186G.サイレントブート インファイトクイックリー

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 天の川銀河、ノーマ・流域ライン

 サンクチュアリ星系、第14惑星『ウォッチタワー』公転軌道。

 サンクチュアリ星系グループ解放作戦連合艦隊。

 センチネル艦隊旗艦サーヴィランス、航海艦橋。


 連邦中央星系解放作戦の緒戦は、ひとまず勝利と言っていいだろう。

 センチネル、連邦軍の両艦隊は星系に侵入して間もなく、第15惑星『ゲートオブランパート』と14惑星『ウォッチタワー』軌道に滞留していたメナス群と交戦。

 これを撃退・・する事に成功している。



 とはいえ、完勝とも言い難い。



『ヘイムダル、シールドジェネレーター全機再起動。問題ありません。現在簡易チェック中』

『メナス群ブラボーグループは依然中央星系方面へ移動しています!』

『14惑星宙域にメナス残存戦力、ありません。機動部隊は帰投中、警戒態勢ローテーションに移行』


「潜伏している個体の自爆攻撃もあり得る。直掩は薄くするな。

 連邦側の体制は?」


『艦隊を動かせるまで……あと24時間と通告が来ています』


「5時間でやらせろ。補修は移動中に」


 交戦したメナス群、母船型が約200万個体。うち撃破したのは、20万程度となった。

 大半は戦闘の途中で離脱し、第5惑星の本隊方面へ向かっている。

 あたかも、破壊される他のメナスを時間稼ぎに使うように。


 一方で連合艦隊のダメージは軽微だ。

 ただし、赤毛の艦隊司令、村瀬唯理むらせゆいりの表情は絞まったままである。

 艦橋ブリッジ中央に据えられた戦略テーブルを前に、腕組みし仁王立ちしていた。


 まだお互い小手調べの段階。ここで大損害など出していては話にならないだろう。

 しかし、事前の様子からある程度予想できていた事だが、連邦の行動が遅れ気味だった。

 電撃侵攻作戦ではないが、敵陣ド真ん中でのんびりじっくり完調を目指されても困るのだ。


 攻撃を受けた艦船のダメージ回復を行いながら、連合艦隊は第5惑星オルテルムへ進軍を再開する。

 同時に、星系の外で待機中の後方艦隊との入れ替えが間に合う艦は、大急ぎで移動中だった。

 艦の内外で、整備要員も大忙しである。

 次の戦闘に備え、目立つ色の作業用エイムと作業員が無重力の中を飛び回っていた。


 そんな最前線の苦労も知らず、まだ緒戦で、しかもメナスは戦術的撤退をしているのだが、圧勝という結果に方々が盛り上がりを見せていた。

 連邦艦隊では末端の兵士まで戦意を爆上げし、気が早過ぎる代理行政機構政府からは祝辞が届く。


 戦場突撃レポートを強行していた情報メディアは、空前絶後の視聴数バズりで快哉を上げていた。現場の撮影クルーは宇宙船の中で燃え尽きていたが。

 その映像が配信されていたウェイブネットポータル(サイト)では、視聴者のコメントが爆速で増加している。

 撮影隊が死にそうな思いをしながら撮った大迫力映像。

 避けられない災厄とさえ言われたメナスの大艦隊が木端微塵とされる光景に、全銀河レベルでテンションが急上昇していた。


「進攻阻止で迎撃に出てきたと思ったら、一部を遅滞戦闘に使って他は温存……戦力を集中させる。いさぎよいなぁオイ」


