隊全力攻撃。先行した連邦艦隊を支援する形で、あっちが崩れたらフォローを。

 本艦はアイランド切り離し後、『ベルセルク』を予定通り発動。

 わたしはマレブランスを抑えに行く。フロスト、後は任せる」


「……SR-0110、ランツらを付けます。ご武運を」


 もはや細かい命令が出せる状況ではなかった。ひたすら力任せにブッ叩く盤面である。

 全軍の大半を占める連邦艦隊は勝手に突撃。猛攻を仕掛けながらも、真正面から盛大に被弾し次々に船が落ちていた。


 ここに、旗艦サーヴィランスが突っ込んでいく。こちらも被弾お構い無し、ノーガードの全速力だ。

 全長10キロの巨大艦は破城槌となりメナス群の前衛に激突。

 四方八方から集中砲火を受け、エネルギーシールドを急激に減衰させながらも、通常砲740門、特大口径砲8門、対空火器、誘導キネティック弾を全方位に乱射し暴れ狂う。


 これが、戦術コード『ベルセルク』。

 撃沈覚悟、サーヴィランスを使い捨てにする勢いでメナス群の中に特攻させる作戦だった。

 なお、艦体の上部、艦橋構造体アイランド部分は切り離し単独でも宇宙船として機能する仕様なので、既に離脱済みである。


 オルテルム軌道上の宙域は、完全な乱戦状態となっていた。本来なら赤毛の艦隊司令は避けたかった状況だ。

 甲殻類のようなメナス艦が何十隻とまとめて切り裂かれ爆散。地上から放たれる青白い閃光に、連邦艦隊が何十隻と薙ぎ払われる。

 巨砲の大戦艦サーヴィランスがメナス群の中で撃ちまくり、無数のメナスが吹き飛ばされながら反撃し、その側面を皇国艦隊とキングダム船団の長距離砲撃が殴り付ける。

 入り乱れるメナス端末兵器と人類のヒト型機動兵器。

 砲艦のビーム兵器が地上の衛星防衛兵器オリュンポスを焼き尽くし、衛星軌道からは火の玉となった宇宙船とメナスが絶え間なく地上へ落下していく。


 一時は瓦解しそうだった人類側の艦隊だが、今は猛烈な勢いで押し返していた。

 メナス側の母艦型キャリアーは残存数500万体を割り、更に減少中。

 飽くまでも淡々と人類側の宇宙船を破壊せんとし続け、逆に火力の壁で押し潰されている。

 そんな中でも、メナス最上位個体マレブランスは跳梁ちょうりょうを続け、人類の宇宙戦闘艦を立て続けに破壊していた。


『クソッたれぇ! またやられた! あのメナス、デブリでも掃除すみたいに戦艦クラスを……!!』


「やらせておけ! 野郎が船を狙うならこっちはケツを叩いてやればいい! 正面から戦うな死ぬぞ!!」


『センサーがメナスを追わない! サイトデータのリンクまでおかしい!!』

『エレメントでカバーし合え! パッシブでメナスを捉えるのを最優先!!』

『味方ってどこにいるんだ!? 動きが早過ぎて区別がつかねーよ!!』


 赤い重装甲機『コリジョンマス』のブラッド・ブレイズをはじめ、機動部隊の迎撃機インターセプターが集中砲火を浴びせていた。

 しかし、全身に捻じれた刃をまとうマレブランス、ファルファロールは機械の目センサーでも捉えどころが無く、無数の火線が擦り抜けてさえ見える。

 逆にファルファロールは電子戦能力だけではなく高火力も備え、両腕からの螺旋ビームでエイム部隊を薙ぎ払った。

 

