187G.クライムオーバー ブレイクレギオン
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天の川銀河、ノーマ・
サンクチュアリ星系中央域、第5惑星オルテルム衛星軌道。
センチネル艦隊旗艦サーヴィランス発着デッキ格納庫。
大爆発が連鎖し、異形の宇宙船の内側から暗緑色の爆炎が噴き出していた。
そんな母艦の惨状を
『ブラッディ・トループ、スマッシュホーン、ホロウサウンド、ヘッドハント・インパクター、順次発艦どうぞ!』
『センターフリート、キルゾーンにメナス端末体約400万個体が侵入。インターセプター各隊はホットベルトの内側で迎撃してください!』
『デッキクルーは発艦機の前を塞ぐなよ!!』
艦内アナウンス入り乱れる格納庫内も、戦場のような状況であった。
他の宇宙船より圧倒的に広いサーヴィランスの格納庫とはいえ、兵器の搭載数には限度というものがある。
整備ステーションとワンセットで敷き詰められていたヒト型機動兵器が、次々とゲートから飛び出していた。
動線確保に発進誘導と、発艦デッキ
トラブルを起こした
あるいはオペレーターの要望に応えて、ギリギリまでの調整を行っていた。
「400万だぁ!? 相変わらずバカげた数字だな! 連邦の連中はビビらないで付いてくるんだろうなぁオイ!!
ブラッディトループ、出るぞぉ!!」
『アニキ! グローブがランチャー増し増しで遅れてる!!』
「後から来させろ! どうせ近接防御だ!!」
ガッシリとした赤い装甲の機体、揉み上げも激しいマッチョ隊長のブラッド・ブレイズが駆る『コリジョン・マス』も、部下を率いて格納庫から発着デッキに移動中だ。
正面を見ると、同じく発艦前の連邦軍のエイム部隊を見ることができた。
今回のサンクチュアリ解放作戦にあたり、旗艦サーヴィランスには連邦軍の特殊部隊とエイムを搭乗させている。
アルカディア星系代理行政機構との接触の折に交戦した、銀河最大の超巨大軍事組織、連邦中央宇宙軍の中でもトップクラスの部隊。
第115偵察艦隊所属、特殊戦略部隊『ヘッドハントインパクター』だ。
「ヘックスM7より、H2I全機発進! オルテルムを奪還するぞ!!」
育ちの良さが滲み出る威丈夫。連邦のエリート、ニーマス・パトリック・マスターズ上級一佐もブラッディトループに続き艦外へ飛び出していく。
黒いエナメル質に
この作戦の為に間に合わせた量産型、DFAMF338 S-1001シュバリエ・フェデリティだ。
オレンジの光に満たされた格納庫から、薄暗い発着デッキ、そこから暗黒の宇宙へ。
と思いきや、そこは光の大祭となっていた。
尽きる事なく飛来する暗緑色の光弾、反撃に撃ち放たれる深紅の
すぐ近くには、本拠地である本星オルテルムの雄大な姿。
そして、無数の爆光が一瞬だけ広がっては消え、それを背景に数え切れないほどの影が飛び回っていた。
艦隊の防衛ラインと、艦隊正面側だけで400万個体を数えるメナス端末体である。
『無理だ! こんなのどうにもならない!!』
『たい、隊長! こんなのは作戦とは呼べません! ただちに撤退を進言します!!』
『ハルベルヘルドに撤退許可を! 隊長!!』
自らが連邦軍のトップガンである自覚を持ち、エリート中のエリートであるマスターズ一佐に絶対の忠誠を捧ぐ隊員たちでさえ、一瞬で心が折れる者が何人も出る光景だった。
実はマスターズ一佐も生まれてこの方無かったほどビビり倒していたが、『パトリック』という連邦を負って立つ称号を持つ誇りと、赤毛の艦隊司令と遺跡船ならばどうにかできるのではないか、という希望に縋る事でギリギリ正気を保っている。
「――――センチネルの機動部隊に先行されているぞ! 銀河で最高のエイム乗りは誰だ!? 各位、我々が本拠地を奪還しなければ今後100年の名誉を失うと思え!