 やっぱり赤毛の司令は、憮然とした顔のままなのだが。


「200万、できる事なら削っておきたい戦力ではありました」


「今までもメナスは損害度外視な動きをしていたけど、それを戦略的にやってきている……。

 連邦はわかってるんだろうな? これで油断してるなら、緒戦はむしろこっちの負けだ」


 メイドさんの持って来たコーヒーを一口飲んで、戦略テーブルの上へ。

 身を乗り出し、受け皿ソーサーをツイ、と指で押し第5惑星の上へ進める。

 傷面の艦隊管理者フリートマネージャー、ジャック・フロストは後ろ手に組みいつも通りな様子だった。


「…………オルテルムはどうなってるー?」


『オルテルムのメナス本隊は惑星軌道上で回遊行動を取っています。艦隊陣形や防衛体制らしき動きは見られません』


「ロゼ、マレブランスとか特異な影は?」


「専用フレーム領域を切ってまでリアルタイムに全データ洗ってるけど、それらしいのはなーし。

 てか司令しれー、こんなに演算能力使っていいのー? 結構な割合を占有してるけどさー」


「マレブランスを一体見逃すと盤面をひっくり返されかねないからいいの。ロゼはこの作戦中、これだけに集中して」


「いいけどねー」


 艦橋要員ブリッジクルーの情報オペレーター、それと専属オペレーターのロゼッタから報告レポートを受け、考え込む赤毛の司令。

 フロストはそんな唯理の様子をうかがいながら、忠実な番犬のように無音で待つ。

 やがて、ムスッとした赤毛がつぶやいた。


「……マレブランスとの遭遇前にメナスを多少こっちに釣り出せないかなと思ったけど、そんな都合のいい作戦思い付かなかった」


「こちらへ負荷を最大にかけたところで最大戦力を投入するのが最も効果的でしょう。で、あるならばマレブランス単独で攻めて来る事は考え辛いかと…………」


「まぁ分かってはいるんだけどね。分かったところでどうにもならんが。

 オルテルムでの戦闘は死ぬほどハードなことになるだろうし、今の内に問題を分散したかったけど……。まぁ希望的観測で戦争なんてやるもんじゃないか。

 ヒーティング提督を呼び出せ! せいぜい連邦勢を脅かしておくとしようか。

 あと優速な艦で偵察部隊を編成して先行! 可能ならオリュンポスも再度捜索を!!」


 改めてカップを手に取り、グイッと一飲みに。やや冷めている。


 間もなく、小さな勝利に鼻息も荒い連邦艦隊首脳陣が通信に出ると、赤毛の艦隊司令は今後の見通しを伝えて意識を擦り合わせるブリーフィング。

 先の戦闘が、この後の有史以来最大規模の戦闘に繋がると聞き、ハゲ頭の提督以下艦隊の士官は一気にテンションダウン。顔色を悪くしていた。


               ◇


 サンクチュアリ解放作戦艦隊は、第6惑星近傍宙域に差し掛かるまで、特に障害無く駒を進めていた。

 今は、グレーから黒のグラデーションで対流する惑星大気のすぐ真横を、長大な艦列が通り過ぎようとしている。


 メナスは何もしかけて来ない。現在も、第5惑星オルテルムと軌道上を回る衛星の間を、群れを成し回遊している。

 多少数を減らしたが、依然として母艦型キャリアー1900万強個体。

 メビウスの輪のように中央本星系域を取り巻いていた。


 既にオルテルムは2億キロメートル圏内。レーザーなら0.2秒で到達する距離だ。集束有効射程を無視すればだが。

 