「ぬぉおおおおおおお!!?」

『回避だぁあ! 回避回避回避ぃ!!』

『フルパワーで離脱しろ!』


 その暗緑色の竜巻から、ブースターをいっぱいに吹かし全力離脱するブレイズほかエース格のエイム乗り達。

 作戦準備を開始する前なら、成す術無く一網打尽にされていたであろう、広域に渡る桁外れの攻撃。

 対メナス戦闘を念頭に置いて、限界Hi-G領域での訓練を繰り返してきた成果である。


「ウチのお嬢に死ぬほどしごかれた甲斐があったってもんだなぁオイ!」


『こんなん何度もかわせねーよ! 死ぬ!!』

『皇国とキングダム船団が来てる! ここを凌げば艦隊の火力に余裕が出るはずだ!!』

『だからそれまでもたねーって!』


 圧し潰されそうな慣性に耐え、なおもマレブランスへ突撃するブレイズの赤い重装甲機。

 元来の加速性能に加え増設されたマニューバブースターがメナスに劣らない運動性を発揮させるが、センサー性能が大幅に落ちているので索敵はほぼ勘頼りだ。


 だがそれでも、ここで自分がマレブランスに迫らなければ、被害が際限なく増え続ける。

 故に、ブレイズは限界を超えた高機動でファルファロールを追い続け、


「クソッ!? しくじった!!」


 ついには、地力の差が出て身体半分を吹っ飛ばしそうな一撃を喰らってしまう。


『警告、左腕肩部ブースターがフレームアウト。オートバランサー、右腕肩部ブースターにリミッタを設定』

「余計なことすんじゃねぇ! ブースターコントロールは全部マニュアルだ!!」


『ブレイズ隊長がヤベェ!』

『メナスの接近に合わせてブチ込め! 隊長後退しろ!!』


 センサーが頼りない、無重力と真空宙の手探りのような環境。

 このような局面で、メナスの中でも最悪の部類の敵マレブランスを相手取る事になり、度胸で鳴らしたブラッド・ブレイズでさえ、焦りと恐怖に囚われそうになっていた。


「ヘックスM7よりH2Iはマレブランスを落とし友軍機を援護する! 電子戦機はメナスのECMを黙らせろ! M12は本機をカバー! S33はサポート! 本機に張り付いて離れるな!!」