ヘックスM7ナイトロリーダよりナイトロ各機は我に続け! オーキス、ネオンは距離を取り本隊を援護! ケリオンはいつでもフォローに入れる態勢で待機! 訓練通りにやれ! メナスを迎撃しろ!!」
『こ、コピー!』
檄を飛ばすマスターズ一佐は、ペダルを踏み込み一気にエイムを加速させた。
艦隊の方からオルテルムのメナス群へ接近していた為、即
艦隊による爆撃圏内のすぐ手前で、火の玉となって突っ込んでくるメナス相手に想像を絶する防衛戦が始まる。
◇
以前の人類なら、単体であってもメナスの端末機との戦闘では大損害を受けていた。
その圧倒的多数を前にしても、人類側のエイム部隊は戦意を喪失させる事なく応戦している。
レーザーの斉射と荷電粒子弾幕の交差点、空間爆撃のド真ん中を損害度外視で突破して来るメナス端末機群と、防衛ラインで体当たりで止めに行くエイム機動部隊、最終的に艦艇を守る迎撃火器。
無秩序に荒れ狂う修羅場に見えて、紙一重で戦争の形を維持していた。
『メナス群
「出だしバタついた割には予想の範囲内か……。第6惑星側に移動した奴はどうなった?」
『アルファ01群は惑星軌道をスイングバイ、オルテルム宙域へ再度接近中。接触まで1800秒!』
「減速の時間計算してんだろうなアイツら……。射線と自爆攻撃に注意」
艦隊側にも尋常でない被害が出ているのだが、それらの報告画面を見ながらも、赤毛の艦隊司令は動揺した姿を表に出さない。
味方に犠牲を出す経験など初めてではないし、必要な事をするだけだ。
21世紀とは被害の桁が5つ6つ違うので、内心はストレスで死にそうになっているが。
「このまま状況が推移すれば勝てますね」
「そんな事思ってないだろフロスト……。さんざん揺さぶりかけて来たメナスがこのまま座して壊滅する? ありえないと考えるべきだな」
傷面の
赤毛の艦隊司令は、笑えない冗談だと溜息交じりに切り捨てる。
この勢いで勝てるといいなぁ、と一番願っているのは他ならぬ唯理だ。
「んえ!? ユイリ、衛星にある連邦の基地側で爆発を確認! メナスのリアクター反応! 大き過ぎる上に波長も未確認のヤツ!!」
「――――来たか!」
案の定な報告が、柿色髪のオペ娘から飛び込んでくる。
ロゼッタにはこの作戦で最も重要な部分を監視させていた。
実際のところ、クレイモア級をはじめとするフォースフレーム艦14隻の火力を十全に活かすことが出来れば勝てる、と最初から踏んではいたのだ。シミュレーターでも勝率9割を超えている。
だがここで、メナスの最上位個体『マレブランス』という不確定要素が加わった場合、勝率はかなり怪しくなる。
艦隊が一気に崩壊しかねない。
故に、出てきたら即自分が迎撃に向かうと決めていた。
「フンッ……衛星落下に合わせて潜んでいたな。慌てて阻止に走ったら、至近距離から飛び出して奇襲する算段だったか」
「SR-0110に対処させます」
唯理が独り
片眉を上げ、不機嫌そうに傷面を見やる赤毛。
基本的に唯理を甘やかすのが生き甲斐なフロストではあるが、唯一苦言を呈すが、司令自ら前線に突撃していく習性に関してであった。
赤毛の立場を考えれば、至極当然の意見であるだろうが。
ましてや相手はメナスの中でも特に凶悪な性能を持つ、
艦隊において最も重要な赤毛娘を実戦投入する前に、部下をぶつけようというのは当然の判断である。
「ランツたちは前衛艦隊のカバー要員だよ。それにマレブランスを抑えるのは少し厳しい。
フロストの心配も分かるがね、
「必要ならやらせます。アルケドアティスとランツの部隊はマレブランスに専従させるべきです」
ここにきてフロストがまさかの強硬意見。ちょっと油断していた唯理も面食らう。しかも正論なので反論できない。
兵も装備も消耗品である。そして指揮官は最後まで生き残り、最後に責任を取るのがお仕事だ。
訳:指揮官に危ない事させる前にまず部下を殺しておけ。
そんなことは唯理も分かっているのだが。
『ワープらしき重力波を感知しました! 第5惑星垂直軸方向距離16万キロ! ロングジャンプです!!』
あんまりフロスト怒らせたくないんだけど強権発揮して出撃しちゃおうか。
赤毛の司令がそんな判断を迫られていたその時に、オペレーターから新たな報告が。
星から星へと渡る通常の航路を取らず、星系を迂回して直接オルテルム近傍へワープして来るという無謀な何かを捉えたという。
惑星から遠く離れた宙域でトラブルにより孤立する可能性を考えれば、そういう航路を選ばないのが常識だ。
では、そんな無謀な宇宙の旅をして来たのは、いったい何者か。
「このクソ忙しい時にどこのどいつだ!? SR-0110はマレブランスを牽制させろ! ランツ、直接はやり合うな!