「司令、予定宙域に入ります。連邦にも通告を?」


「むーん……」


 フロストが報告するも、赤毛の艦隊司令はサンクチュアリに入ってからこのような感じ。

 なお、艦橋要員ブリッジクルーも絶えずメナス群の動きを監視しており、相手が攻撃や迎撃態勢を取る気配を見せていないのは分かっていた。

 だからこそ唯理も、いまいちスッキリしない心境でこの時を迎えている。


「まぁ……事ここに至っては当たってみるだけか。

 全艦隊の陣形展開。攻撃態勢。エマー4」


「了解、エマー4発令、全艦隊に戦闘陣形を指示。前衛艦隊は本艦を中心に布陣」


『連邦旗艦「ハルベルヘルド」より了解あり』

『サーヴィランス前進します。前衛艦配置へ移動中です』

『レフトウィングフリート、ロンバス陣形構築中。完了まで600秒を予定』

『予備艦隊、配置へ移動中』

『ディフェンサー、及びインターセプター発艦開始します』

『全艦データリンク確認。IFF、サイトライン同期、ステータス共有、グリーン』

『ライトウィングフリート前衛展開完了、後衛構築中です』


「一応アトランティスにも警戒させろ。向こうとも情報共有を。シミュレーション外の状況発生にも留意」


 ここまで一列に連なってきた大艦隊が、崩れるようにバラけたかと思うと、個々に移動をはじめた。

 それらは中央の陣列、左右の陣列、その後ろの予備戦力という陣列を形成。

 1千万にも及ぶ戦闘艦が一斉に動き、時にニアミスするような軌道を取りながらも、最短距離でそれぞれの戦闘位置にいていた。


 極めて高度な連携と、戦闘艦に加え艦載機まで含めた凄まじい数の戦闘ユニットを管理し得る、統合管制システムの賜物たまものである。


 対するメナスは、超巨大な魚群のような動きを取り続けたまま。

 このままでは人類側が先んじて攻撃態勢を取り、圧倒的有利なスタートを切る事になる。

 一部の人間以外は、そう確信していた。


『衛星に異常! オルテルムの衛星「サイトスキャフォード」が軌道を外れています!!』

『オルテルム主衛星、軌道離脱率上昇中。基準点180度方向面にメナス多数!』

『12000秒で復帰可能高度を割ります! 落下予測地点は南半球バイオロジカルプレーン!!』


 情報オペレーターからの緊急報告で、そのあたりの皮算用は吹っ飛んでしまったが。


 サンクチュアリ星系の中心的存在。第5惑星『オルテルム』。

 その周囲を回る軍事基地となっている衛星が、公転軌道を外れてオルテルムの地表へ向けて落下をはじめていた。

 当然、地表に激突すれば星を砕く事にもなる大惨事である。

 また、これが自然な現象であるはずもない。


 先手を取ったのは、メナスの方となった。


「直ちに攻撃隊を編成しましょう! 『サイトスキャフォード』が落ちればオルテルム奪還どころではありません!!」

「テラフォームエリアの南半球が潰れればハビタットが……! いやそもそも生物の住めない環境に……!!」

「艦隊をふたつに分けサイトスキャフォードと連邦軍本部の奪還! 後に両面からオルテルム軌道上のメナス本隊を攻撃する作戦を意見具申します!!」


 連邦艦隊側の旗艦『ハルベルヘルド』、主力戦闘艦ゼネラルサービス改級1400メートル。

 その艦橋ブリッジでは、切羽詰まった声が飛び交っていた。


 メナスが衛星を力任せに本星へ突き落そうとしている事態。

 銀河の半分を支配する先進三大国ビッグ3で最も大きな力を持つ、連邦。

 その政治的中枢であるオルテルムは、すなわち天の川銀河の中心と言って過言ではない。

 連邦圏の全住人が誇る、中央星系の、本星。

 そこが崩壊しようとするのを、看過できるはずもなかった。


『作戦に変更はない! 全艦隊は攻撃態勢を維持! 目の前のメナス群に集中しろ!!』


 これを放っておけと言う赤毛の艦隊司令である。


「バカな! サイトスキャフォードは加速しているんだぞ! 今すぐ阻止しなければ手遅れになる!!」

「本作戦目標はオルテルム奪還だ! 作戦の前提が崩れる!!」


「本作戦の目標はサンクチュアリ星系の奪還である! オルテルムひとつに・・・・・・・・・こだわって敗北するワケにはいかん!!」


「ヒーティング少将!?」


 赤毛のセリフに即キレる連邦艦隊士官であったが、これを一喝したのもまた連邦艦隊のツルっぱげ提督、ヒーティング少将であった。


 中央本星であるオルテルムは重要ではあるが、既に代理行政機構が動いているので、どうしても必要というワケではない。

 現状の問題の本質は、人類最大の国家である連邦の本拠地が、メナスによって支配されているという恐怖にこそあった。

 このパニックとヒステリーが、銀河の文明圏をマヒさせているのだから。


 よって、仮にオルテルムが木っ端微塵に吹き飛ぼうと、そこは大した問題ではなかった。当然残された住民は全滅するので、優先順位上の話ではあるが。


「布陣が終わったタイミングに合わせるとか、メナスが心理戦か……!? やっすい手で揺さぶって来やがってぇ!!」


 この胃が痛い局面に思いっきり動揺を誘う手を指され、唯理はキレ気味だった。


 何かやって来るかも、とは思ったものの、メナスがこういった人間の心理を突くような攪乱戦法に出るのは流石に想定外。

 ハゲ頭の提督が目的を見失わなかったのは、不幸中の幸いである。


「優先目標を識別しマーク! 各艦にターゲットを割り当て次第砲撃開始! 作戦通りはじめぇ!!」


 これ以上後手を踏まされてたまるかと、赤毛の艦隊司令は食い気味に砲撃命令。


『メナス群本隊に動きあり! アルファグループよりアルファ01グループが分離! 約200万個体!!』

『メナス群発砲!』


 それが復唱される寸前に、メナスの方から火蓋を切った。

 また、一部が群から外れオルテルム宙域を離脱する。


「構わん予定通りに行くだけだ! シールド艦展開! 第一目標群に対し統制射! 予備艦隊にアルファ01を攻撃させろ!」


『優先目標スペード06が惑星の陰に入ります!』


「見えないもんはほっとけ! 火力は有視界内に長時間残る奴から振り分けろ! 確実に削れ!!」


 唯理も間髪入れず応戦を指示した。

 イージス級の三艦、『グレートウォール』、『ベンケイ』、『ヘイムダル』がアンテナのようなシールド発生ブレードを引き起こしながら、艦隊の前に出て無数の荷電粒子弾を受け止める。