『ラジャー!』

『ラジャー!!』


 そんなハリケーンのド真ん中のような戦場に、整然とした編隊で飛来する連邦軍特殊戦略部隊。

 マスターズ一佐率いる『ヘッドハントインパクター』だ。


 連邦艦隊の動きに合わせて振り回されるわ、メナスの大群相手に死に物狂いで応戦するわの状況だったが、ここに来て最後の勝負を挑んで来た。

 連邦のトップエリートとして、最も強大な敵マレブランスを下し、中央本星奪還の確かな成果を上げる最後のチャンスである。


 黒いエナメルの機体エイム、シュバリエ・スプリームが量産型S・フェブリティ僚機バディに、射撃しつつ突撃。後続の狙撃支援機と十字砲火を仕掛けた。

 激しい高機動でありながら、高性能な射撃制御システムはマレブランスを捉え続ける。

 電子妨害ECMも完全無効化まではいかずとも、連邦のハイエンド電子戦機は友軍のセンサー精度をある程度回復させていた。


 渦を巻いたエネルギー流が振り回され、いとも容易く巻き込まれた連邦艦が削られ、へし折られ、火ダルマとなり盛大に爆散する。

 その至近を突破し、マレブランスの両側面に滑り込む連邦のエイム部隊。

 エナメルの機体の頭部を覆う袖が開き、搭載システムが全力稼働を始めた。


 ビームトルネード放出中のマレブランスは動きが制限されている。電子妨害ECMも味方が総出で対抗中だ。

 このタイミングを逃さず、マスターズ一佐はマレブランスに一瞬で接敵し、死角からレールガンを連射。

 弾体は背面に直撃し、捻じれた刃を纏うメナスが突き飛ばされ、ビーム竜巻もバラけて消えた。

 続く僚機S・フェブリティ、後方支援機のレールガン、レーザー砲も追い打ちをかける。

 並のエイム、並のメナスなら原型も残らない猛攻に、マレブランス、ファルファロールも大きく吹き飛ばされ錐揉きりもみしていた。

 しかし、


「固いッ……!? どういう装甲だ!!?」


『こ、効果測定します! スキャン上でメナスのダメージ確認できず! 損傷など認められません!!』


「最大チャージで叩く! 全機援護を!!」


『ラジャー! 正面に出ます!!』

『ECCM効果率下がります! 40%から低下!!』


 捻じれた刃のメナスは、電子妨害ECMだけではなく頑丈さも一級品だった。

 メナス最上位機は、一芸ではなく基本性能から人類の技術水準を超越している。

 マスターズ一佐の僚機が攻撃後の観測データからメナスへのダメージを計るが、それらしい破損個所は見当たらなかった。


 ならば手数より一撃の威力、と判断し、マスターズは長砲身レールガンへの電圧をリミットいっぱいまで上げる。

 その隙を埋めるべく、僚機と支援機、他部隊の全機が波状攻撃をかけた。

 マレブランスは攻撃を受けピン止めされたように動かない。


 砲身の冷却機が陽炎を上げるほどに電力を溜め、マスターズは外しようのない近距離からの直撃を狙う。



 それをいざ撃ち放った瞬間、黒いエナメル質のエイムは頭を潰されていた。



「――――――ッにぃ!!?」

『一佐!?』

『たいちょぉおおおお!!』


 軋むコクピット。暗転する機内。

 緩衝機能を無視して突き抜ける衝撃に、マスターズには何が起こったのか分からない。

 ただ、連邦の技術の粋を集めたエイムは、マレブランスの振り下ろした腕により激しく損壊。制御を失い、力なく真空宙を漂っていた。

 すぐさま部下たちのエイムが救援に入ろうとするが、捻じれた刃のメナスは一瞬で背後に出現し、あるいは同時に複数個所に現れ、シンプルかつ圧倒的な破壊力で蹴散らして見せる。