ワープしてきた奴の詳細は!?」
『センサーデータを統合中! 巡洋艦クラスが3!!』
『通信、IFF応答ありません! シグナル受信! デコード中!!』
「光学映像拾えないの!? ネットワーク上にひとつくらいセンサー向けてる端末あるだろ!!」
サーヴィランス艦橋内のホログラム画面に、突然の乱入者の情報が次々表示されていた。
ワープしてきたのは、僅か3隻の宇宙船らしい。2000万隻以上がひしめき合う宙域からすると、砂粒のような存在だ。
しかし、送られてくる情報が普通ではなかった。
◇
ダマスカス鋼に似た有機的な木目を帯びた船体外殻。
宇宙船とは思えない、中空の開放型船体構造。
前方に長く伸びる、左右二本の露天カタパルト。その舷側から大きく広がる、翼の意匠を思わせるシールド発生器。
艦尾のエンジンナセルは、ある船は大型の単発式や左右二発、また別の船では左右二連で四発式、等と差異が見られる。
その、実用性よりも象徴性を優先させる外観には見覚えがあった。
かつて唯理が、デリジェント
一時はマレブランスと単機にて渡り合って見せた、規格外なエイムの母船だった。
しかも、今回はそれが三隻。
『来ているのはどいつだ!? 「カルコブリーナ」か!!』
『面倒ですね……。よりにもよって
『だからシューちゃんがいるんじゃなーい? エフェクトが効かなくても、シューちゃんの腕っぷしとアーちゃんの作ったエイムなら負けないでしょ』
『当たり前だ! いっそバッサリ一撃で殺してくれって泣いて頼んでくるくらいに刻んでやるからよぉ!!』
外連味の強い三隻の船から飛び出してくるのは、3機のヒト型機動兵器だ。
光を反射しない白い外装の、細身の機体。シルエットは丸みがあり有機的だ。
大腿部の前と側面に接続した可動式大型ブースターと、背面に備えた細長いユニットが特徴的。
別の機体は、肩に装備する細い翼のような部分以外、目立った武装どころか外付けのブースターすら見られない。
黒い外装に最低限の姿勢制御ブースターしか内蔵しない、戦闘用かも怪しいエイムだった。
最後の一機は、鉛色の外装で腕部が極端に大きい機体。脚部も無骨な重装甲だが、相対的に普通に見える。
次いで目立つのは、肩、腕、脚に
いずれも既存のエイムとは違う特徴を見せる、異質な機体ばかり。軍用機に共通する兵器らしさすら無い。
そんなヒト型機動兵器の3機は、未だ
船と衛星の距離は、約15万キロ。減速を考えなければ15分以内に接触する。
その前に、衛星付近のメナス群10万が本隊から別れ、たった3機の不明機の迎撃に動いていた。
『邪魔くせーな! シル! 片付けろ!!』
『やりますけど命令しないでください』
比較にならない桁違いの物量差だが、それに臆する様子もなく、黒い外装の超軽量機が軽快な動きで最前面に躍り出る。
『既にエフェクトの効果範囲内。勝手に潰れなさい。「ティアーアップ・アーム」』
黒い軽量機が肩に装備していたのは、シールドユニットや安定翼の
それを抜き放つと、まだ数万キロの間合いがある所から、メナス集団方向へ向け薙ぎ払う。
レーザーやビーム、実体のある
にもかかわらず、集団の先陣を切るメナスの
群れの進行方向から逆走するように、暗緑色の爆光がメナスの集団に連鎖する。
眩い光を受け、黒く浮き上がる三機の
天使の名を持つ、超常の者たち。
宇宙を支配する物理法則すら超越する奇跡の担い手が降臨し、銀河最大の戦場は神話への移り変わりを加速させていく。
【ヒストリカル・アーカイヴ】
・ホットベルト(爆撃網)
火砲による防衛ラインを構築する上で、最も火力を集中しやすい一帯を指す。
精密予測射撃ではなく面制圧射撃を行う場合の概念である為、味方艦載機も原則として侵入する事が出来ないエリア。
防衛連携においては、艦載機はホットベルトの内側に配置され艦砲射撃の撃ち漏らしを叩くのが基本戦術となる。
・
人類を攻撃する異形の自律兵器群メナスの大部分を構成する機種。
生物的な曲面で形作られるクサビ形の胴体、先端に生物そのままな特徴を見せる頭部、胴体の左右に節足動物に似た腕部を備える。
後部はほぼ全面が反動推進の排気口となっており、通称の通り突撃戦法に適した機能の機体となっている。
武装は、両腕部に荷電粒子砲、頭部の口腔内には高出力荷電粒子砲が内蔵されている。腕部、顎部をそのまま打撃に用いる事もあり、これも強力。
最も数が多い事から雑兵と見做されるが、基本性能で人類のヒト型機動兵器の大半を上回っており、ひとつの艦隊が
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