 そのすぐ後ろ、艦隊前列、250万もの艦艇が一斉にレーザー主砲を発振。

 メナス群の脇腹に紅い濁流を叩きつけた。


 一瞬で数万のメナス艦が弾け飛び、惑星軌道上を爆炎で覆い尽くさんほどだが、群れとしての動きは乱れない。


「予備艦隊から追撃部隊を編成しますか?」


「むうー……釣りかも知れないから戦力は分けない。さっきからこっちの動揺を誘ってやがる。別働隊作ったら作ったで何をされるか分からん。

 衛星を落として見せた時点でもう心理的にやられてるし……。今は連邦艦隊の方を落ち着かせないと」


 本隊から別れた群れは、前線を大きく迂回し隣の第6惑星方面へ向かっていた。連合艦隊の後方へ回り込む意図は明らかである。

 同時に、後方艦隊との分断、退路も塞がれる恐れがあった。

 側に控えるフロストが対応を進言するが、少し考えて赤毛は却下。

 衛星落下の時点で連邦側が浮き足立っているので、今はシンプルな作戦行動に徹し、落ち着きを取り戻させるべきと判断した。


 フロストは後方を塞がれる危険を進言しており、唯理も艦隊の心理的にヤバいとは思うのだが。

 結局パニクった連邦からは怒涛の確認連絡である。


「予備艦隊の方では……落とし切れないな」


「メナスは応射もしませんでした。損害よりも戦術目標を最優先している様子。100万程が後方に回り込むかと……」


 第6惑星方面へ回り込むメナス群は、艦隊の予備戦力による砲撃に半数近くを落とされながらもこれを振り切る。

 戦線崩壊の危険を避ける為に追撃部隊を割かなかったが、交差射撃を受けるリスクを許容したのは、やっぱりマズいか。


 前線、イージス級三艦が惑星規模のエネルギーシールドの発生を停止。

 ほぼタイムラグ無しで、レーザー砲の冷却とコンデンサへの蓄電を終えた前衛艦隊が砲撃を再開する。

 脇目も振らない当初の予定通りの攻撃により、メナス群は確実に数を減らしつつあった。


 唯理の理想としては、この攻撃態勢を維持したい。

 そもそもが、どうあっても付け焼刃。連携にも統制にも問題があるのが、人類側の艦隊の実情である。

 二正面作戦や乱戦には到底対応できないだろう。

 常に有利でコントロールの利く態勢で戦わなくてはならない。


 そこに来て、後方から撃たれる危険性ありという状態となれば、アッという間に崩れる可能性は大きかった。

 繰り返すも信じて送り出せる別動隊を作れなかったのだが。


「…………全艦隊前進! オルテルム軌道上に付け近距離からメナス群へ掃射を行う!

 予備艦隊は前衛艦隊を援護! 全艦隊は第6惑星方面のアルファ01群の射線に対して陰に入る位置へ布陣させろ!!」


 じゃあどうしよう? と激しい砲撃戦を凝視しながら考えていた赤毛は、あえて踏み込む判断を選ぶ。

 この指示に、ギョッとするサーヴィランスほか各艦の艦橋ブリッジ、またも鬼電で命令の再確認という名の命令撤回を促す連邦艦隊、何が楽しいのか薄っすら微笑を浮かべる傷面の艦隊管理者フリートマネージャー


 斯様かように各方面から正気を疑われるが、村瀬唯理は完全に本気であった。

 