『一体どうなってる!? ECCMは効いてるんじゃなかったのか!』

『マクベリー! 一佐を救出して撤退しろ! 全機一佐とマクベリーを援護だ!!』

『チクショウ! ECCMのデータまで偽装されてたか! 電子戦の性能が違い過ぎる!!』


 連邦軍機がエナメルの機体を引っ張り、他の部隊のエイムが全力でこれを守ろうとしていた。

 だが、マレブランス、ファルファロールは淡々として一切の容赦をしない。

 姿を捉えるのも容易ではないのに、見えようが見えまいがお構いなしの攻撃能力で戦艦さえ沈め、その外殻は理不尽なまでに頑強。

 まさしく人類の脅威、メナス最上位個体マレブランスの名に恥じない隔絶した性能を振るい、果敢に立ち塞がるヘッドハントインパクターのエイも無残に砕かれ、



 全滅寸前までいったところで、唯理のスーパープロミネンスMk.53改『イルリヒト』が騎士団ベイメンMk.26機を率い側面から強襲する。



『お嬢! センサーは役に立たない! 向こうからダミーデータを送信されている!!』


「……センサーデータはわたしの機体のみに同期! わたしはマレブランスにワンオンする! 露払いはランツが指揮を執れ!」


 劇的な登場をしたが、条件は他のエイムと大して変わらない。

 指揮官機なので最高級のセンサーで固めてきた唯理の機体イルリヒトだが、マレブランスの電子妨害に拮抗できる程では無いはずだった。

 にもかかわらず、赤毛のエイムとデータリンクする他のエイムには、標的メナスの正確な捕捉情報が送られてくる。

 意味が分からない状態だったが、ランツたち騎士団は命令通りメナスへの攻撃を開始する。


 まさか唯理がマレブランスの気配・・を察知し、ネザーインターフェイスから射撃指揮装置イルミネーターへ逆流させる形でデータ送信しているとは誰も思わなかった。


 灰白色に青のフルカスタム機は、マレブランスの欺瞞情報カムフラージュに惑わされる事なくブースターを爆発させて突進。

 船さえ沈めるビーム竜巻の狭間を突っ切り、多連装レールガンを大出力連続発砲で固め撃ち。

 完全に相手の軌道と射線の偏差を読み切り、弾体をマレブランスに集中させる。


 ファルファロールの電子妨害ECMは継続して発信中であった。

 にもかかわらず、脇目も振らず正確に追撃をかけて来るエイムに、捻じれた刃のメナスはここにきてはじめて挙動を乱す。

 大味なビームトルネードではなく、掌の砲口から放つ荷電粒子弾の引き撃ちで灰白色のエイムを牽制。

 容赦ない撃ち合いとなるが、双方が高機動で全て回避し切る。


 そうして肉薄したところで、赤毛の武士もののふは腰のラックから、抜刀。

 射撃の効果が薄い事は先刻承知だ。

 故に、SプロミネンスMk53改の背面にアッドアームズ004『太刀持ち』を装備してきている。

 キングダム船団を離れる際に装備していた、劣化コピーではないオリジナルを改修したモノであった。

 

 迎え撃つマレブランスは、螺旋の刃の腕からビーム散弾を発射。

 腕に装備するシールドユニットで打ち払う赤毛は、その勢いのまま機体をスピンさせ疾風迅雷の後ろ回し蹴りローリングソバット

 極めて高い練度、隙の無い攻防一体の打撃はマレブランスであっても回避を許さず、エネルギーシールドごと弾き飛ばした。

 捻じれた刃を纏うメナス、ファルファロールの身体が体勢を崩して真空宙を泳ぐ。


 その一瞬。

 唯理は、全長二十三尺9.5メートル刀剣ブレイドユニット、『真改国貞シンカイクニサダ』を真上に構えた大上段に。

 エイムの眼孔が輝きセンサーが最大稼働してメナスを捉え、背面と脚部のブースターが炎を吹き、神速に踏み込む。


「んぬぅううううううう!!」


 限界加速Hi-Gを超え、狼のように牙を剥く赤毛の少女は、躊躇なく、全力で、全身全霊の力を籠め縦一文字に叩き斬った。


「ちぃえええい――――!?」


 だが直前に、片手を離さざるを得なかった為に威力が激減。正面装甲を浅く斬り付けるに留まってしまう。

 もう一方の腕部マニュピレーターで、もうひと振りの刀剣ブレイドユニットを抜き、もう一体のマレブランスを迎撃しなければならなかった為だ。

 オルテルムの衛星、サイトスキャフォード方面にいた『カルコブリーナ』である。


連中・・抑え切れなかったのか……! ランツ!!」


『はいはいはいただいまー!』


 マレブランス2体、これに対する唯理のスーパープロミネンスは二刀流。

 ファルファーロールのビームトルネードを紙一重で沈み込んでかわすと、カルコブリーナのハサミのビームを刀で受け流し、脚部に接続したレガースギアのサブマシンガンで弾幕を張る。


 即座に他のメナス端末を駆除していたランツら騎士団が駆け付けるも、ビームの竜巻に阻まれ大きく迂回を強いられていた。

 なお、当初カルコブリーナと交戦していた刀持ちの白い特殊機は、激しい交戦の末に攻め切れず逆にカウンターを喰らい中破。他の2体に救助され後退している。

 黒星の付いた鉛色の髪の女は、大層な荒れ様だった。


「ッチィイイ!? 調子はイイのにコレか……!」


 マレブランスは白兵戦の攻撃速度も尋常ではない。四肢を振り回し、一撃必殺の攻撃を繰り出してくる。

 エイムのエネルギーシールドや装甲など、簡単にブチ抜かれる威力だ。


 これに対抗し得るのは、それ以上に高出力なシールドや装甲、ではない。

 戦国の世以前から培われた、武術。

 その体捌たいさばきに追従して来られるだけの性能を持つヒト型機動兵器だ。


 職人集団ドヴェルグワークスによりスペシャルチューンをほどされたスーパープロミネンスMk.53改イルリヒトは、ここにきて最高のパフォーマンスを発揮している。

 それでギリギリ、マレブランス2体の猛攻を凌げている状況だ。


『スゲェ……! なんか、スゲェ!!』

『演算フレームの分析が追い付かねぇ!? 完全に人間技じゃないぞアレは!!』


 既に人類の技量レベルをどうしようもなく逸脱しており、周囲で交戦中のエイム乗り達も目を見張るばかりだが。


 カルコブリーナの荷電粒子ブレイド二刀と打ち合い、左右に弾き返して胴の正面がガラ空きとなる一瞬を当て込んでの、突き刺すような前蹴り。

 反動を使いファルファロールの掴み攻撃を回避する。

 すぐさまカルコブリーナ、ファルファロールは互いの荷電粒子剣を振りかざし、SプロミネンスMk.53改を追撃。


「しッ――――!!」


 その攻勢へ入る一瞬を見極める、赤毛の達人の逆袈裟二連。

 斜め下からの斬り上げ、逆側から追い打つもう一刀の斬撃は、マレブランス二体を確かに捉えた、かに見えた。


(あそこで退がって見せるのか!? 大した反応速度だな!!)


 ところが、必殺の刃はマレブランスに数ミリ届かない。

 踏み込む動きを巻き戻すかの如く、2体が一瞬早く回避行動に移った為だ。


 唯理と灰白色のエイムは追い切れない。

 それどころか、距離を取られた瞬間に全力で回避行動を取る。


 ファルファロールのビームトルネード、カルコブリーナの荷電粒子砲が一斉に放たれ、SプロミネンスMk.53改は直撃こそ避けるも、半身に大ダメージを負った。

 エネルギーシールドは1秒も持たず過負荷でダウンし、装甲は削れ駆動系が悲鳴を上げる。

 唯理は無理やりブースター出力を上げ、殺傷圏内キルゾーンから逃げ切った。

 しかし、たった一度の攻撃ターンで既にエイムはガタガタだ。


「ッ…………足りない! か!!」


 キングダム船団、パンナコッタの技術陣が改造したエイムは間違いなく最高の機体だ。

 だとしても、センチメンタルにすがり現状を見誤るほど唯理は夢見る乙女ではない。

 それに、自分の実力だけで強敵に対抗しようと思うほど自信家でも傲慢でもない。

 ただ、エイムの性能も自分の技量も、マレブランス2体を相手取るには足りていない・・・・・・のが現実だった。


 ファルファロールの荷電粒子突きを刀剣ブレイドユニットで受けきれず、腕部マニュピレーターを軋ませながら大きく後退させられる唯理。コクピット内も派手に揺れる。

 支援の為に中破したブレイズとその部隊も戻ってきたが、マレブランスの動きを抑える事ができない。逆に、反撃を受けて被害を増やしている。

 しかも、艦隊もメナスも混戦状態の中、マレブランスに呼ばれたかメナス端末体までもが集中し始めていた。


 やはり、最後の障害になるのはこいつらか。

 それは最初から分かっていたのに、いざとなれば自分が出ればどうにかなる、という思い込みがとんだおごりであったことに、己を腹立たしく思う赤毛である。

 自分以外にマレブランスと殴り合えるレベルのオペレーターがいないのも事実であるが。


(艦隊がメナスの主力を落とせば……いやこいつらだけでもひっくり返しかねないか)