「了解しました。担当オペレーターは配置転換先の位置を算出後、各艦に通知。速やかな艦隊運動を。メナスに対して隙を作らないようタイム管理の徹底を」


 フロストは迷わず艦隊司令の命令を補足して艦橋ブリッジオペレーターに伝えるが、オペレーターの方は暫し無言。

 艦隊管理者フリートマネージャーもまず赤毛の司令に命令の再確認をすると思ったのだが、まさかその命令のまま現場に下りて来るとは。


 対メナス戦においては中長距離からの大火力による徹底掃射が定石セオリーだ。

 オルテルム軌道上などもうメナスの10万距離圏内。

 いつ噛みつかれるかわからない距離である。


「フリートマネージャーは命令を達したぞ、何をやってる!? 復唱して実行しろ! 別動隊にケツ焼かれてからじゃ遅いんだぞ!!」


 そんな理由があろうと無かろうと、このタイムラグは軍組織として誉められたモノではないのも事実だ。

 上官が「飛べ」と命令したら、「どの高さまで」飛べばいいかと即問い返すのが軍である。

 赤毛の艦隊司令の怒声で、全員が弾かれたように艦隊の管制にかかっていた。


『りょ、了解! 艦隊運動をシミュレート、全艦隊に送信! データリンク更新します!!』

『レフトウィングマネージャーより了解。左翼が25Gで前進開始!』

『センターフリート前衛艦はキネティック弾射出! パーティクルジャマー展張します!!』

『5万隻が中破判定! 1万5千が大破! 前列入れ替え! ダメージコントロール対応中です!!』

『メナス端末機の射出を確認! 47Gで接近中! 個体数計測中!!』


「インターセプターに側面を叩かせ! 予備艦隊は制圧射が甘い! 前衛艦隊を守っている自覚あるのか!? 前列は陣形を整えるのを優先しろ!  崩れるとかえってダメージが拡大する!!」


「待機中のソル、ヘリオスでメナス群中央を掃射、敵の連携を乱します。キネティック弾の敷設発射で後方の敵戦力を少々足止めできるかと」


「実行させろ! 出し惜しみはしなくていい!!」


 全力で艦砲射撃を展開しながら、メナス群が取り巻く惑星へ突っ込んでいく人類軍艦隊。

 互いの間合いが1000万キロを割り、空間がレーザーと荷電粒子砲弾で埋め尽くされる。

 そこに叩き込まれるのは、剣をふた振り連ねたような開放型の砲身にて艦体を構成する、砲撃支援艦ハルバード級『ソル』と『ヘリオス』の超高出力荷電粒子砲だ。

 長大なビームの刃が、氾濫する大河のようなメナス群のド真ん中を切り裂き、混乱を拡大させる。





【ヒストリカル・アーカイヴ】


・ロンバス陣形

 艦列の前後を入れ替えやすくする目的の陣形。ロンバスは菱形を意味する。

 入れ替わる二艦が斜め前、斜め後ろに動く上で自然と艦隊全体が菱形を形成する事から名付けられる。

 攻防への対応能力は平均的。ダメージコントロールと継続戦闘能力を重視する体制となる。


・サイトライン(データ)

 自機と敵機の位置情報、及び双方を繋ぐ射線を表す。

 集団単位で共有され戦術的な攻撃を効率化する。


・ハビタット

 生存エリアの意味。人間が生きていける自然環境を形成する地帯。

 特定地域の生態系のみならず、惑星内大気組成の調整などにも寄与する天然の生命維持システムである場合が多く、失われれば人類をはじめとする生物の生きていけない惑星となる可能性が高い。


・ゼネラルサービス級(改級)

 シルバロウ・エスペラント惑星国家連邦宇宙軍艦隊で旗艦として運用される宇宙戦闘艦。

 緩く先鋭した中央船体と、4分の1程のサイズの船体が左右に接続された三胴式の形状。

 通常型は全長1250メートル。改修型は共和国のゴッドハンド級に対抗する為に1400メートルに大型化している。

 対艦対施設の大型レーザー主砲に中口径レーザー砲、多数の迎撃レーザーが合わせて約50門、キネティック兵器の発射管、と充実した火力に、エイムをはじめとした艦載機運用能力、艦隊を指揮する上で必要な通信能力に統合情報管制機能と、全てにおいて銀河最高水準と言える。

 メナスとの戦闘に耐えるよう改修されたが、メナスが強力過ぎる故に十分な性能を得たとは言い難い。


・予備艦隊(部隊)

 戦闘状況に応じて適時投入される戦力。

 最前線に出る部隊の支援、戦力の不足する戦場への投入、損害を受けた部隊との入れ替え要員、など必要応じて用いられる後詰の部隊である。

 前衛部隊の背後を守る必須の存在。

 なお、サンクチュアリ星系解放作戦艦隊における後方艦隊とは別物。




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