「仕方ない……。この機体――――出し尽くすか!!」


 以て、唯理もなりふり構わず。

 使い潰すのも致し方無しと、エイムの全ての制限を解除した。機体の損耗を度外視した全力だ。


 跳ね上がり、レッドゾーンに入るジェネレーター出力。

 各部から同時に上がる負荷限界の警告表示。

 演算能力の上限を無視して重力制御システムが最大稼働を始める。

 全身のブースターは破裂しないギリギリの推力で燃焼させていた。


 狂ったような勢いで向かってくる灰白色と青のエイムに、反応こそ間に合ったが、カルコブリーナは片腕の大バサミを半ばまで斬られる。

 刀剣ブレイドユニットも後先考えないオーバーパワーだ。

 間髪入れず刃を真っ直ぐ引き抜きながら、赤毛の荒武者はヒザの兵装プラットフォームを相手に叩き込む。


 脚部のアーマーメント・レガースギアにはサブマシンガン1基、ビームブレイドが3基搭載してあった。

 そのビームブレイドを交差距離クロスレンジから三連発で発振する技が、『イラプション・ペネトレイター』だ。


 細い腹にゼロ距離からビームパイルバンカーを喰らい、女型のメナスが抵抗も出来ず吹き飛んでいた。外殻表面にもダメージが見られる。

 一方で、SプロミネンスMk.53改の駆動部アクチュエイター制御は、コクピットに警告を発していた。

 無理をさせ過ぎて異常加熱、機体保護の反動抑制リミッタまでオフにしているので関節部が異音を上げている。

 先のダメージもあり、どこまで持つか判らない状態だ。


 しかし、唯理はさらに踏み込む。

 加速度54.7G536m/s2。それも極短距離を弧の軌道でファルファロール側面に斬り込み、全身の関節とブースター噴射を連動せた渾身の、突き。

 捻じれた刃のメナスの脇を突き裂く一撃となるが、攻撃を受けながらもファルファロールは背後のブースターユニットを正面に向ける。


「やっば――――!!」


 唯理はペダルべた踏みで、胸部リバースブースターを全開に。

 直後、刃を束ねたようなブースターがビームの衝撃波ショックウェーブを発し、宙返りで回避し切れずSプロミネンス改イルリヒトは片腕を粉砕された。

 この衝撃で横回転モーメントが発生するが、赤毛は自前の姿勢制御能力で勢いに乗り、捻る動きで回避運動を立て直す。

 間合いを取って次に備えるが、ダメージ報告を見て舌打ちせんばかりだ。


(隠し札か!? それともたまたま!? いずれにせよ味な真似を……!!)


 唯理のエイムは右腕部マニュピレーターを根元から喪失。当然、肩部のマニューバブースターも失い運動性能は激減。

 機体の右側を荷電粒子混じりの衝撃波で叩かれたので、右脚部ランディングギア、右アーマーメント・レガースギア、右脚部ブースター、頭部右側センサー、とダメージを受け軒並み性能ダウンしていた。

 それでも、赤毛の戦神は一切揺るがない戦意にて、どこまで不退転。


 復帰してきたカルコブリーナ、ファルファロールを真向に据え、刀を肩に背負い、残る左脚部のサブマシンガンで弾幕を展開しつつ、身を捨てた勝負に挑む。



 そこに突っ込んで来てマレブランスに体当たりするのが、滑らかな剣のようなシルエットの高速船。

 フォースフレーム・フリート、汎用高機動艦バーゼラルド級の一隻。



 村瀬唯理の実家。

 キングダム船団所属、『パンナコッタ』であった。





【ヒストリカル・アーカイヴ】


・艦橋構造体(アイランド)

 主に艦船の上部に設置される、艦橋を内蔵する構造物。

 センサーに頼らない目視による周辺確認を行う場合に、艦体から離れた位置にある艦橋は有効に働く。

 艦橋が完全に艦内に置かれる場合は、存在しない事もある。

 艦橋構造体がそのままレスキューボートとして機能する機種もある。


・ネザーインターフェイス(ネザーズ)

 オペレーターとハードウェアを同期リンクさせる操作インターフェイスシステム。

 宇宙文明時代の基幹技術のひとつだが、根本的な原理は不明ブラックボックスのまま利用しているのが実情。

 センサーデータを脳内で直接受け取る事が出来ると同時に、原理的には脳内データをネザーズ経由で発信する事も可能。



 

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